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第二話 犬のお巡りさん


 寝起きは冷たい水によって最悪だった。

 顔を手で拭き、濡れた黒髪を上げて目を開けると、目の前には赤い髪の少女。先の事件の少女がいた。

 部屋は素朴で殺風景で、花がない部屋。部屋の真ん中に机があり、それを挟むようにコウタと少女は座っていた。


「さて、変質者さん。まずは話を」


 起きて早々変質者扱い。しかも少女に言われると、胸をえぐられるようなそんな辛い心境に陥ってしまう。内心号泣。外面では苦笑をしつつも反論をする。


「話って何も知らねぇよ。俺はただ異世界ライフを満喫しようと」


「何言っているか分からんな。やはり変質者。これは牢獄行きかな」


 そう少女はニヤリと笑みを浮かべる。対しコウタは固唾を飲み込んだ。

 瞬間、背後から野太い声が聞こえてきた。


「おやおや、衛兵さんごっこかい?」


 扉の前にはいつの間にか男がいた。ボサボサの赤髪で、犬耳を持つ。腰には華美で大きい、例えるなら西洋剣を装備していた。服の上からでも分かる筋肉で、内心コウタは憧れを抱いた。


「ち、違うもん!ちゃんと衛兵ギルドに入った大人なんだから!」


 すると耳を疑う、いや今までの言動に耳を疑うべきだったが、間違えなく子供らしい口調の主は少女からの発言だった。先ほどまでは威厳があるように見えた。しかし、今はまるで親が子をからかう様子。


「てっもしかして、二人は親子だったり」

                 

「お、気付いたか?俺は衛兵ギルドの幹部やってるナーベラ=イギルザだ」


 差し出された手を凝視。鍛え抜かれた体に似合うその手に惚れつつ、その手を握る。


「俺は―――――」


 ここで考えた。光太なんてダサい名前をここで名乗っていいのか。いやだめだ。

 この一秒経たずの刹那の間に名を考えた。カリバーン、ドラグノフ。様々な名前が脳裏を横切る。そして―――――。


「俺はカリバ――――――」


「カルマ=コウタだって。変な名前」


「ちょ、俺は」


 横からまさか本名を言われるとは思っていなかったコウタは、動揺する。


―――――そうだ、こいつ広場での俺を見てたんだった。


「ほぉ、カルマ=コウタ。そりゃ変な名前だな」


 ナーベラは大声で笑う。コウタは歯を食いしばって、ナーベラの巨体を殴ろうとしている手を必死に止める。その二人の横では少女が頬を膨らませて拗ねていた。


「私がこの変質者を逮捕するのに」


 その言葉を聞いてナーベラの顔から笑みが消えた。

 ずんずんと足を踏み鳴らして少女に近寄った。そして、左頬をその大きい手のひらで叩いた。パシンッという音が部屋中に響き、静寂をもたらした。

 そして、ナーベラは少女の背の高さに合わせるようにしゃがみ口を開いた。


「逮捕するってことはな、その人の人生を大きく左右することだ。逮捕するだけが衛兵の仕事じゃねぇぞ。それが分からないなら衛兵ギルドの下っ端でも何でもねぇ」


 そんなに怒ることかと、しかし確かに教育は必要だろう。それでも叩くことはないだろう。恐くて声に出しては言えなかったが。

 少女は泣き目になりながらも堪えて、「はい」と震える声で言った。


「よし、あと変質者っていうのはやめろ。失礼だ。そいつの親が付けてくれたものを粗末にするな」


 そしてナーベラは立ち上がり「もう用はないからさっさと出ていけ」とだけ言ってドアから出て行った。

 巨体が居なくなったこの部屋はより広く感じる。そこに取り残されたのはコウタと泣いている少女。この状況を何も知らない他人が発見するとどうなるのだろうか。考えたくもない。

 もうここにいる必要はない。とにかくこの場から早く去りたいコウタは、少女に背を向けてドアから出ようとした時―――――。


「ごめんなさい」


 謝罪がボソッと聞こえた。

 それに対しコウタは「別に気にしてないから良いよ」と答えた。後ろを振り向くと―――――。

 服をめくり、腹が見えるようにして、床に寝そべっていた。

 元の世界での愛犬を連想させた。


「太郎?」


 自然と体が引き寄せられ、気付けば少女の白いお腹を触っていた。

 プニプニとした感触、突くたびに声を殺しながら喘ぐ少女。


—――――んー、たまらん。


 すぐ後ろ、ドア奥から鋭い視線がコウタを睨んでいた。

 コウタに悪寒が走り、その手を退ける。


「ま、俺もこれからは静かに生きるから。じゃっ」


 コウタは足早に部屋から出ようとした。しかし、少女はコウタの腕を掴む。


「謝罪ってことで、ご飯でも奢るよ?」

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