１話
１
智也 と 由 が出会ったのは、大学２年の時、校内の図書室での出来事がきっかけだった。
◇
「ひとみ～！ まだか～！ 置いてくぞ～．．．」
「あわわわ・・・・、待ってよ、お兄ちゃん」
「置いて行っちゃおうかな～．．．」
「ええ？待ってよ、後リップ塗って終わりだから」
良くある朝の忙しい風景が、ここ 伊藤家にもあった。
兄 伊藤 智也１９歳 大学２年生。 妹の 伊藤 ひとみ（いとう ひとみ）１８歳 大学１年生。 兄妹揃って同じ大学に通っている。学部は違うが、講義の時間が被ると、ひとみが兄 智也に、一緒に行くから、車に乗せてって と言う事が、ここ伊藤家では良くある光景だ。
ひとみが大学に入ってから 約一ヶ月半になる、先週まで ＧＷ だった。
「お前はメイクなんかしなくても可愛いのに、そんな時間があったら、支度を早くしてくれ」
「．．．．．．．．．．．．」
「何どうした？ 固まって．．．」
「．．．．．．あううう．．．」
「ひとみ？．．．」
「お兄ちゃん、そんな事言わないで．．．、何か恥ずかしいよ～」
「兄妹で、何恥ずかしがっているんだ？」
「もう！いいから、行こ！！」
「勝手なやつだな」
智也の車（母親のお古の軽自動車）に乗り、二人は大学に向かう。
途中、いつものコンビニに寄って、智也は好物のレタスサンドと、無糖のカフェオレを買う。ひとみは玉子サンドに、ストレートティーだ。
会計を済まし、二人で車に乗る。いつもの様に、運転中の智也にひとみがサンドウィッチのパッケージを開けて、手渡す。まるで傍から見たら、カップルみたいである。
大学に着き、車を駐車場に置いて、二人で学内に入っていく、コレも見た目は、付き合っているカップルみたいである。そこからは、欲しい講義は違うので、別れて、それぞれの部屋に向かう。
また後でと言い、分れて智也は先日の講義の内容で、調べておきたい項目があったので、そのまま図書館の方に向かう。
思い通りの図鑑を見つけ、取り出し、少し重いので、抱えて机に向かう。すると、書棚の角を曲がろうとした時に、角で人とぶつかった。相手は同じくらいの年齢の、女の子だった。
軽くぶつかったので、どちらも倒れはせずにいたが、相手の娘が持っていた本とノート、筆記具が落ちた程度で良かったが、智也の方は、図鑑のちょうど角が足に当たり 「いてっ！」 と言う言葉が出てしまった。
その女の子の落とした物を一緒に拾っていると。
「ごめんなさい、大丈夫ですか？」
と、女の子が聞いてきたので。
「はは．．．大丈夫．．．かな、はは．．．じゃあ」
と言い、智也は サッと 図鑑を拾い上げて、その場を去ろうとした。
「待って」
「はい？」
「その本では大丈夫ではないでしょう？ 足、見せてください」
「え？．．．いえいえ、ちょっとだけ痛みますが、多分大丈夫でしょう」
「私、湿布を持っていますので、見せて頂いて、赤くなっていたら、貼りますので、一度見せて下さい」
見せる見せないの、ちょっとした攻防があり、根負けした智也が、席に座り、足を見せた。
「まあ、大変。 結構赤くなってるんじゃない」
「そうかな？」
「とにかく、冷やしましょ」
と言い、ポーチから冷感湿布を取り出し、智也の患部に貼った。
一連の出来事に、智也は 少々恥ずかしくなり、顔が赤くなっていた。それを見た 彼女が。
「顔、赤いですよ」
「は、はあ．．．最近あまり女性と話した事が無いので」
「そうなんですか。でも、やってる私も実は、恥ずかしいんですよ」
「じゃあ、お互い様ですね」
「変なお互い様ですね、うふふ」
「あはは．．．」
それから、少し話しやすくなった二人は、自己紹介をし 名前が 高橋 由で、智也と同じ２年だあることが分かった。その後、暫く他愛もない事を話した。
「明日も見ますから、この時間にこのテーブルに来てくださいね」
「そんな悪いですよ」
「いいんです。私のエゴですから、あ！それと、逃げないように、連絡先をお願いします」
そう言って、彼女はスマホを取り出した。智也が渋っているように見えたので。
「イヤなんですか？」
「いえそんな．．．」
と、言いながら、智也もスマホをだす。
その後、お互いに、連絡先を交換した後、明日もここで と言い、二人は別れた。
－－－
智也がこの日の講義を終え、学食で妹のひとみの終わるのを待っている。
メッセージが来て、『あと一つ講義を受けるから、ゴメンね』 と言うスマホ画面だ。仕方ないのでそのまま、学食で軽くサンドウィッチとコーヒーを頼み、そのままスマホのニュースアプリを開く。
入口の方からさっきの図書館での彼女 高橋 由が見えた。こちらに気が付くと、寄って来て、テーブルの向かいに座った。
「さっきはごめんなさい、まだ痛む？」
と聞いてきたので
「取りあえずはだいじょうぶかな」
「そう、良かった．．．でも、明日も見せてね」
「いいのに．．．」
「これは私のエゴですからいいんです」
少し間を置いて
「でも、良かった、左足で」
「何でですか？」
「オレ、車で来てるから、右足だと，アクセルとブレーキに支障が出るので」
「なら、結構痛いじゃん．．．あ！」
「あれ？ ギャルだったの？」
「ゴメン、変な言葉使いして」
「．．．って、また使ってるし」
「あ！」
「いいよ。俺も堅苦しいのヤだし。同じ歳だし」
「そうだね！ そうしよう」
「そうしてくれ」
「うん」
それから、ひとみの講義が終わるころまで喋って、最後には
「ねえ、コレから 智也って呼んでもいい？」
「ああ、全然 構わないぞ、オレも、 由って呼ぶから」
「うん、そうして．．．」
由 の目線が、智也の後方に焦点が合う．．．と。
「お待たせ！」
由 の目が少し見開いた。
「おお、やっと来たかひとみ。今の講義は聞いてなかったぞ」
「ごめんね、でもこれ取っておかないと．．．」
「はは、分かったわかった．．．」
話を割って、由 が。
「あの～．．．」
「「はい！！」」
「この人は、智．．．智也くんの彼女さんですか？ すごくカワイイ人なんですが．．．」
少ししょぼくれた声で 由 が言う。
「あはは．．．違います違います、兄ですよ、兄」
と、ひとみが言うと、続けて智也が。
「そう 由 コレ、俺の妹の ひとみ、可愛いだろ？ 兄の自慢のカワイイ妹だ」
「由 さんっていうの？ 妹の 伊藤 ひとみ です、ここの１回生です、よろしくお願いします」
先ほどとは違い、微笑みながら 由が。
「私は 高橋 由です。ここの２回生です、こちらこそよろしくね」
「お兄ちゃん、もうナンパしたの？ こんな奇麗な女の人．．．」
「引っかけたんじゃあない、ぶつかったんだ・・・よな？ 由」
「そうね、事故って感じかな？」
「それにしては、もう仲がいいじゃない」
「妹よ、焼くな」
「焼かないし」
「うふふ、面白い兄妹ね、なんか知り合いになって、嬉しいわ」
「ゴメン 由。変なトコ見せちゃって」
「いいの。わたし そういう感じが大好きなの。堅苦しいのは苦手」
何か結構いい雰囲気な３人で、これからもって事で、ひとみと 由も、連絡先を交換した。
「ひとみ、何か食ってくか？」
「う～～ん、どうしよっかな～．．．」
「待っててやるぞ、この後何にもないからな」
「待って！」
由が、会話を止めて。
「それじゃあ、私の知り合いの人が居る、美味しい焼きそば定食を出してくれる店があるんだけど、ココから近いんで、どう？」
と、由が提案した。
「由 コレからの講義は？」
「ありませぬ」
「はは、なにそれ、由 おもしれ～な」
「じゃあ決まりね！」
「おう！行こう行こう」
「じゃあ、由ちゃんも、お兄ちゃんの車に乗ってね」
「ありがとう、ひとみちゃん」
３人は、智也の車に乗って、１０分ほどの道のりを進んで、その店舗の駐車場に着き、車から降りた。
店の名前は ″お好み焼き はまちゃん″と言う店名だ。店に入ると家庭的な雰囲気で、20代半ばくらいの ものすごく奇麗な店員さんが居て、お好み焼きと謳っているのに、焼きそば定食が人気の店だった。
由 はその店員さん？とは親しいらしく、注文時に、少し話していた。
兄妹は、由の言う通り、焼きそば定食を頼み、由は、いつも食べていると言って、第２の候補の、玉子丼定食を頼んだ。何で、玉子丼定食？と聞くと、とにかく 焼きそば定食を一度食べてから、次回は玉子丼定食を頼んでねと、由にウインクをされながら言われた。
（今どきウインクなんて）
－－－
午後二時になり、遅い昼食をとった後に、さっきの定員さんが 由のところに来て。
「由ちゃん、お友達？」
と聞いてきたので
「はい」
と、答えた。
「ホントに今日からの友達です」
「そう．．．なんかいい感じのカップルさんねこちら．．．」
と言い、伊藤兄妹に向かってほほ笑んでいた。
「あ！違うんです。 俺たち兄妹なんです」
「あら そう、ごめんなさいね。なんか雰囲気が良かったもんだから．．．」
「仲はいいです」
一度会話を区切る様に、由が言う。
「紹介しときますね。こちら店員さんでは無く、ここの店の娘さんで、浜 雅さん て言うの、しかも、私たちの通っている大学の先輩になるの」
「雅です、あなた達も 由ちゃんと同じ大学に通っているのね、私の後輩だわ、うふふ、何か嬉しいわね」
伊藤兄妹は、最後の笑いを見て、めっちゃ可愛いじゃん、綺麗じゃん、とお互いを見つめ合い、同時に頷き合った。
「こっちの男の子の方は兄で、 伊藤 智也 、女の子の方は ひとみちゃんなんです」
「そうなの？ 智也くん ひとみちゃん、これからもよろしくね」
「「はい、よろしくお願いします！」」
「あ、それと智也、雅さんに惚れてしまいそうでしょ？ だけど、ダメよ、ちゃんとした彼氏が居て、絶賛ラブラブ中なんだから」
「そりゃそうだよな～、こんな奇麗な人、男がほっとかないもんな」
「お兄ちゃん、私が惚れてしまいそう．．．」
「ひとみ、道を間違えるな」
「うふふふ、面白い兄妹ね、仲良くなりたいわ」
「雅 定食 上がったぞ」
奥から男の人の声がして、雅が定食の乗ったお盆を取りに行く。
三人分が揃ったところで
「「「いただきます！」」」
と言い、食べだした。
