4-2
「……そうなの。家には他に弟妹が十人もいて、家に戻っても居場所がないのね」
最初の面談はデニスとだった。
第八十九分隊の掘っ立て小屋の、奥にある物置にあった荷物をどけてテーブルと椅子を持ち込んで話していた。
ヴァレリーとデニスがテーブルを挟んで向かい合って座り、カザイルは少し離れた場所に椅子を置いて、そこに座って話を聞いていた。最初はヴァレリーとカザイルが隣り合って座るように椅子を配置したのだが、カザイルは椅子をわざわざ持っていってヴァレリーと距離を取った。……まったく、嫌われたものである。
「うちは貴族とはいえ貧乏貴族で、長男以下はどこかで働くしかないんです。次男は王城で侍従をしていて、三男は修道士になりました」
「もし騎士団を追われたら、他に身の振り方はないの?」
ヴァレリーが聞くと、デニスは肩をすくめた。
「そうですね。実家の世話になることはできないので、他の貴族の邸宅に奉公するとかですかね? 俺のような粗忽者、どこも雇ってくれないと兄たちから言われていますが」
ははは、と寂しそうな笑ったデニスを見て、ヴァレリーは堪らなくなってばんっとテーブルを叩きつつ立ち上がった。
「そんなことはないわっ! デニスにぴったりの場所はきっとあるわ。第八十九分隊の中でもあなたはとても役に立っていると思うもの。舞台のムードメーカーとでも言えばいいかしら? 周りの空気を察して、険悪な空気にならないように立ち振る舞っているじゃない。そんなこと、誰にでもできるものではないわ」
「え……そんなこと意識したことないけれど?」
「意識せずにしているところが凄いのよ。むしろ、意識してそんなことをできる人はいないわよ」
「そ、そうなんですかね……?」
デニスはなんだか照れくさそうに笑った。
面談のためにこの部屋に入ってきたとき、デニスはとても不安そうな顔をしていたが、今はそんな固い雰囲気はない。
「デニスならどこでも上手くやっていけると思うけれど……」
「そんな、買いかぶりですよ」
「なにかこんなことをしたい、とか、特技、とかあるかしら?」
ヴァレリーは椅子に座り直し、柔らかい表情を意識しつつデニスに聞く。
「なにをしたい、と言われれば、僕はずっとここに居たいです。部隊のみんなは優しいし、俺のことを悪く言う奴はいないし。小突かれたり、使い走りにされたりようなこともないし」
「まあ! どこかではそんな扱いをされていたってこと?」
「ああ……ええ。きっと、俺が弱っちいのがいけないんですけど」
「そんなことはないわ!」
ヴァレリーは再びテーブルを叩いた。
「デニスが悪いなんてことはなにもないわ。ただ、優しいからなにをしてもやり返されないと相手が思っているから、標的になってしまっていたのね」
「いえ、そんな。俺が悪いんです。教官からももうちょっとしっかりしろ、と言われていましたし」
「その教官こそ、もうちょっとしっかりして欲しいわね。そう言った方が問題が大きくならずに楽だから、全てをデニスのせいにしたんだわ。本来ならばデニスを小突いたりした方を指導しなければいけなかったのに。その教官、みんなに慕われていた? デニスはその人のこと好きだった?」
「そうですね……。厳しい人でみんな怖がってはいましたが、尊敬されていることはなかったような。僕は苦手でした」
「そんな人の言うこと、聞くことはないし、気にすることはないわ」
「そ、そうでしょうか」
デニスはヴァレリーを戸惑ったような表情で見つめる。それに対して、ヴァレリーは力強く頷いた。
「そうね、デニスのことをちゃんと分かってくれない人のところでは、辛い思いをしてしまうこともあるかもしれないわ。でも、そんなところばかりではないということ、デニスは覚えておくといいと思うの」
「はい! ありがとうございます!」
デニスは満面の笑みで頷いた。
そして、こちらに信頼を向けてくれているような表情を浮かべる。第八十九部隊の中で最初に仲良くなれそうだな、と思っていたが、どうやらその通りだったようだ。




