3-7
もうすぐ日が暮れようとしているとき、一行は湖の畔にある広場へと辿り着いた。
「ああ……なんて素敵な場所なのかしら」
ヴァレリーは馬から下りて、湖に映り込む夕日を見つめた。
水面を風が揺らし、水面に映った橙色の夕陽も揺れている。葉擦れの音が心地よい。
このまま日が暮れるまでこの場にいたいような素晴らしい景色だった。
「では、今日はここをキャンプ地としましょう!」
そう宣言すると、カザイルはもちろん、騎士団の者たちも奇妙な顔になった。
「だって、キャンプをするにはぴったりの場所だと思わない? ちょうどいい広さがあるし、近くに湖があるからそこから水を汲めばいいし、木々が開けているからもし野生動物がやって来てもすぐに分かるし。なにより、景色が素晴らしいわ」
さあ、みんな早く荷物を下ろして、と促すが、彼らは奇妙な顔を崩さず、互いに顔を見合わせていた。
「ちょっと待ってくれないか、ヴァレリー」
カザイルが馬に乗ったまま、ヴァレリーの近くまでやって来た。
「ここでキャンプ? ほとんどヒートリス山を登っていないじゃないか」
「え? 登らないといけないの? もうすぐ暗くなりそうよ? 登るのは大変じゃない?」
するとカザイルだけでなく、騎士達も奇妙な顔つきになった。何度目かの、なにを言っているのだこの女は、といった雰囲気だ。
「ここまで歩いて来ただけで結構疲れたでしょう? 今日はゆっくり休んで……そうね、ヒートリス山を登りたいならば、明日の朝にしましょうか? 中腹辺りまで行って、また降りてきたら、明日の夕方までには騎士団の本部に帰れるかしら?」
そう言っても、彼らは奇妙な顔を崩さない。なにか不満があるのだろうか、とヴァレリーは腕を組んだ。
「もしかして、他にキャンプに適した場所があるだとか? もっと景色のいい場所が?」
「あの……ヴァレリー。一応、我々は訓練に来たはずだ。キャンプ、ではなく、せめて野営と言ってもらった方が」
「ああ、そうなのね。それで、もっと野営に適した場所が? もしかして、もっと騎士の野営にふさわしい、油断しているとなにが現れるか分からないような山奥の方がいいのかしら?」
「訓練ならば当然そうだろう。……が、あなたのような女性がもっと山深いところで野営など……いやいや、しかし」
「では、ここで決まりね! さあさあ、暗くならないうちにキャンプ……ではなく、野営の準備をしましょう! 誰かの荷物に天幕が入っているはずよね?」
ほらほら、と騎士達を急かし、野営の準備を始めてもらった。
その間にヴァレリーは自分の馬にくくりつけていた荷物を下ろし、騎士達に持って貰っていた自分の荷物をほどいていった。
「お手伝いしますが……それはなんですか?」
カザイルがやって来て……ヴァレリーとは一定の距離を保ちつつ尋ねてきた。
「これは小麦粉に、バターに、ミルクに、塩に、チーズにお野菜にベーコンに、フライパンに……」
「そんなものを持ってきて、料理でもしようというのですか?」
カザイルは訝しげな瞳を向けてくるが、
「ええ、その通りよ」
ヴァレリーは即答してから立ち上がり、周囲の様子を窺った。
「ええっと……天幕は向こうに張っているから、竈を作るならあの辺りがいいかしらね?」
「竈、ですか?」
「今日の夜はピザを作りましょう! チーズをたっぷり使って、そこにアスパラやベーコンや、他の具材をたっぷりのせて。明日の朝はパンケーキね! これでも、パンケーキ作りは結構上手なのよ!」
ヴァレリーは意気込んで提案するが、カザイルも、その背後で漏れ聞こえてくる話を聞いていたらしい騎士達も不審げな顔をしている。
「え……もしかしてピザは嫌いなのかしら? パンケーキも?」
きっと喜んでもらえると思っていたのに。
彼らの反応が鈍かったので、ヴァレリーは怯んでしまった。




