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第六章 最後は大団円?

「ヴァレリー教官、今日はもうお帰りになった方がいいんじゃないですか? 酷い雨ですよ」


 授業と授業の合間、窓の近くに立っていたデニスに言われて窓の外を見ると、いつの間にか雨が降っていた。地面に叩きつけるような、酷い雨であった。


「そうね……向こうの空まで灰色の雲が張り付いているわね。風も出てきたみたいね」


 これから嵐になりそうな雲行きだった。木々が風に煽られて大きく揺れている。

 心配げに窓から空を見上げていると、カザイルがやって来て、微妙な距離を取りつつ、ヴァレリーの横に立った。


「そうだな。この時期、この辺りでは大嵐となることがあるんだ。その前触れの雨のように思える」


 この土地に生まれた頃から住むカザイルの言うことならば、そうなるのであろう。


「では、今日の授業はこれで切り上げることにしましょう。明日も、こんな雨と風が続くようだったらお休みにしましょう」


 寄宿舎まではここから歩いて十分ほどの距離だ。

 そう危険はないだろうと思いつつも、騎士たちにできるだけまとまって帰るようにと告げた。まるで子供扱いだ、とエルマーには笑われたけれど。

 そうして騎士たちを玄関で送っていたとき、ハルトムートがふと足を止めて言う。


「ヴァレリー教官はお優しいなあ。他の教官だったら、こんな雨で怯んでどうする、とむしろ野外訓練をしただろうな」


「え? そうなの? でもそうね……いざ戦闘、ということになったら天気になんて構っていられないものね。でも、今は戦闘状態じゃないし……」


「それに備えるのが、訓練だと思うのですが。それを証拠にうち以外の騎士たちは、朝から急遽野外訓練に出掛けたようです」


 そういえば、騎士団の本部に来たときに騎士たちがなにやら出かける準備をしているようだったので、なにかと思っていた。この大雨を見越して、訓練に出たということのようだ。


「でも私たちはいいじゃない、風邪でも引いたら大変だし」


「それを日ごろの鍛錬でなんとかしろ、というのが教官というものなんですけどね」


「でもねぇ……。申し訳ないけれどみんな今までそれほど訓練を真面目にやっていなかったでしょう? そんな中で急に厳しい訓練をしたら、怪我人が出そうだわ」


「なるほど、確かに」


「最近は、みんな昼前には集まって訓練をしてくれているようだから、少しは体力がついてきたように思うけれど」


 そうなのだ。

 ベネディクトが部屋から出てきて、この詰め所の建て直しが終わった頃からか、みんな朝ごはんを済ませるとすぐにこちらへとやって来て、訓練をするようになったのだ。

 訓練メニューを作ったのは、なんとイザークだった。

 今までひとりで黙々と自分の訓練メニューをこなしていた彼だったが、あまり鍛錬が足りていない騎士たちに無理がない訓練メニューを考えてくれて、提案してくれた。

 皆、それに従って訓練をしており、少しずつであるが体が引き締まってきたような気がする。


「嵐の中の訓練は後々、にしましょう」


 後々、と言いつつ、もうすぐ彼らはここには居られなくなるかもしれないんだよな、と考えてしまった。


(……いっそ本当にアベルが不慮の事故に遭えば、あの条件は棚上げに……。いえいえ、そんなことを考えてはいけないわっ)


 慌てて黒い考えは頭の端に追いやって笑顔を貼り付け、気をつけてね、とハルトムートを見送った。


「では、我々も戻りましょう」


 カザイルが馬車を詰め所の玄関近くまで回してくれていた。

 御者が馬車の扉を開いて待っていてくれる。そちらまで歩いていって、馬車に乗り込むだけではあるのだが。

 カザイルを見ると、手を握ったり、開いたりしていた。なにかをしたいが、どうにも出来かねるという様子である。


「ぬかるみで転んでしまいそうなので、手をお借りしたいんだけれど?」


 そう声を掛けると、カザイルは少々迷った様子であったが、手を差し出してくれた。


「ありがとう」


 そしてカザイルの手に自分の手を重ねると、カザイルの手がびくっと一瞬震え、しかし次にはぎゅっと手を握ってくれた。


「……我々も急ぎましょう」


「ええ、そうね」


 本当はもっと手を繋いでいたいけれど。

 そう思ってしまった自分を意外に思いながらもヴァレリーは馬車に乗り込んだ。

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