みかんを剥けない人
お久しぶりでございます。
ペンネームを改めて緩やかに活動を再開させていただきました多治凛でございます。
本日はわたくしが書いた短編を投稿させていただきました。短いですが是非ご堪能ください。
私の夫はみかんを剥けません。正確には自分で剥かないのです。なんでも、果汁で手が濡れるのが嫌だとか、手にみかんの香りが残るのが嫌だとか言うんです。私は仕方なくこたつの上に積んである橙色の山から一つ取って剥き、新聞を読む夫の前に置いてやります。すると夫は実に旨そうに食べます。好きなら自分で剥けばいいのにと毎度思います。赤切れに果汁が染みるため、あまりやりたくはないのですが。
そんな夫は先程接骨院から帰ってきました。居間でうつぶせになって腰をさすっています。無理もありません。ついこの間のクリスマスと正月に、うちを訪ねた五歳の孫の遊び相手になっていました。今年で七十になる夫には相当応えたようです。それだけでなく、子供二人と孫四人の面倒を見てきた夫です。あまり広くない背中から子供や孫の笑い声が聞こえてきます。夫が面倒を見てくれるお陰で私や娘夫婦が家事をやりやすかったです。
料理に夢中になっていたせいで洗濯物を取り込み忘れました。日が短いため、窓を見ると外の家々の明かりを宵闇がより一層強調していました。しかし、明かりを遮る洗濯物はすでにベランダにありませんでした。知らぬ間に夫が取り込んでくれていたのです。テーブルの上に洗濯物を広げ、私以上に丁寧に綺麗に時間をかけて畳んでいました。おかげで洗濯物が湿気を吸わずに済みました。
料理が完成し、テーブルへ運ぶころには洗濯物は片付いていました。今晩は料理の品数を増やしすぎました。運ぼうとすると夫が半分以上運んでくれました。そしてテーブルの上にご飯は左、汁物は右、主菜などは中央とまたしても整然と並べました。
そして二人で向かい合って食べます。食べてる最中にみかんを二つ剥いて一つを夫へ。もう一つを自分のところへ置きました。夫はすぐにみかんを子供のように美味しそうに食べ始めます。それを見ていると私も自然と笑顔になります。なんだかんだいつも夫を甘やかしてしまいます。
読了有難うございます。楽しんでいただけたら大変うれしゅうございます。
この話は私の祖父母の話を基にして作っております。祖父母は大変仲がいいです。
感想や評価をいただけると嬉しいです。
明日も短編を投稿させていただこうと思います。
では、失礼します。