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オレの嫁は、異世界育ち。  作者: 十草木 田
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いざ異世界へ

「各種元栓よし。ブレーカーもよし。戸締りもよし。これで準備よし。」


 正午過ぎ、俺はすべての準備を整え、腰に下げた鍵束から鍵を取り出し玄関を施錠する。


「では、参りましょうか。お兄様。」

「よし!行こう。」


 俺は、一度気合を入れてから、足元に置いていたリュックを背負い、工場へと向かう。工場に着くと、シャッターを開けて中に入る。アンナ達が皆、中に入ったのを確認してシャッターを閉める。

 工場の奥にある扉に向かって歩きながら、まわりにある機械や工具を眺める。


「しばらく、ここでの作業ともお別れだな。」

「やはり寂しいですか?」


 俺のしんみりした雰囲気を感じ取ったのか、横を歩くアンナが心配そうに俺を見上げた。


「まー、毎日機械や工具触って、作ったり直したりしてたからな、手が寂しくなるかなとちょっと思っただけだよ。」

「お兄様は、ここでのお仕事がお好きでしたものね。」

「何か向こうの世界でも、同じような事ができればいいんだけどな。」


 ヘルミーナさんが、何かを思いついたのか、嬉しそうな笑顔を浮かべて手を叩く。


「イズミ様。あちらの世界で魔導具の制作をされてみては如何でしょうか?」

「それは、良い考えかも知れませんね。お兄様に向いてそうですわ。」

「魔導具って言うと、ヘルミーナさんが使っていた魔導ケトル…とかですか?」

「それです。それです。」


 ヘルミーナさんが、目をキラキラさせながら、両手を胸の前で握ってずいずいと近づいてくる。どうしたのヘルミーナさん、なんだかいつもと感じが違うよ。


「いや、でも、魔法を知らない俺なんかができますかね?」

「大丈夫ですわ。魔導具の制作に一番必要なのは発想力!次いで技術力です!それに、魔導具の制作であれば、わたくしもお手伝いできます。いえ、是非お手伝いさせてくださいませ!」

「ちょ、ちょっとヘルミーナさん。」


 ヘルミーナさんのあまりの圧力に、じりじりと後ずさる俺を見かねてアンナが止めに入ってくれる。マティルダさんは、冷めた目でヘルミーナさんを見ている。


「落ち着きなさい、ヘルミーナ。お兄様が困っていらっしゃいますわ。」

「はっ!…わたくしとしたことが…大変申し訳ありません。」

「ごめんなさい、お兄様。ヘルミーナは、魔導具を作るのが趣味なのですよ。」

「そうなのです。世の中を便利にしていく美しく機能的な魔導具。わたくしの夢は、歴史に残るような魔導具をこの手で作り上げることなのです。イズミ様にはそのお力があると、わたくし思います!」


 熱い、思いが熱いよヘルミーナさん。


「えっと…、魔導具作りについては、向こうに行ってから考えてみますね。」


 とりあえず、俺は曖昧な返事をしてみたが、ヘルミーナさんは止まらない。


「イズミ様。お嬢様。お願いがあるのですが、あの荷車を持って行って頂くことはできないでしょうか?」


 ヘルミーナさんが、ビシッっと指差した先には軽トラがあった。


「け、軽トラですか?」

「はい!ケイトラと言う荷車は、大変すばらしいですわ!何度か拝見させて頂きましたが、たくさんの荷物を積み、風の様に疾走する姿はとても機能的で美しいです!是非あれを魔導で動くように研究してみたいのです!」

「お、お兄様どうされますか?。わたくしは、お兄様が良いのであれば、収納の空間魔法で持ち帰ることはできますけど…。」


 俺は、んーと考える。こっちに置いておいても誰も使わないので、持って行っても何も支障は無い。こちらの物を持ち込んでいいのか?という事の方が気になる。あーでも、アンナ達も向こうの家具や魔導具をこっちに持ってきていたから構わないのかな?

 それよりも、「はい」って答えないと今のヘルミーナさんは、おさまる気がしない。


「そ、そうですね。まー別に向こうに行ってる間は、こちらに置いておいても使う人は居ませんから、別に持って行ってもいいですよ。ははっ…。」


 俺がそう答えると、ヘルミーナさんは、俺の手をぐっと掴んで上下に振り回しながら何度も「ありがとうございます!」と叫んだ。

 アンナが、部屋の片付けの時と同じように、どこからともなく光る本を取り出すと、あっという間に魔法陣の中に軽トラを吸い込ませる。何度見てもすごい光景だ。

 ヘルミーナさんが、嬉しそうにアンナにお礼を言っている。


「ヘルミーナ。そろそろ行きますよ。お嬢様とイズミ様が困っていますよ。」

「あ、ありがとう、マティルデ。お兄様、参りましょう。」


 じっと冷めた目で見ていたマティルデさんが、痺れを切らしたのかヘルミーナさんの背中を押して、工場の奥へと向かわせる。

 ふーっと俺が息を吐くと、隣でアンナも息を吐いていた。俺とアンナは顔を見合わせて、苦笑いを浮かべつつ、二人の後を追った。




 工場の一番奥まで行くと、アンナが扉の前に立った。


「お兄様。この間の鍵を貸して頂けますか?」


 俺は、腰にぶら下げている鍵の中から、数日前に青白く光っていた鍵を外してアンナに手渡す。今は何の変哲もない鍵に見える。アンナは、受け取った鍵を握りしめ、一つ大きく深呼吸する。すると、手に握っていた鍵が、再び青白く輝きだした。

 アンナは、続けて光り出した鍵をドアの鍵穴に差し込みガチャリと回す。ドアの中央に魔法陣が浮かび上がり、ドア全体が光を放つ。

 先日見た時はここまでだったが、アンナがおもむろに右手を魔法陣にかざす。金色に輝く光の粒子が、アンナの掌から放出され、扉の魔法陣へと流れ込んでいく。しばらくすると、魔法陣が金色に色を変えた。

 それを確認した、アンナが言葉を発する。


「アンラオフ」


 次の瞬間、扉が強く光を放って、光る板へと変貌する。


「お兄様。さあ、行きましょう。」


 アンナが、ニコリと微笑んで俺に向かって左手を差し出す。俺は、ゴクリと唾を飲んで差し出された手を右手で握る。そしてアンナに手を引かれるまま、光の板の中へと入っていく。光の眩しさに一瞬目を閉じる。


 眩しさが治まり目を開けると、見知らぬ石作りの壁に囲まれた部屋にアンナと俺が立っていた。アンナが、ニコリと微笑んで俺の右手を両手で握る。


「お兄様。ようこそ、ビルゲンシュタットへ。」

ヘルミーナさんの趣味のお話でした。

次回から、ようやく異世界のお話です。

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