起:古島歩は狼狽える。
短めのコメディを書きました。
まあ、しょうもないんですけど、主人公の歩のアホな思考を心行くまでお楽しみください。
ぜひ感想お待ちしております。
六畳のフローリングにキッチンと風呂とトイレ。そんなどこにでもある1Kアパートに男が二人。
大学生二年生の古島歩と牧志拓哉である。
二人は一年前に同じ大学で知り合い、そこから拓哉は暇さえあれば歩の家をお訪れるような仲になった。
拓哉は自身のスマートフォンで動画投稿サイト『投TUBE』を見ている。
先に口を開いたのは拓哉だった。
「てかさ、昨日のRIRAKINの動画見た?」
「ううん、見てないよ」
「おい、マジかよ見ろって。超面白えってコレ」
「いいって、RIRAKINなんて大学生にもなって普通見ないよ」
「嘘ォ!?こんなに面白いのに誰も見てないってマジ!?」
「マジだよ、試しに今度大学の奴らにでも聞いてみなよ。絶対見てないから」
「いや、待って。こないだ高橋も見てるって言ってたわ」
「マジかよ」
こんなくだらない話をしていると、歩のスマートフォンに着信があった。画面には歩の彼女である『赤嶺翠』の名前が表示されていた。
「すまん、ちょっと電話」
そう言ってキッチンの方へ向かう歩に対して、拓哉は「あいあーい」と投げやりな返事をした。
「もしもし、翠?急に電話なんて珍しいじゃん。どうした?」
『あっ、歩?さっきまでカホちゃんとルミちゃんとお出かけしてたんだけどさ、カホちゃんが急用ができたみたいで帰ることになって早めに解散したのよ』
ごめん、誰一人存じ上げない。と歩は心の中で思った。
『んでね、その解散した場所が歩の家の近くなんだけど、今から歩のおうちに行ってもいい?』
これはまずい。歩はすぐさまそう思った。
歩は拓哉に、彼女がいることをひた隠しにしてきた。
拓哉は常に「彼女とかいらねえし」「女なんてクソだ」と言っている絵に描いたようなモテない男である。彼女がいることがバレたら、友情崩壊の一大事だ。
なんとか上手く誤魔化して翠が来ないよう食い止めねば…。
「えっと、今からかあ。ちょっと今レポートやっててさ」
『レポートなんて後でいいでしょ、あと20分で着くからねー。じゃねー』
「あ、ちょっ」
電話は切れてしまった。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい
これは非常にまずいことになった。
彼女が家にやってくる。
古島歩の人生の中でもトップ10には入りそうな修羅場である。
ああああああああああああああ何でレポートしてるなんて嘘吐いたんだあああああああ。もう少しまともな言い訳があっただろうに。もしこの状況で彼女が来たら…
「ねえ、レポートやってるんじゃなかったの。彼女の私がおうちに行くって言ってるのに、友達と遊んでるなんてサイテー」
といわれてフラれるに違いない。さらに、
「お前彼女いたのかよ、ごめん無理だわ」
と言われ、拓哉との友情も終わりジ・エンドである。
「どうしよ」
キッチンの前で歩は考えた。
拓哉にも翠にもバレず、円満にこの場を乗り切る方法。
これは………
どうにかして彼女が来るまでの20分間で、拓哉を家に帰すしかない!!!
古島歩の一世一代の大勝負が始まる―。