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幕間(マクベス子爵家)

お久しぶりです。まだ死んでいません。

「父上、お考え直し下さいっ!」

「喧しい!何度言えば分かる!?」

「父上こそ、何度言えばご理解下さるのですか!?」


二人の男が言い争っている。片方は若く二十歳前後だろう青年で必死に何かを考え直すようにもう片方の中年の男に訴えているが、中年の男は聞く耳を持たず声を荒らげて怒鳴る。

それに対して青年も負けじと怒鳴り返す。


「通知を送ってしまった以上、婚約破棄については諦めます。しかし、アルトロス男爵に宣戦布告し戦争するのはお止め下さい!ただでさえ、婚約破棄によって我が家の他の貴族からの心象は下がっています。そこに宣戦布告まですれば、完全に信用を失ってしまいます!」


中年の男の名前はアグリス・マクベス、マクベス子爵家の現当主で青年の方はマクベス子爵の嫡男ウィリアム・マクベスだ。

この二人はアグリスがアルトロス男爵家との婚約破棄を決めてから何度もこうして言い争いをしていた。


その結果は婚約破棄の通知をアルトロス男爵家に送った事からも分かるように平行線で、両者の関係は親子とは思えない程冷え切っていた。


「アルトロスの倅にレビアが不当な扱いを受けていたという事と、アルトロス側が先に戦争の準備を始めていたと周辺の領主と陛下に説明する。アルトロスは滅びるから真実を知る者などいなくなる。それにさるお方からの支援もある。お前の心配するのような事は起きないぞ」

「そんな嘘を誰が信じると言うのですか……まあ、良いです。それでさるお方とは何方なのですか?」


アグリスの説明を信じる貴族などいないだろう、もしいたとしてもそれは愚か者か何も知らず盲目な善人だけだ。ウィリアムは眩暈を堪える為に額に手を当てて深く息を吐き出す。


アグリスに聞こえない程小さな声で否定して気持ちを切り替える。ここで反論すればまた不毛な言い争いになるのは分かり切っている。

それよりも自分の父親を操っている黒幕の情報収集した方が断然有意義だ。


「お前は気にしなくても良い事だ」

「……そうですか」


予想通りの返答だったからこそ落胆はしない。そもそも目の前の男が黒幕の正体を知っているとは思えないし、指示を受けていたとしても相手は精々黒幕の手下で最悪トカゲの尻尾のように切り捨てても問題ない人物のはずだ。


少なくてもウィリアムならそうする。アグリスに黒幕が正体を晒すなど万が一失敗した時の事を考えれば危険過ぎる。何処から情報が漏れるか分かったものではない。


「話はもう終わりか?」

「……はい」

「そうか、ならば出ていけ、私も暇ではない」

「それでは失礼します」


例の黒幕の支援で雇われたらしい傭兵の増加による領内の治安の悪化、財政を先細りさせるであろう重税、話すべき事はまだ多くあったがこの様子ではどう頑張っても平行線に終わることが目に見えていた。

ウィリアムはアグリスに一礼して部屋から退室した。


部屋から出ると扉の隣に立っていた衛兵に無遠慮な視線を向けられるが、無視する。廊下の端で待機していたウィリアムの専属従者のトムが自然な動きで斜め後ろに位置取りウィリアムに追随した。


「いかかでしたか?」

「トム、聞こえていただろう?いつも通り平行線だったよ」

「いえいえ、見ての通りあちらの怖ろしい衛兵に睨まれていたので扉側には近付けなかったですよ」


ウィリアムはトムに胡乱げな視線を向ける。昔からの付き合いだが、あの程度の輩を怖れる事はないと知っているし、あの部屋の壁と扉は厚くないのであんなに大きな声で言い争えば廊下まで聞こえているだろう。


「いや、言いたいことは分かりますけど……あいつ、ヒモ付きです」

「なるほど、合点がいったよ。迂闊な真似は出来ないね。それはそうとマシになってきたとはいえ、もう少し言葉遣いは何とかならない?ヒューリに知られたらまた説教を喰らうよ」


「うへぇ……他人の前では取り繕うことを覚えたんですから良いだ……じゃなかった、良いのではないでしょうか?」

「全然駄目じゃないか……君は良い意味でも悪い意味でも変わらないな」


トムは子供の頃の夢が冒険者になる事だったからか、侍従長の息子なのにも拘らず素の言葉遣いが荒い。

昔はよくそれを親のヒューリに見つかって怒られる光景が見られた。


「仕方ないだろ、性分なんだから。あっ、そうだ。この間見つけた蜘蛛の巣がどんな蜘蛛が張ったのか、大体予想がついたってよ」

「へぇ、それは僥倖だね。それと、口調がまた昔に戻ってるよ」


ウィリアムはトムの言葉を聞いて笑顔を浮かべるとトムの口調を指摘しながら頭の中で行き先を変更する。予定としては文官達の仕事を手伝う予定だったのだが、後で説明と謝罪をするとして自分の部屋に向かう事にした。


「おっと、いけない。こほん、詳しい人物に聞いたのでまず間違いないかと」

「分かった。じゃあ、詳しい話は僕の部屋でのんびり聞こうかな」

「部屋に入ったら無礼講でよろしいですね?」

「君と僕との仲だ、全くもって構わないよ」


ウィリアムがでも、と付け足すとトムは分かってます、と頷く。ウィリアムがトムと二人で自室に行く時のいつものやり取りだ。それでも普段口調が素に戻ってしまう時があるのだからあまり効果がないのかもしれない。

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