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1-6

「確かに、優柔不断な当主にはヴァレリー殿のような、理路整然としていて毅然としている妻が合っているとは思う。だが、なぜヴァレリー殿なのか……」


「その話も何度もしただろう。彼女が適任なんだ。ちょうどリヒャルト皇太子の家庭教師の座も退いたところだったし。それに当家にとって、今一番頭が痛い問題であるところの、あのぼんくら騎士団たちの教官として、彼女ほど適した人はいない」


「確かにそれは分かるのだが……。しかし、それもヴァレリーに全て押しつけるなどと」


「では、あの者たちを再教育できる者など他にいるか? 彼らにも最後の機会を与えて欲しい、と言って来たのはカザイル、お前ではなかったのか?」


「それはそうなのだが」


 そして、結局はカザイルの方がなにも言えなくなってしまう。

 兄弟とはいえ、アベルは当主で、カザイルはその弟に過ぎず、この家に関わる一切の決定権はアベルの方にある。意見することはできるが、その意見を無理やりに押し通すことはできない。


「そんなに彼女のことが心配ならば、お前がずっと付き添っていけばいい。そうすれば少しは学べるかもしれない。いや、影響されるかもしれないな。彼女の悪魔的なやり口を」


 アベルは半ば投げやりとも思えるような口調で言い、カザイルを見つめた。

 カザイルは眉根に皺を寄せ、一旦息を吐いた後、


「あんな……!」


「あんな?」


「あんな素晴らしく美しく、神が特別にこの世界に与えたもうた女神のような人にずっと付き添うなんて、そんなことできない」


 カザイルは瞳を伏せ、大きく頭を振った。そんな弟の姿を見て、アベルは呆れ顔だ。


「女神……そこまで言うか」


「ああっ! 言うとも! あの王位継承からは遠く離れたリヒャルト王子が皇太子殿下となられたのは女神であるヴァレリー殿がもたらした祝福としか思えない。しかも、リヒャルト王子は王家の中では特に出来損ないだと噂だったのだ。そんな彼が王立大学の首席入学だなんて。神がかりとしか思えない」


「しかしその女神はついさっき、カザイルが助けなかったせいで、膝を痛めたみたいだが」


「ああっ! それを言わないでくれ!」


 カザイルは頭を抱え込んで呻いた。


「しかし、俺ごときが彼女のことを抱きとめるなんて! そんなことができると思うか? 触れるだけでも畏れ多いと言うのに、いや、俺の視線の中に入れてしまうというだけで畏れ多いのに! それを、抱きとめる?」


 カザイルは今度は頭をぶんぶんと左右に激しく振った。

 アベルはそれを見て、大きく息をついた。


「まったく、いつもは冷静なお前がそんなに取り乱すとはな。恋は人を変えると言うが」


「恋だって? 兄の妻に恋をするなんて、不道徳なことを俺ができるはずがないだろう!」


 鋭い視線で睨み付けてきたカザイルを見て、アベルは口をへの字に曲げてから首を横に振った。


「まあ、いい。とにかくあのぼんくら騎士団のことはお前とヴァレリーに任せる」


「そんな勝手な……!」


「でも、もう決めたことだし」


 アベルはあっさりと言い放ち、脚を組み直した。


「これはシュタールベルク家の当主として決めたことだ。覆すことはできないよ?」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべるアベルに反感を覚えつつも、それに反論するようなことはできなかった。

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