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「やっと掴まえたわ。ちょっと話があるんだけれど?」
ヴァレリーが逃すものかと手首をギュッと握ると、彼はとても嫌そうな顔をした。
結婚式以来、数えるほどしか顔を合わせていない我が夫であった。
彼が出かけようとするところを、玄関先で待ち伏せして捕まえたのだった。
その前に、何度も彼には面会の申し入れをしたのだが、忙しいから、という理由でその度に断られた。忙しいから、のその前に、愛人の家に行くのに、という言葉が付く事をヴァレリーは知っていて、職業妻としてそのことには文句をつけるつもりはないが、こちらの話には応じて欲しいと思うのだ。
「ちょっと……時間がないんだけれど」
「すぐ済みますから!」
あからさまに嫌そうな顔をする彼を引きずって、半ば無理やりに書斎に連れて行った。
そして彼の従者に、夫婦の大切な話があるから誰も部屋に入れないようにと申し付けてから、通路に誰もいないことを確かめて扉を閉めた。
「なんだよ? そんなに改まって」
彼は面倒くさそうに言いながら近くにあったソファに腰掛けた。ヴァレリーは勢いよくドスンとその向かいに腰掛けた。
「改まってもなにも……。そもそも、あなたが私に第八十九分隊のことを押し付けたのに、その状況とか、なにも聞かなくていいんですか?」
「報告ならカザイルから受けているから」
「ああ、そうですか。……どのように?」
「上手くやっている、とね。彼らは今までとはまるで別人のように、生き生きと訓練をしている、と」
ものは言いようだな、と思いつつ、そのように伝えてくれているならばしめたものだと続ける。
「ええ、そうですね。彼らはどうやら蒼聖騎士団に留まることが一番いいのではないかと思っています」
「彼らがそう願っているのは知っている。でもねぇ……」
「ですから、私はその最終地点について確認していないなと思いまして」
「最終地点?」
アベルはなにを言っているの? というような惚けた表情で首を傾げた。
どうしてこんなにぼんやりしていて、自分勝手な人がシュタールベルク家の当主で自分の夫なのかな、と思いつつも、なんとか声を荒らげず冷静でいることができた。
「どうすれば彼らを騎士団に留め置いておけるのか」
「うぅーん、そうだな。四大騎士団の大演習会で活躍できれば、かな?」
「なるほど。では、その大演習会はいつあるんでしょうか?」
「今年はもう終わっちゃったから、次は四年後だね」
「四年後……」
「そう。本当は年に一度だったんだけれど、あの演習の必要について異議を申し立てた貴族がいてさ。あれは、俺たちの存在を国王にアピールできるまたとない機会だったのに」
それはともかく、次は四年後。それまでに彼らが騎士団に必要だと示すことはできるだろうか。四年あればあるいはなんとか、と思っていたのだが。
「いや、でも、四年もそのままにさせるわけにはいかないな。よく考えたら」
「どういうことでしょうか?」
「うちの財務状況のことがあるからさ。実はうちはそんなに裕福じゃないんだ」
「は……そんなことは一度も伺っておりませんけれど?」
「だから今、言ったじゃないか」
その言いように、アベルの顔を叩きたくなったが、暴力はいけない。
この、相手を憎憎しく思う気持ちが、直接伝わったらいいのにと考えてしまう。




