問い
お久しぶりです。結局かなり時間がかかってしまいました。
「アレン、会議中とはいえもう少し砕けた感じでも良かったんじゃぞ?身内しかおらんし、皆マルスで慣れておる」
「いや、今から慣れておいた方が良いだろ。爺様たちなら多少の失敗して無礼な言動しても問題ないし」
「まあ……それはそうじゃがのう」
会議が終わったので堅苦しい言葉使いを辞める。前世の頃から敬語とかが苦手だったが歳を重ねるごとに苦手を克服した…はずだったがこちらに転生してからまた苦手になってしまった。
原因は貴族なのにも関わらず礼儀やら何やらが苦手で堅苦しいのが嫌いな家族だろう。
「お主は昔から我が儘をあまり言わぬし、言う事も良く聞く子ではあったがのう、多少我が儘になっても良いんじゃぞ?」
「今は十分我が儘だろ、執務室から抜け出して仕事サボったりしてるぞ?」
「いや、儂やマルスと比べれば随分少ないと聞いている、儂らなんて一時間も執務室の椅子に座っておったら病気かと心配されるほどじゃぞ」
「爺様……」
道理で俺が仕事をサボることにリリスとクライス以外が寛容だった訳だ。そんな頻度で脱走されてたのなら、一日に一回程度のサボりや脱走は大目に見るようになる。というか、父上が度々脱走することは知っていたが爺様もとは思わなかった。
爺様に呆れを含んだ視線を向ければ爺様はばつが悪そうに目を逸らす。だが、咳払いをして居住まいを正すと、真剣な表情をして俺を見る。
「つまりはじゃ、儂が言いたいのは今のうちに出来る限り悔いを残さぬようにしておけという事じゃ。この度の戦は無論勝つつもりで挑むが、儂らが勝つ即ち誰一人死なぬという事ではない……ましてや奇襲部隊は危険な役目じゃ、五分どころか十中八九死ぬことになる。じゃから悔いは残すなと言っておるのじゃ」
「分かってる。それに人は何時か思いも寄らない時に死んだりする、遅いか早いかの違いだ。……覚悟は出来てる」
「……っ!」
後ろから動揺する気配を感じた。表向きは主人と従者だが上下関係が緩く、家族同然に育って来たんだからほぼ確実に死ぬと聞かされてはリリスでも動揺するだろう。
早々死ぬつもりはないが、この世界に転生する時に覚悟は固めてある。毒殺やら暗殺、謀殺は御免だが、戦場で戦って死ぬなら武人としては本望だ。
「……達観しておるのぉ、妙に達観しておる。悪いとは言わんが、祖父としてはもうちょっと生に執着して欲しいものじゃ。死んだことでもあるのか?」
「死んだことあったら、今ここにいないだろ。あと、俺の覚悟は死ぬ覚悟であって死に行く覚悟じゃないぞ。俺は死兵になったつもりはない」
「そうじゃの、わはははははっ!」
「爺様、叩く力が強いぞ」
今俺の顔が引き攣っていないか心配だ。爺様は冗談のつもりだったのかもしれないが、的を射すぎていて思わず冷や汗をかいた。
ちょっと痛いが爺様が笑いながら背中を叩いてくれていることに感謝だな。多少顔を顰めた程度なら誤魔化せる。
「孫の成長とは嬉しいものじゃ、ついこの間までこんなに小さかったのにのう。リリスもそうおもうじゃろう?」
「何年前の話をしてるんだよ」
「今まで中身が育たなかったのでそう見えていたのでは?」
「……お前なぁ」
(精神は前世で成熟してるから成長しているように見えないのは不可抗力だ)
爺様が手を座った状態の胸の辺りでひらひらと横に振って笑う。話をリリスに振ったときにそっと俺にしか分からないように目配せをする。
分かってると、リリスの毒舌への反論を胸の内でしながら目配せを返す。……リリスの声に動揺の色は見えないが後でしっかり話した方が良いだろうな。
「ははは、リリスはクライスに似て辛辣じゃのう。ま、それでも全盛期のクライスには劣るがの。主に死ねと言うのはあやつぐらいじゃろうて」
「なるほど、精進いたします」
「うむ」
「精進いたしますじゃねぇよ、自重しろ!爺様も、うむじゃないだろ!?」
空気を変えるためだというのは分かっているが、リリスに変なことを吹き込まないでほしい。昔は慇懃無礼ぐらいだったのに、どんどん口が悪くなっていく。自分に被害がないからって遠慮がなさ過ぎる。
「落ち着くのじゃ、クライスが言われたこと以外は冗談じゃよ」
「……冗談です」
「リリスの方は冗談に聞こえなかったぞ」
リリスに目を向けても悪びれもなく直立不動の体勢をを崩さない。
「そうは言うがのう、リリスがどんどん失礼になっていくのはお主のせいじゃぞ。自覚あるじゃろ?」
「うっ……」
「お主がリリスに甘いからよ。多少怒りはするが、罰したりはしないじゃろ。ま、儂らにも言えることなのじゃがな」
そう言われると何も言えない……昔から一緒にいて部下というよりも家族として扱っていたので、叱ったことはあったかもしれないが、罰したことはなかった。
「説得の方法はお主に任せるが蟠りは残さないようにの、それと泣かせるのは論外じゃ……さて、儂は言いたい事と訊きたい事は済んだし、儂はリアに事の次第を説明してくるわい。後は若い二人でごゆっくりの」
「爺様、余計なお世話だ」
「この一大事を前に耄碌するのは冗談になりませんよ」
「おお、怖い。では失礼するぞ」
俺とリリスの怒気をどこ吹く風で受け流し、呵々と笑って部屋を出て行った。
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