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「え? 話したくないみたいだから無理強いをしても、と思っただけで。もちろんあなたのことにも興味があるわよ、バルトルト。話してくれるならばお話が聞きたいわ。そうね、ちょっと小耳に挟んだんだけれど、あなた騎士団内の酒の飲み比べで、今まで歴代チャンピオンだった副団長のフレデリックを下して、ナンバーワンになったらしいじゃない」
「おっ、その話を知っているのか? そもそも、酒の量で俺に勝とうなんて十年早いのだが……」
バルトルトは身を乗り出し、どれだけ自分が酒豪かという自慢話をし始めた。
男性の、いかに自分がすごいのか話が苦手だという女性もいるが、ヴァレリーは基本的に人の話が聞くのが好きだったので興味深く話を聞いていった。
特にバルトルトがその酒の飲み比べで爽快だと思ったのは、普段は偉そうな態度を取っているフレデリックが、いつもは見下しているはずの落ちこぼれ第八十九分隊の自分に対して『まいった』と言って項垂れたということだったようだ。
それから、バルトルトの家は広大なワイナリーを持っているのだという話も聞いた。だから、幼い頃からワインを水のように飲んでいるのだと。バルトルトは長子で、ゆくゆくは家を継ぐ予定なのだったのが、持って生まれた反骨心で家など継がないと両親に告げ、そこで喧嘩になった勢いで、自分は家の力などなくても生きていけると啖呵を切って、蒼聖騎士団に入団したとのことだった。
「そうだったのね。でも、それだけの酒豪ならば、ワインがいつでも飲めるワイナリーを継いだ方がよかったのでは?」
「はー、分かっていないな、お嬢ちゃん」
自分は一応既婚であるわけで、それにそれなりの年齢である。それをお嬢ちゃん扱いはちょっと、と思ったのだが、それだけ若く頼りなく見えるということだろうな、とあっさり受け入れた。
「男たる者、準備された道を行くのではなく、立身しなければならない。俺は俺の道を行くだけだ」
そして得意げに鼻を鳴らす。
酒場で働く女性たちにそれを言ったら『さすが、男らしいわね!』『男だったら、そうじゃなきゃね!』と黄色い歓声を上げられるのだろうと想像した。
しかし、彼女たちはなんの責任もないから適当に盛り上げているだけであり、それを真に受けているバルトルトは、そうやって持ち上げられてここまで来ているのだろうと思った。
「なるほど、そういう考えもいいかと思うわ」
「だろう?」
「でもね、そろそろ自分の足下を見るのも確かめるのもいいと思うのよ?」
「……なんだって?」
バルトルトの声色が変わった。
もし酒でも入っていたら暴れ出さないかと危惧するような声だったが、ヴァレリーは怯まずに続ける。
「男の意地って……大切なことだとは思うんだけれど、そろそろ別のことを考えてもいいと思うのよ? バルトルトが一番やりたいことってなにかある?」
「やりたいこと、だと?」
「そう。やりたいこと。それが分かっていれば人生の進むべき方向っておのずと示されていくと思うの。なんでもいいと思うんだけれど……例えば、飲んで騒いで、毎日楽しく暮らせればそれでいい、でもいいと思うのよ?」
バルトルトは神妙な顔をしつつこちらの話を聞いているので、ヴァレリーは更に続ける。
「そのためになにをすればいいのか。自分がどうあるべきなのか。バルトルトは自ら望んで蒼聖騎士団に入ったみたいだけれど、それはなんのためなの?」
「なんのため……?」
「準備された道を行くのではなく、立身しなければいけない、と先ほど言ったけれど、そのために蒼聖騎士団に入ったのよね? 別に、騎士団に入らなくても他にいくらでも道があっただろうに」
「ああ……まあそうだな」
そう呟いたきり、バルトルトは黙り込んでしまった。
ヴァレリーは変なことを聞いてしまったかと思う。こんな質問に即答できる人はそうそういない……というか、即答できるならば、落ちこぼれ部隊なんて言われるところに所属していないと思うのだ。しかし、先ほどから男気、という言葉を大切にしているようなバルトルトだったら、そのようなことにこだわると思ったのだ。
「ああっ! ごめんなさい。会ったばかりの私にそんなこと聞かれても答える気にはならないわよね」
「あ、ああ……まあな」
本当は、なにも考えつかないのだろうなと分かっていたが、素直にそうは言わないだろう。彼のことを立てるためにそう言った。
「いつか仲良くなったら、それも聞かせてね」
「あ、ああ、そうだな」
そう言って緩慢な動作で立ち上がり、バルトルトは出て行った。
次の面談の人を呼んできてね、と言うのを忘れたが、考え込んでいる様子の彼にそれを言っても聞いてくれないかもと思った。
後で誰かを呼びに行こうと決めて、しばらくひと息つくことにした。




