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「ヴァレリー……君は本当におもちゃ箱みたいな人だね」
「え? それってどういうこと? おもちゃ箱って……」
「楽しいものがたくさん出てくるって意味だよ。キャンプの次は、まさか詰め所の建て直しだなんてね」
そう言って腕を組んだカザイルは、感心しているのか呆れているのか。どうにも後者に思えるのは悪い方向に考え過ぎなのだろうか。
ふたりの目前では、詰め所の建て替え作業が第八十九分隊の騎士達の手によって行われていた。
今までは大部屋がひとつ、小部屋がひとつ、それに物置という造りだったが、今度は大部屋がふたつ、小部屋がふたつ、物置というものになった。周囲の土地は余っているから、少しくらい大きくなってもいいとの許しを得た。
騎士たちは文句のひとつも言わず、むしろ喜んで詰め所の建築に手を貸してくれていた。自分たちがいつも使っている建物が新しくなることを歓迎しているようだった。
建て直しについては、蒼聖騎士団の団長、アンディーに頼んだらあまり抵抗されることなく了承された。落ちこぼれ騎士たちを教育するのに、あんな古ぼけて今にも崩壊しそうな所では教えられない、と元悪魔の家庭教師らしく主張してみたのだった。すると、確かに王城で教えていたような人にあの建物はよくない、とあっさり同意していくれた。
「それに、やはりヴァレリーの手腕には舌を巻くばかりだ」
「え……? なんのこと?」
「彼のことだ。ベネディクト。彼を寄宿舎から出すことに成功した」
そのベネディクトは、とても元気がよさそうに他の騎士達にあれこれ指示を飛ばしていた。しかもその指示は的確で分かりやすく、作業は気持ちいいほど順調に進んでいっている。
「成功したというか……たまたまよね? 彼に話をしに行ったら、どうやら綺麗好きだということが分かって、それから、建築に興味があるということも分かって……。ちょうどこの詰め所はどうにかならないものかって思っていたこともあって」
「ヴァレリーの手腕だろう、少し話を聞きに行ったというだけで、そこまで彼の話を引き出すことができた」
「今までもベネディクトの話を聞きに行った人はいたみたいだけれど、強面の教官で、ベネディクトが萎縮して話せなかっただとか。その点、私は話しやすかったとそれだけのことでは?」
「まあ、それもあるが。でも、君だって悪魔の家庭教師だとかの評判はあったはずだが……」
「ああ、どんなに怖い人が来るかと思っていたら、違ったからつい気を許してしまったとかそういうことかしらね。なににしろ、ベネディクトがやる気になってくれて良かったわ。寮母さんも泣いて喜んでくれて……」
まさかベネディクトが自ら寄宿舎を出るなんて信じられない、と喜び、わざわざこちらに礼を言いに来てくれたのだ。これでベネディクトの母親にもいい知らせを届けられる、と。そのときのベネディクトはちょっと嫌そうな顔をしていたが、それを止めるようなことはしなかった。
「まあ、問題なのは彼が詰め所の建て替えに来ているだけで、その後騎士たちの訓練に加わってくれるかっていうのは別問題という点よね」
ヴァレリーはははは、と乾いた笑いを漏らした。
こんな新築で綺麗な詰め所ならば、と通ってくれるようになったらいいなとは思う。やはり寄宿舎に閉じこもりきりでいるのは気持ち良くない。気持ちも塞ぎがちになるだろうし、健康にもよくない。事実、ベネディクトはこちらへ歩いて来るときに何度も休憩を挟んだそうだ。
この詰め所の建て直しについて話し合っているときには、みんなから活発な意見が飛び交い、とても楽しそうだった。ひとつのことに向かって力を合わせていくってとても素晴らしいな、と彼らを見て思ったのだった。
「ところで私は思うんだけれど」
トンカチやのこぎりの音が鳴り響く中、ヴァレリーはカザイルの方へと体を向けた。
「な……なにかな? そんな改まった顔をして」
戸惑っている表情のカザイルを見て、なにをそんなに畏れているのだと思ってしまう。その表情にはそろそろ慣れたが、彼自身もこちらに慣れてくれないかなと思う。
「あのね、彼らはとても落ちこぼれだとは思えないのよね」
「……どういうことだ」
「そのままの意味よ。どうして彼らは落ちこぼれなんて言われているの?」
「どうして……?」
なんだか、どうして林檎は赤いの? と子供に聞かれた時のような顔をしつつ、真面目なカザイルはじっと考え込むような仕草をした。




