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「いきなり野外訓練、しかも夜間訓練も兼ねるような大規模訓練をしようとは。噂通り、かなり厳しい方のようですね」
アンディーは顎に手を当てつつ、感心したように大きく頷いた。
「ああ、第八十九分隊のあのだらけきった様子を見て、これは厳しい手に出ないといけないと判断したのだろう。本当に優れた方だ」
カザイルも感心したように頷く。
なにをしても改善の余地がなく、正にお手上げだった第八十九分隊なのだ。まともな方法ではダメだと早くも判断したのだろう。
ヴァレリーを屋敷まで送り届けた後、カザイルは騎士団の本部に戻ってきて、騎士団長の執務室を訪ねたのであった。彼らはソファに向かい合って座り、ヴァレリーについて話している。
「それはいいのだが。しかし、ヴァレリーに夜間訓練の指導をさせるなど好ましくない」
「ん……? まあ、彼女は当主の妻であるわけで、普通に考えたら好ましくないことでしょう。しかし、彼女に第八十九分隊の指導をさせるとは当主様が決めたことですから。ヴァレリー様が夜間訓練をしたいとおっしゃるのならば、その指揮は彼女に執っていただく他ないのではないでしょうか?」
「すべて彼女に丸投げするつもりなのか?」
「……いえ、そのようなつもりはない……とは、都合のいい言い方ですね。とにかく、我ら騎士団にとっては彼らはどうしようもない、お手上げの状態なのです、とは以前にもお話ししました。解雇が相当、とも申し上げたはずです。それを、当主様がそれだけはなんとか待って欲しい、とおっしゃって」
「もちろんそれは承知の上だ。だが、彼女に手を貸すくらい」
「それはもちろんやぶさかではありませんが……。ヴァレリー様自身がこちらになにかしらの助けを求めてくれば、援助するつもりですが、第八十九分隊のことは彼女にお任せしたのです。こちらから下手に手を出すのは、彼女も望まないのではないでしょうか」
「確かにそれはその通りだ。だが」
「放っておけない、ということですか?」
「彼女は騎士団員たちをどう教育するかということに関しては不慣れなのだ。そして、彼らがどのような者たちなのかまるで知らない。ヴァレリーのようなか弱い女性が彼らを指導していくにあたって、どのような危険があるかも知れない」
「まあ……普通に考えたらそうでしょうね」
「その辺りの助言を、アンディー、君からしてくれないか? いきなり野外の、しかも夜間訓練をするなど無謀だと」
アンディーは眉根に皺を寄せ、不思議そうな表情を浮かべながらカザイルの顔を見つめた。
「それは、私よりもカザイル様の口からお伝えしてはどうですか?」
するとカザイルはふん、と鼻を鳴らして少々目を逸らしながら言う。
「……俺よりもアンディーの方が、ヴァレリーと懇意であるようだから。アンディーが言った方がよいだろう」
その言葉にはちょっと拗ねたような響きがあった。鋭いアンディーはそれをすぐに見抜く。
「懇意だなんて、そんなことはないでしょう。たった二度会っただけです」
「そのたった二度で、随分と親しくなったように見えたが?」
「なにをおっしゃいますか?」
「ふたりでなにか内緒話をしていたようであるし……」
「ああ、そんなこともありましたかね? 大した話をしていたわけではありませんが」
「それに、ヴァレリーは君の腕を取って体を寄せて話していた」
「は? ただ手を掴まれただけで、話しやすい様に近寄ってきただけでしょう? そんな特別な意味などないように思いますが?」
「そうだろうか?」
そうして半目になって、とても疑わしそうな、恨めしそうな瞳を向けてくる。
カザイルにそんな視線を向けられたのは初めてで、アンディーは大いに驚いた。
というか、人ができすぎているとすら思っていた当主の弟が、そんな目つきで人を見ることがあるのだというのが驚きで……そしてピンときた。




