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6-12

「自分の子が行方不明になったというのに不在で、そのことを全て妻に任せきりにして」


「いえ、それはわざと不在にしていたわけではないし。それに、夫の留守になにかあったときに、妻がその代行をするのは当たり前のことで」


「月に何日、兄上が自分の屋敷に留まっているというのだ? 問題はそこだ。当主であるというのに、留守がちであるだなんて。これではなにかあったときに対処できないではないか。今回はニットが見つかってよかったものの……」


「それは、ちょっと問題かと思うけれど」


「もっと当主としての自覚を持ってもらわないと困る……! いつまでも女にうつつを抜かしているようでは……」


「……なんだか、いつの間にか父上みたいになっちゃったな」


 不意の声に驚いて振り返ると、ヴァレリーとカザイルの間にアベルが顔を覗かせていた。

 ぎょっと飛び退くと、彼はにやりと笑って二人の間に座った。


「いつも父上に言われていたな。お前には跡継ぎとしての自覚がない。こんなことでは先が思いやられるって」


「ちょ……と、アベルいつの間にここへ? ニットがいなくなったという知らせを聞いて、かしら?」


「そそ。でも、無事に見つかったみたいでよかったよ。君の部隊の人達がずいぶんと活躍してくれたんだって?」


 ずいぶんと気楽に聞いてくるので、ニットが行方不明になったことで感じていたこちらの心労だとか、実際に探してくれた人達への感謝だとか、そんなことをまるで察していないようで腹立たしかったが、きっと彼はそういうことが理解できていないのだろう、と思って特に触れないことにした。


「ええ、そうね。とても活躍してくれたわ。ニットを見つけたのもうちの部隊のデニスとライムントだし、ずっとニットについていてくれたのはデニスで……」


「その辺りはざっと聞いたよ。本当に驚いたな、もう辞めさせる予定だった第八十九分隊の者たちがこんなに活躍してくれるだなんて。意地を張って木の上から下りて来なかったニットがこちらへ下りてきたのも、君と君の部隊たちの手柄なんだって?」


「ええ、そうね。釣りに行こうと誘って木から下ろさせたのはファビアンとライムントよ」


 自分はともかく、第八十九分隊が認められたことは誇らしく、そう胸を張っておいた。


「彼らへの褒美は後々考えるとして……」


「褒美、などと偉そうなことを言っている場合ではないだろう。今までどこに行っていたのだ?」


 弟、という立場をまるで無視したような話し方だった。かなり腹に据えかねたのだろう、ということは分かるが、こうやって喧嘩越しで話すのはよくない。


「どこって……うーん、どこかな?」


「惚けるな。どこに行っていたんだ? 女のところだろう? 自分の息子が行方不明になっていたというのに」


「いやいや。でも、ニットが行方不明になっていると知って出掛けていたわけじゃないし」


「そもそも、あんな嵐の日に屋敷にいないということが問題なのだ。しかも新しい女の家に行っていたのだろう? 当主としての自覚が……」


 そしてヴァレリーが止める隙もなく、説教が始まってしまった。アベルはとても面倒くさそうな顔をしているし、こんな顔をしている人になにを言っても無駄だろうと思うのだが。


「……そんなことを言われても。俺はなりたくて当主になったわけではないし」


 とうとうそんなことを言い出して唇を尖らせた。

 それは言ってはいけないのではないか、と思ってカザイルの方を見ると、彼は堪りかねたという様子で肩をふるふると震わせている。

 これはとてもよくない。

 特にここは屋外で、使用人たちも側に居るし、愛人にその子供までいる。こんなところで話すべき話ではない。


「と……、とにかく。ニットが無事に見つかってよかったわ。アベル、釣りに行こうと誘って木から下ろさせたのはファビアンとライムントにはもう声を掛けてあげた? ひと晩中嵐の中にいて、とても不安だったと思うの。安心させてあげて」


 そう言うとアベルはそれはそうだね、と言いつつ、ニットの元へと向かった。

 そして彼の隣に座って……デニスは席を空けようとしたのだが、ニットが何事か声を掛けてその場に留まった。

 そして、デニスとニットとアベルという奇妙な三人で並んで座って、最初は遠慮がちに、すぐに和気藹々と話し始めた。使用人がなにかの飲み物を彼らに持っていって、仲良くそれを飲みながら歓談している。


「ニットは結局なにが不満で家を抜け出したんだったかしら?」


「……兄上に会いたかったのだろう。それがこうして会えたから、よかったのではないか」


 カザイルの投げやりな言い方が気になった。かなりアベルに対して立腹しているようだ。


「じゃあ、アベルが木の下から呼びかけたらすぐに下りて来たのかしらね?」


「さあな。余計にムキになって下りて来なかった可能性もある」


「複雑ね……子供の気持ちは。アベルとニットが一緒に暮らせるようになれば、そういう不満もなくなるのかしら?」


「君は一応、夫と一緒に暮らしていることになっているが、不満を抱えてはいないのか?」


「ああ、そうだったわね。一緒に暮らしていても滅多に顔を合わせることがないんだったわ。それでは、ニットも余計に苛立ちが募るかもしれないわね」


 だからいっそ、愛人たちを屋敷に集めて一緒に生活させればいいのに、と思う。

 先ほどカザイルが当主が留守では困ったことがあると言っていたし、アベルが留守になるのは愛人の所へ遊びに行くからで。一緒に住めば万事解決……とまではいかなかったが、今抱えている問題のいくつは解決するような気がする。


(当主の職業妻として、それは私の腕の見せ所なのかしら……? ものすごい難題のような気がするけれど)


 しかし、長い時間をかければなんとか成し遂げられるだろうかと、ぼんやりと考えていたが、そんなことを考える必要はなくなってしまった。

 なぜならアベルがその翌日、失踪したからだ。

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