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やがてふたりに案内されるようにカザイルが馬の歩調を少々緩めつつこちらへやって来た。
ヴァレリーは立ち上がって彼の馬に近づいていった。
「あら、どうしたのカザイル? どうしてここが?」
「どうしたもこうしたもありません……! どうしてあなたは……!」
そう言いながら馬から降り、荒い息を整えるように息を吐いていた。
「ごめんなさい。まさかあなたが来るとは思っていなかったから、鴨肉は全て食べてしまったわ。……ああ、パンが少し余っているからそれでいい?」
「あのですね、そのような問題ではなく……!」
「いいから、こちらで少しお休みなさいな。とても急いで来たようね、かなり疲れている様子だわ」
そして自分が座っていた丸太の椅子をすすめて、汲み置きしてあった水をカップに入れて、飲むようにと勧めた。
「どうしたの? 急な知らせでもあったの?」
「知らせ……。俺になんの知らせもなく出かけたのはあなたでしょう?」
「え……セシルに言っておいてくれるように頼んでおいたのだけれど……。セシルはあなたに知らせなかったの?」
「ええ、あなたが出掛けてからずいぶんと経ってから知らせてくれました」
「そうよね、私が出かけようとしたときにちょうどカザイルは留守だったから。それで、戻ってきたら頃合いを見て知らせておいてちょうだいね、と頼んでおいたの」
なにか悪かったかしら、とヴァレリーは首を傾げる。
「俺に無断で出かけるのはやめてください」
「それはなんとなく分かっていたけれど」
「なんとなくってなんですか?」
「そんなことを言ったら、なにもできなくなってしまうじゃない。だって、カザイルにも仕事があるでしょう? その仕事の合間に私に付き合ってもらうのも悪いし、あなたの仕事が終わるのを待っているのも難しいわ。そうは思わない?」
「そ、それは確かにそうですが……」
先ほどまですごい剣幕だったのに、こちらの意見に理があると思ったのか口調が抑えたものになった。
これは一気に押したほうがいいかも、とヴァレリーは更に続ける。
「あのね、できれば私には誰か信頼できるお付きでもつけてもらった方がいいと思うの。そこそこ腕が立って、私の護衛役も引き受けてくれる人が理想的だと思うんだけれど。さっき、みんなにも供も付けずに急にやって来るなんて、と言われたのよ。確かにそうよね。私は仮にも当主の妻であるわけで」
「ええ、そうですね。ひとりで出かけるなんてとんでもないです」
「そうでしょう? 誰かいないかしら?」
「そうですね……」
しばし考え込んだ様子のカザイルだったが、
「……いえ、駄目です。あなたを任せられる人なんていない」
「は……?」
「やはり俺がお供します。ご心配なく、俺も多少は腕に覚えがあるのです、信用していただけないかもしれませんが」
「あの……問題がなにも解決していないわよね? 私は当主であるアベルからこの騎士たちのことを任されたのです。そのためには、もっと自由に動く必要があるかと」
「自由に動くとおっしゃられても、今だってただピクニックを楽しんでいるだけですよね?」
「う……」
痛いところを衝かれてしまった。
そうなのだ、ただいい肉を手に入れたから、今後の懇親も兼ねて彼らと飯を食っていただけだ。
「それはそうですが……。いえ! 今回はそうですが、次回からはきちんと指導します! なにしろ、この第八十九分隊の再教育を頼んできたのはシュタールベルク家の当主であり、私の夫であり、そのために私と結婚したんでしょう?」
「ですが……」
「当主であるあなたのお兄さんは、あなたに私のことを頼んだと確かに言いましたが、それはなにも付きっきりになれということではなく、監督するように頼んだ、ということではないでしょうか? 誰かあなたの信頼する従者を私に付けて、私の動向をその者に報告させればいいじゃないですか? そうは思いませんか?」
「ぐ……。いや、しかし! 俺以外の者をあなたと一緒に行動させるだなんて……」
「そこがよく分からないのですが、なんの問題があるんです? あなたが私を信用していない、ということだろうというのは分かりますが」
「信頼していないだって! そんなことはあるはずがありません!」
カザイルは顔を真っ赤にして、大袈裟なほどの否定をする。
そんなにムキになって否定されると、逆の意味……つまり全然信用していないということではないかと勘ぐってしまう。




