3話
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翌日。
学食で待ち合わせる事にした。 先に来た智也とひとみが約束の15分前に着いた。
すると、少し経ってから、由が現れた。 何か、昨日の電話の内容で、妙に意識してしまい、モジモジしながらの登場である。 そんな事は気にしてない ひとみが。
「由ちゃ~ん、ココ~...」
なんて、普段と変わりない口調で手招きをする。 気が付いた 由は、さらにモジリ度が増す。
座る智也を目の前にして、何だか気まずいと言うよりも、気恥ずかしい感じだった。
「由、ちょっと久しぶり」
「うん、智也 久しぶりだね、ゴメンね 寛子が... 、ホントにごめんなさい」
「いや、もういいんだ。やっと済んだ事だから」
「私も寛子には、ガツガツしないで とは言っておいたんだけど、殆ど彼氏の居ない歴が少ない彼女は、きっと焦っていたんだと思うわ」
「だとしても、あんな 攻め と言ってもいいような迫り方は、あまり聞いたことがないけどな」
「普段は結構いい子なのよ」
「でも、恋愛には積極的と言うか、攻撃的なんだな」
「そうね、それで時々失敗してるの」
「それさえ無ければ、容姿は普通に良いんだがな、そこだけが惜しいんだな」
話を変える ひとみ。
「由ちゃん、そんな話をしにきたの?」
「あ、いえ...」
「昨日と一緒だ、また黙ったな 由」
「もう気づいてるんだよ、私達」
「え?...」
「由ちゃんのお兄ちゃんに対する気持ち」
「そ、そうよね、昨日電話で感づかれたと思ったのは、何となく分かった、雰囲気で」
「ありがとう 由...でもな、今オレは恋愛が怖いんだ。もちろん、由の事がオレは好きだ、これは 多分初めて会った時の、あの湿布を貼ってくれた時から徐々にだと思う」
「じゃあ何で? 寛子への断りは何だったの?」
少し考えながら、智也は言う。
「恋愛を急がせ過ぎなんだよ、寛子は...」
「なぜ急ぐ、なぜ急かすんだと... 。ゆっくりでいいじゃないか、と思ったら、何だか寛子の愛情表現が、うっとうしくなってきて、最後には嫌悪感さえ湧いて来たんだ」
「そうなの?お兄ちゃん」
「う..うう...御免なさい智也」
「いや、由は全く悪くない、謝らないでくれ、これ以上」
さらに、智也はひとみも知らない事実を告げた。
「いいか、ひとみも聞いてくれ...」
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実は、智也は大学一年のGW前から付き合い始めた彼女が居た。出会いは、サークルに入ろうかどうしようかで迷っていた時、同じサークルで、同じく迷っていた女の子から声を掛けられた。 そこから始まった恋愛で、意気投合した彼女と付き合い始めた。
付き合い始めはとっても幸せな日々が続いて、智也も彼女も学校へ来るのが楽しみだった。 それが、4ヶ月もした頃からだろうか、彼女の態度に変化が出始め、夏休みが終わり、再び講義を受け始めるころには、メッセージのやりとりも、少なくなってきた。確かに付き合ってはいた、だが、彼女はお姫様で居たかったのだ。
「他に好きな男が出来たの?」と聞いても、「今はもう居ない」と、智也の気持ちも拒否するような言い方で言ってきた。 浮気ではなく、人からチヤホヤされたい、アイドル思考が強かったのだ。
そうなると、落ち着いた雰囲気の 智也では、物足りなくなり、急速に気持ちが離れて行くのを肌で感じた。
一切の連絡はおろか、殆ど会わなくなった彼女は、大勢が入会する演劇サークルに入っていた。
その瞳はキラキラで、たまに見る姿は眩しい物だった。 それを見た智也は。
(今までありがとう。今後の活躍を見守るよ)
と心に ケジメ をつけた。
独り言で... 。
(しばらく 恋愛は いいかな?...)
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「...とまあ、こんなことがあったんだ。ひとみも気が付いてなかったと思うが」
「何でその時に、相談してくれなかったの?(何となく気付いてはいたよ) お兄ちゃん」
「言えないさ。だって、ダサいだろ?オレ...ははは...」
「......も.や」
「え?」
「いい訳ない。...言い訳ないよ、智也」
涙声になりながら 由がさらに言う。
「何よそれ、一方的じゃない。しかも、アイドル気質の女? 冗談じゃないわよ!そんなのは自分勝手って言うのよ。悔しくないの?智也」
周りなど気にせず、泣きながら言う 由。
「イヤいいんだ、俺さえ押さえきれば...でも、アイツのお陰で、恋愛のトラウマが残ってしまったけど」
「お兄ちゃん、そんなトラウマ、私がどうにでもして見せるから」
「はは・・・、ダメだぞ俺たち兄妹だからな、それに、恋愛ビビりだし、さらに、昨日の事で、さらに進歩してしまったかな?...」
「そ・んな...ともや...」
「おにいちゃん、その女って誰? とっちめてやる」
「やめろよ ひとみ、この話をすると、同情してくれた人が、仕返しをするかもしれないんで、名前だけは言わないんだ。最も、今まで誰にも言った事はないんだが。ま、いずれは分かると思うけどな、いずれは...」
「これからの私に、チャンスは無いの? 智也」
少し間を置いて。
「う~~ん分かんない、この気持ちはどうしようもないと思う、だけど、明日治るかもしれないし、1年後かもしれないし、もしかして、運命的な何かが働いて、スッキリ出来る相手が見つかれば、とも思うけど...」
「お兄ちゃん...」
「う..うう......」
聞きたくなかった事実が、由 の恋心に水をかけた。
◇
「と~もや。今日お昼一緒に食べない?」
「ああいいよ、でも、ひとみも一緒だぞ」
「いいよ、楽しいから」
「まだ講義が残っているから、後でね。メッセージ送っとくから」
「おう、後でな」
「うん」
智也は、昨日の話の後も、決してそのまま人を避けたりしなかった。それだけでもまだ周りに居る者たちには、安心が出来た。
(でも、本心はシンドイだろうな、何とかしなくては...)
そう思う 由だった。
「由 、どうしたの? 浮かない顔して」
「寛子...ううん まあちょっとね」
「はは~ん、男だな」
「う......」
「分かりやす~い、由。かわい~」
「もう、止めてよ、からかわないで」
「...で、お昼何処で食べるの?」
「.........」
「なに?言えないの?」
「と、友達と...」
「言えないんだ...」
「その......」
「いいよいいよ、分かってるから、邪魔はしないよ、行っといで」
「ありがと」
「えへへ...じゃね、また」
「うん」
これから智也と会うなんて、寛子には到底言えない。もし二人が出くわしたら、また寛子の罵りが始まりそうで、智也がかわいそうになる。そう考えての黙秘だった。
待ち合わせ時間は午後1時。 学食に着くとすでに智也は座って、スマホを触っていた。
「お待たせ。待った?智也」
「イヤ全然、さっき来た所だからな」
「優しんだ...」
ちょっとした沈黙、破ったのは...
「由 じゃないか?」
声の方を向く 由
「宏...」
「半年ぶりになるかな? 元気か」
「う、うん」
「そっちは?」
と聞いてくるこの男は、平 宏同じ2年である。 約、半年前まで、由と数ヶ月だが付き合っていた事がある男だ。
「この人は同じ2年の 伊藤 智也くん」
「へえ、今彼なの?」
「付き合ってはいないけど」
「へえ、じゃあ、今は絶賛いい雰囲気なんだ...」
「そういう訳では無いかな」
「なら・・・、(宏が智也を一瞬チラっと見て目線をふたたび 由に戻す) オレと、復縁しない?」
「「!!!」」
智也と由が、宏を見て驚いた。
「なあ、いいじゃん。今 彼無しなら」
「でも、私はあなたと別れたから」
「そんなのいいじゃん、オレも 由も今はフリーなんだし」
智也が口を挟む。
「由が嫌がっているようにしか見えないんですが...」
宏の目が智也を睨むと。
「付き合って無いのなら、お前は口を挟むなよ、ひっこんでろ!」
「でも、どう見ても、あなたとの事は嫌がっているとしか見えないんですが」
「何だと!! いい女は元カレに収まるのが安泰なんだよ、文句あるのか?」
「ありますね。 そもそもイヤイヤじゃないですか」
「何かコイツ、うるせ~な、ほっといてオレと行こうぜ、由」
由の手を掴み、立ち上がらせようとした時に、智也の手も由の手を掴んでいた。
「なんだ? 女の取り合いか? オレは腕っぷしの良いのが取柄でな、お前みたいなヒョロ長なら指一本で終っちまうけど... 、やる?」
「あなたが望むなら、いいでしょう」
「10秒もたないぜ」
「その代わり、あなたが参ったと言ったら、ゆゆはオレが貰いますから」
由の瞳が見開いた。
「あははははは...笑わせてくれる、じゃあここではなんだ、人目のつかない場所に移るか」
「いいでしょう」
「はは、良かったな、少しでも、痛いのが後になって...ははは」
(智也... 、コイツ ヤバいんだよ、やられちゃうよ)
と、 由が思っていると
「ボコボコにされたら、介抱してくれ ゆゆ」
「はは、大丈夫だ、立って帰れるくらいにはしといてやる」
そう言って学食の騒めきを後ろに訊いて、学内にある、裏庭の鬱蒼としている所に連れて来られた二人。
今までにもここで色んな暴力をしてきたんだろうなと、宏の事を見る。
「なんだ?謝って済ませる気か? だが 俺は由とやり直したいんでな、悪いな.....って 行くぞ!!」
いきなり脇腹を狙ってきた、それも2発連続で。 少しよろめいた智也だが、何とか踏みとどまって宏を再度見る。
「何だ、見事に当たってるぞ、そんなんで良く俺に歯向かおうとしたな、そこだけは褒めてやる...が それそれ!!」
今度は右肩をめがけてまた2発狙ってきた。 コレも同じところに当たった。 さすがに智也もよろめく・・・、そこへさらに腹に1発当ててきた。 これには耐えきれず、智也はうずくまるように、倒れた。
「う~......」
「な~んだ、1発も返せないうちにダウンか、情けないな、これで終わりだとはな」
「智也!......」
倒れている智也に近づく 由。 それを阻めるように、由の腕を掴み、連れて行こうとする宏だったが。
「ちょ、待て! 」
振り向いた 宏
「何だまだ出来るってか?」
「その手を放せ、チャラ男 いや 敗者だお前は」
「あはははは、この状況を見て、何言ってやがる、お前こそ 敗者のくせに」
「いいから、由から離れろ、ゆゆは俺のモノだ」
その一言で、由は智也の目を見る。
「まだ言ってるのかてめえ!...それそれそれ!!」
「........」
「......な」
「どうした? 当たってないぞ」
「なにい!...そらそらそら!!...」
「.........」
「...?!!!」
「何やってるんだ?カスリもしないぞ? どうした? さっきのヒットは...」
「なにを!!..それ! とりゃ!」
「...そら、どうした? ぜんぜん 当たらないが」
「くっそう~...せい!!」
宏の攻撃はそれ以降、全くかすりもしないで、只々、宏の体力を奪っていくのが目に見えて分かった。
「どうだ、素人の空振りは結構体力に来るだろう...」
「はあはあ..はあ..はあ...」
しゃがみこんだ宏に、智也が。
「こちらから攻撃してもいいか?」
「なにを!!…ぜい はあ...く、くそう..」
「.........」
「......なあ」
「なんだ?...はあ...ぜい..」
「もうやめないか?」
「な...にを...うぅ...」
宏が膝まづいた、息も荒い。
「オレが今ここで、お前を投げ飛ばす事は、他愛も無いが、オレからは攻撃はしたくないんで、コレで許してくれないか・・・平」
「お..まえ..なんの..かく..とうぎ..を...」
「そんなん、どうでもいいだろ? まだ続けるのか?」
「い、いや、もう無理だ、ま...参ったから、もう好きに..して..くれ」
「それじゃあ、ゆゆ はオレが連れて帰るからな、有難う 平、じゃあな」
智也は由を連れて、そのまま家路についた。
そのまま自宅に 由を連れて帰るが、母親は買い物で居なかった。
智也を見たひとみが
「お兄ちゃん、もしかして、やられたの? お兄ちゃんが?...」
「いえ、そうじゃあないわ、智也は見事に私を助けてくたの...智也...ホントに有難う」
「何? お兄ちゃん、手加減したの? いい人すぎるよ~ ホントに...」
「はは、でも、アイツだけには ゆゆ を渡したくなかった..」
「智也...ありがとう、私のために」
「何かあったのねお兄ちゃん、しかも、由ちゃんの事で」
「良く分かるな、ひとみは」
由が先ほどの宏との一部始終を事細かに話した。内容が終わりの方になるにつれ、由の顔が赤くなっていった。
「うわ、カッコいいじゃない、お兄ちゃん、ナイト みたいで」
「そんなカッコよくはないぞ、でも、ゆゆを助けられて良かったな」
「ねえ 智也」
「なんだ?」
「さっき言った事って、本気だったの?」
「な、何の事なんだ?...あ!忘れてくれ、ゆゆ」
「なになに? これは聞き捨てならない様な案件ですね?」
ひとみに耳打ちして、事を話す 由。
「おにい~ちゃあ~ん...2度もはっきりと、そこまで言っといて、女の子の気持ちを踏みにじる気かな~...?」
「あ..いや...なんと..言うか..だな」
「もう!観念しなさい!!」
「ぐ......」
「ハッキリ 由ちゃんが好きと、告白しなさい!」
「うう......」
「さあ・さあ・さあ。...言っちゃいな」
「あ~・・・もう・・・」
智也は意を決して続ける
「高橋 由さん、ホントのホントは出会った時から気になってましたが、今はもう好きになってしまいました、こんなヘタレだけど、これから末永く 付き合ってください」
「由ちゃん、ど~ぞ」
「あ、はい... 。ありがとう智也、とっても嬉しいわ。私こそ智也が大好きです。これからずう~っと長く一緒に居させてください」
「わ~~い やっとコレで私のつっかえてた物が、綺麗に無くなったよ~。お二人さん、幸せになってね、お兄ちゃん ゆゆ姉ちゃん」
◇
僕たちの馴れ初めは、図書室からだった。