表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/71

4-5

「思った通り、すっごい優しい人だった。俺のことをすごい気遣ってくれたし、俺にすごい能力があって、どこに行っても困らないなんて言ってくれて! そんなこと言ってくれる人、今までいなかった」


 デニスは騎士達が溜まっている、詰め所の裏手に行くと、とても興奮した様子で足を踏みならした。

 しかし、それを聞いている騎士達は白けた表情である。それがなんだか悔しくて、デニスは更に続ける。


「厳しい指導で俺を一人前にしてくれるような教官ではもしかしてないかもしれないけれど、今までの教官と違ってあの人は色んな事を見ているし、色んなことを考えてくれている。俺、あの人に付いていくことに……」


「ちょっと待て、デニス。それは時期尚早だぞ?」


 鋭い声を上げたのはエルマーだった。彼は部隊の中で一番疑い深く、なにかをしようとしたときにまず待ったをかけるのが彼である。


「思い出せ、俺たちが一番望んでいることはなんだ?」


 急に難しいことを聞かれたように、デニスは押し黙った後、指をくるくると動かした。


「うぅーん……なんだっけ?」


「このまま蒼聖騎士団に居続けることだ。そのためにはどうしたらいいか、教官は話してくれたか?」


 今まで『あの女』呼ばわりだったのに、いつの間にか教官という呼び名になっていた。

 そのことをデニスは好ましく思いつつ、ヴァレリーの話を思い出していく。


「ええっと……そうだな」


 そして今言われたことを順を追って話していった。

 すると、渋かった皆の顔が、ますます渋くなっていった。


「……それは、さりげなくこの部隊は全員解雇決定だ、と言われていないか?」


 ライムントが深々とため息を吐き出す。彼は中肉中背の、物静かな青年だ。釣りが趣味ということもあって、じっと相手の出方を見極める性格である。そんな彼が、堪らなくなって口を開いた、という雰囲気だ。


「あー……そうかな?」


「そうかな、ではないぞデニス。お前は上手いことあの女性教官に言いくるめられているのだ」


 ファルビンも声を荒らげる。この部隊の中で唯一の妻帯者で、一番人に慕われる、リーダー的存在でもある彼がそんなふうにいうとなると、無視することはできない。


「えー、そうかな? そんな感じはしなかったけれどなー?」


「俺たちを追い出そうなんて……許せない」


 そう言って肩を震わせたのがイザーク、彼が第八十九部隊の最終兵器である。

 めっぽう腕っ節が強いが、命令されて動くのが大嫌いなので指揮には応じず、軍隊には向かない人物である。

 仲間を思う気持ちが大きく、今までも厳しい教官に部隊の者が酷い目に遭わされたときには彼が逆襲をしていた。

 とはいえ、騎士が教官を急襲して暴力沙汰になったら問題だ。そこはファルビンが上手くやって、一対一の決闘という形をとって、教官を負かせていた。


「おいおいイザーク、相手は女だ。腕力で解決するのは賛成できないぜ」


 ファルビンが言うと、イザークははっとした表情となり。


「……そうだな」


 とても残念そうに頷く。


「仕方がない、次は俺が行くか」


 やれやれ、といったようにバルトルトが立ち上がった。


「えぇー? バルトルトが行くの?」


「……ああ、俺が行って、しゃらくさいことを言い出したらビシッと怒鳴りつけてやる。腕力ではどうしようもないが、少々強く言うことなら許されるだろう」


 バルトルトは、酒豪、という言葉がよく似合う酒が好きな豪快な男で、喧嘩っ早くて声が大きい。


「いや、バルトルトは……もうちょっと後の方がいいんじゃないかな?」


「なにを言う? ここは最初が肝心なんだ。俺がビシーッと言えば、もしかして面談なんて面倒くさいものはなくなるかもしれない」


「いや、ちょっと待てバルトルト」


 エルマーが手を上げると、バルトルトは異議を唱えられたことが不満だったのかギロリとエルマーを睨んだが、彼は怯まずに続ける。


「ひとりひとりの話を聞いてくれるところは悪くないと思う。今まで、俺たちの話になど耳を貸す者はいなかった。落ちこぼれの集団、とそれだけだ。忘れてはいけないと思うのだが、彼女は当主様の妻であるのだ。我々のことを気にかけてもらう、という点でも、話をするのは悪くない」


「わっ! さすがエルマー。その通りだと思うよ!」


 デニスがパチパチと拍手をするが、バルトルトは気に入らないとばかりに鼻をならした。


「無駄な話などするつもりはない」


「……いやあるいは大いにするべきかもしれない」


 そう声を上げたのはファビアンだった。


「彼女は当主の妻だぞ。同情を引くような話をして、騎士団以外に居場所などないと訴えれば、当主に話してくれるかもしれない。俺たちをなんとかここに居させてくれるようにと」


「あー……なるほど、そういう手もあるな」


 エルマーは同意しかけているが、バルトルトははんっと鼻を鳴らした。


「そんな小細工などしない。俺は、俺たちがここにいる権利を主張する」


 権利とは大袈裟だな、と言う騎士達の言葉を無視して、バルトルトは面談室となっている小部屋へと向かって行ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ