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「あの……お話中すみません、カザイル様?」
ふたりの話が平行線になっていることに助け舟でも出そうとしたのか、デニスがおずおずとやって来て、ふたりの間に立った。
「先ほどもヴァレリー様にお話したのですが、ヴァレリー様が騎士団の本部にいらっしゃるときには、俺たちの誰かがお迎えに行きます。ならば、カザイル様もご安心では? そのまま俺たちと一緒に行動するわけですし」
「まあ、ありがとう、デニス。どう? 彼らがこう言ってくれているのだから、そのようにしたいのだけれど?」
しかし、カザイルは納得していないような表情である。せっかく提案してくれたデニスは、戸惑った表情をしている。
「ええっと……もしかして俺たちが信用できませんか?」
「それはない! いくらカザイル様でも」
そう言いながら他の騎士たちがヴァレリーたちの周囲を取り巻いた。
「我ら、最初はなんだこのいけ好かない女は、くらいにヴァレリー教官を思っていたが、今では違う」
「そうだ! 確かに俺たちは騎士としては落ちこぼれかもしれないが、お守りする方に不測の事態があったら、体を張ってお守りするくらいの甲斐性はある!」
「そ、そうだな……! もし賊に襲われたとしても、ヴァレリー教官を逃がすための時間稼ぎはできる……!」
「こんな田舎町で、まさか当主様の奥方を狙う者などいないとは思うが。まあ、いざとなったらいかようにでも……」
「そうだ。むしろシュタールベルク家に仕えるような、主人のご機嫌をとって成りあがろうという野望を持っているような従者よりも、我々の方が信頼できるだろう」
「俺たちはなにがあってもヴァレリー教官を裏切ったりしない」
「あなたたち……っ! そんな、まだ会って間もないのにそんなふうに思っていてくれたなんて!」
感激したヴァレリーは、騎士たちひとりひとりに親愛の気持ちを示すためにハグをしていった。
そうして元の位置に戻ってカザイルを見ると、彼はなぜか蒼白な顔をして、口をぱくぱくさせている。
なにか変なことをしただろうかと思うがよく分からない。そんなに騎士に次々と抱きついていったことがおかしいだろうか。ハグくらい、誰にでもするではないか。
そしてカザイルは額に手を当てて、がっくりと項垂れた。
「……お前たちの気持ちはよく分かった。ヴァレリーの送り迎えはお前たちに任せよう」
なぜか力なく言って、ため息を吐き出した。
「しかし……可能な限り俺も同行する。だから、屋敷の出入りは許可するが、ヴァレリーを連れて行くときには必ず俺の許可を取ることを申し付ける……」
すると七人の騎士は声を合わせて、
「承知しました!」
カザイルに対して敬礼をした。
それから、カザイルにせっかく来たのだから余りもので悪いけれどパンを食べるだとか、紅茶はどう、などと勧めてみた。彼はその勧めどおりパンを食べ、紅茶も飲んだが、その味が分かっているか分かっていないか、とても味気ない顔で呆然とした表情で居続けた。
まるでとてつもなくショックなことがあって、それが受け入れられないという表情だ。
(……一体なんなのかしらね?)
なにはともあれ、カザイルは納得してくれたのだ。明日からはあまり彼には迷惑をかけずに行動できる、と喜んでおくことにした。




