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「すみません、言われた範囲は全て探したつもりなのですが」
イザークは唇を噛んだ。ニットを見つけることができなかったことを悔いているようだ。
「この雨と風では、発見はなかなか難しく……。申し訳ありません」
バルトルトも彼らしくなく殊勝げな様子だ。見つからないのは決して彼らのせいではないのに。
「なにを言っているの。とにかく、無事で戻って良かったわ。ニットの捜索は、とりあえず夜明けまでは中断することになったから、みんなはそれまで休んでいて。再開したら、またお願いできるかしら?」
「もちろんです」
イザークをはじめ、みんなが力強く頷いてくれた彼らを心強く思いつつ……よく見てみるとまだデニスとライムントが戻っていなかった。
書斎に行き、彼らに捜索を頼んでいた範囲を確認するが、さほど屋敷から離れていない森の中で、戻るのにそんな時間がかかるとは思えない。
「どうかしたんですか?」
書斎に行ったきり戻らないヴァレリーを気にしたのか、騎士達がこちらへやって来た。
「デニスとライムントが戻らないのが気になって……なにかあったのかしら?」
「デニスは足が遅いからな」
「どこかで道草でも食っているんじゃないか?」
「途中でいい釣り場を見つけて、ライムントが釣りでも始めたんじゃないか?」
そんな冗談が出てくるくらい騎士達は呑気なものだったが、ヴァレリーは心配だった。捜索に出たつもりが、自分が遭難してしまったのではないか、と。
しかも、戻って来ないのがデニスなのである。なんとなく危なっかしさを感じる。
しかし、彼らは騎士なのである。
そう簡単に遭難するはずがない。少し戻るのに時間がかかるだけで、待っていれば戻るだろう、と思っていたがなかなか戻らない。
「これは……なにか起こったと判断した方がいいんじゃないかしら?」
窓の近くに立ったヴァレリーが心配げに言うと、カザイルがその横に立った。
「そうかもしれないな」
「探しに行った方が……」
「気持ちは分かるが、彼らは一応訓練された騎士だ。それに、遭難したときには下手に動かない方がいいと、この前のキャンプの時に君が言っていた」
「……確かに、言ったわね」
「ならば、その教えを守ってもし遭難したとしてもどこかで待機しているだろう。探しに行くとしても、朝を待った方がいいのでは?」
「……それもそうよね。それに、今はニットの捜索を優先しなければならない事態で。彼らは、自力でなんとかすることを願うしかない、わね」
そう言いつつも心配な気持ちは消えない。
ヴァレリーは椅子に腰掛け、テーブルに肘を置いて祈るように手を組み合わせて、デニスたちの帰りを待った。
こんな雨の中を心細い思いをしていないだろうか、と、彼らは騎士であるのにそんな心配をしてしまう。
そうして待ち続けて、そろそろ夜明けという時間になった頃だった。
ふとがたん、という物音を聞いてヴァレリーは顔を上げた。あれは玄関の扉が開いた音だ。一緒に風と雨の音が大きく聞こえた。
デニスとライムントが戻って来たのかと思い、ヴァレリーは椅子を蹴るような勢いで立ち上がり、玄関まで駆けて行った。
すると思った通り、そこにはずぶ濡れの外套をまとった者の姿があった。
ただ、気になるのはそれがひとりであるということだ。
「……ヴァレリー教官」
こちらの顔を見てそう呟いたのはライムントだった。
「ライムント……無事でよかったわ。戻りが遅いから心配していたのよ」
そう言いつつ、彼を暖炉の前へと連れて行った。体が細かく震えている。雨ですっかり体が冷えてしまったようだ。
「すぐになにか温かいものを用意してもらうから。ここに座って」
「それより、ヴァレリー教官、ニットを見つけました」
「え?」
「今はデニスが付いています。しかしながら、ちょっと厄介な状況でして」
ライムントは眉根に深く皺を寄せた。




