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3-2

 ヴァレリーは馬を下り、近くの木に馬を止めた。そこへすかさずフレデリクが走ってくる。


「ヴァレリー様、もう休憩ですか? いくらなんでも早すぎです。ほんの少し歩いただけではないですか」


 騎士の感覚はよく分からない。

 ほんの少し、と彼は言うが、もう一刻ほども歩きづめである。こんなに爽やかな空気で、木々に遮られて日差しが直接身体に当たるわけでもないのに、騎士達の額にはうっすらと汗が滲んでいる。


「でも、もう疲れたもの」


「はあ……そうですか?」


「フレデリク、申し訳ないけれど、この訓練の主導は私なのです。ご助言は嬉しいけれど、諸々の判断は私に任せていただけないかしら?」


「承知しました」


 そうは言ったものの、嫌々引き下がったという様子である。

 ヴァレリーはそれを気にしないことにして、第八十九分隊の騎士達の前に手を腰に当てて立った。


「では、まずは荷物を下ろして」


 ヴァレリーに指示されたとおり、彼らは背負っていた荷物を地面に下ろした。


「それから……小枝を集めてくれるかしら。ああ、それから水も汲んできて欲しいわ。えっと、こちらからこっちの人たちは薪を、こちらからこっちの人は水を」


 そうして部隊を二つに分けて手分けして作業をさせた。当の騎士達は、なにをさせられるのかと怪訝な表情をしていた。


「ヴァレリー、これからどうされるつもりですか?」


 カザイルが馬から下りて、近くの木の枝に手綱を結び、こちらへとやって来た。


「ええ、そうね。そろそろお茶の時間かと思って」


「は……お茶の?」


「ええ、私の馬に茶器を積んできているわ。彼らがお湯を沸かすための薪と、水を汲んでくるまでの間に準備します。セシル」


 ちょうど馬から下りて、こちらへとやって来たセシルへと話しかけると、彼女は全てを承知しているとばかりに頷いた。

 そしてヴァレリーは馬の左右に積んだ荷物から茶器が入ったトランクを下ろした。草花の文様が入った銀製のお気に入りの茶器である。

 それから、王都から持ってきたとっておきの茶葉も出した。

 リヒャルト皇太子の母親から贈られたものである。彼女からは、自分の息子を教えてくれているお礼にといろいろなものを贈られた。仕事であり、他に給金を貰っているから不要だと言っても、私の気持ちだからどうか受け取ってと譲らなかった。


「あっ、それからどこかにクッキーもあったはずだけれど」


「それは……私の方の荷物にありますよ」


「ああっ! そうだったわね」


「では、すぐにお持ちしますね」


 その間にヴァレリーは近くにあった手ごろな石を集めてコの字型に積み上げ、その上に鉄網をのせ、更にその上に鍋を置いた。

 そのうちに薪を探しに行った者たちが戻って来たので、ヴァレリーは彼らから小枝を受け取って、鉄網の下に入れていった。

 そしてそんなヴァレリーを、フレデリクとカザイルがぼんやりと見ている。なにをしているのだこの女は、とでもいうような表情である。


「……もしかして、自分がお茶の時間にしたいから部隊を止めたのか?」


 フレデリクは腕を組みつつ、厳しい表情である。


「……いいではないか。ヴァレリーは当主の妻であるのだぞ。それくらいの休憩は当然だ」


 こそこそと話す声が聞こえてくるが、聞こえないふりをしてお茶の準備を続けた。

 そして近くにあった乾いた木の皮を火種にして火をつけたところで、水を汲みに行っていた者も戻ってきた。

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