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887:ハリケーン

☆ ☆ ☆


1794年11月6日


ヴェルサイユ宮殿 国王執務室


良いニュースと悪いニュースがある。

どちらを聞きたいかと言われたら、まずは悪いニュースから聞いたほうがいい。

そうすれば、その後に良いニュースを聞いたほうが確実に【まぁでも、○○は悪かったけど□□は良かったから結果オーライだよね……】という少しだけ希望が持てるからだ。

というわけで、報告をしに来てくれたデオンに悪いニュースから聞くことにした。


「デオン、悪いニュースから最初に聞かせてくれないか?」

「はっ……サン=ドマングですが先月の末に大型のハリケーンが直撃した影響で、月末に出荷予定であった砂糖やコーヒーの商品の3分の1が浸水や汚損によって駄目になってしまいました……」

「ダメになった商品は港で積み荷として待機していたものか?」

「その通りです、被害額などは600万リーブルを超えると予想されます」


悪いニュースはサン=ドマングにハリケーンが直撃したことだ。

サン=ドマングのあるハイチなどは、地理的条件においてあまりハリケーンは直撃することが稀な地域でもあるが、ひとたびハリケーンが直撃してしまうと甚大な被害をもたらすことが多い。


デオンからの話を聞いた限りでは、嗜好品としてサン=ドマングの輸出産業の要となっているコーヒーや砂糖の類が大きく損害を被ってしまったようだ。

これらは確かに痛手でもあるが、問題は人的被害がどれくらい出ているかにもよる。

デオンに犠牲者が出ているかどうか尋ねた。


「ハリケーンか……人的被害はどのくらい出ているのだ?」

「はっ、速報値ですが死者は40名以上、行方不明者は100名を超えているとのことです」

「嗜好品ならまだ替えが効く。だけど人的資源は早々替えることはできんからな。フランスから支援として海軍を派遣してやってほしい。それから今回のハリケーンで罹災した人達への支援も忘れずにね。サン=ドマング行政政府と連携して、復興に必要な予算の策定などもやって欲しい」

「はっ、すぐにお伝えいたします」


こういう時は、日本の行政が行っている災害対策マニュアルが大いに役立つ。

実際にフランスの行政省庁などには日本式の災害対策本部の設置であったり、災害時の被害が大きい場合は『災害時非常宣言』を行政が発布して、物流や行動の制限を行って人々に避難指示などが出来るように策定しているのだ。


これは自由に避難活動をしてしまうと、予め決められた避難所などではなく災害リスクの高い場所などに行ってしまう恐れがあるからだ。

日本人の場合は、指定された避難所であればそこに身を寄せる事が多いが、外国の場合は自由に避難をしてしまう事が多く、特に災害時における治安の悪化に伴う窃盗などに関しても、日本以上に悪化しやすいのだ。


無論、日本が特別そういった災害時に窃盗などが行われる事がないというわけではなく、大災害発生時に避難所に行っている間に鍵のかかっていない状態の空き家に盗み目的で侵入し、モノを盗むという罰当たりな輩がいるのは事実だ。

ただ、諸外国に関しては大災害後に治安が急激に悪化して、略奪や暴行、それに伴う殺人事件などが横行してしまうケースというものがある。


これに関する有名な話で言えば2005年にアメリカを襲ったハリケーン・カトリーナだろう。

このハリケーンカトリーナは、先進国であったアメリカ南部の都市であるニューオーリンズを中心に甚大な被害を与えたことでも知られている。


主に避難指示が間に合わず、老人ホームや刑務所などでは取り残された人達が洪水によって溺れてしまい溺死したり、避難所に指定された施設に避難するも食糧などを『避難者が自主的に持ってくることを前提』にしていたがために、圧倒的に食糧や医薬品が不足してしまったのだ。


一日や二日程度であればまだ我慢は出来ただろう。

しかし、避難指示やその後の行政対応に不満を抱いた市民の一部が自分の身を守るために洪水の被害が軽微であった商店などに略奪行為が行うようになり、俺の知っている限りでは略奪行為によって避難誘導や救援物資の運搬が十分に出来なかった程であり、最終的には州兵や軍隊が治安維持のために投入されるほどになった。


アメリカの場合はまだ州政府や中央政府が機能していたからまだその後の治安や復興が進むことが出来た。

だが、大災害によって復興が思うように進まず、最終的には武装したギャングが政治の中枢を牛耳ってしまう程に、政治不信と経済が成り立たなくなってしまった国が存在する。

それがサン=ドマングが独立し、初の黒人国家となったハイチだ。

2010年のハイチ大地震において、死者30万人を超すほどの大災害を起こし、首都の政治と経済が麻痺してしまった。


その後の爪痕も大きく、ハイチの政治における不信であったり、コロナウイルスの蔓延等によってハイチの経済も悪化し、最終的には大統領が暗殺されたりギャングが首都の治安を牛耳る程になって、治安も悪くなってしまったとニュースでやっていたのを覚えている。


日本でも大災害を経験しても、殆どの人は避難所の救援物資を受け取る際には列に並んで秩序を優先するのも、大災害時には真っ先に「復興」を優先する国民性からくるからかもしれない。

そして、こうした災害時の救援方法などを考慮する場合、フランスでもこの時代から取り入れておく必要があると「パリ大火」によって痛感し、行政には必ず『災害対策室』を設置するように義務化しているのだ。


デオンがサン=ドマングの地図を持ってきた上で、現在の状況を詳しく記してくれたが、何かしらの建物に損害がある地域、そして被害の大きい港湾地域などを説明してくれた。


「フランス海軍の停泊地である北部のカパイシャン軍港は奇跡的に無傷でしたが、ポルトーフランスの積み荷などを保管する倉庫が損壊し、さらに高潮によって多くの海水が倉庫内に流れ出たことで積み荷予定であった商品が海水に漬かって使い物にならない状態であるそうです」

「これは……港地域だけでも思っていたよりポルトーフランスの被害が大きいな……北部カパイシャンは大丈夫なんだね?」

「はい、カパイシャン地域における被害は軽微であると伺っております。ハリケーンによって怪我をした負傷者も数える程度だそうですが、ポルトーフランスでは被害が想定しているよりも大きい可能性が大です」

「であれば、行政能力を超えて被害が深刻である可能性も高いな……保存食や毛布などを詰め込んで、陸海軍の工兵部隊を使ってポルトーフランスの港湾施設を復旧させたほうがいいかもしれん……即座に動かせる部隊を招集してもらい、向こうに派遣したほうがいいだろう」

「かしこまりました。直ちに手配を致します」


思っていたよりも、サン=ドマングの中心都市であるポルトーフランスの被害が大きい。

恐らく現地ではさらに日数が経過しているため、被害を受けた地域の復興が停滞している可能性がある。

なので、軍を動員して復興させないとね……。

何故なら、次に起こるであろう北米複合産業共同体との戦争では最前線基地としてサン=ドマングが使われるからだ。




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― 新着の感想 ―
ハイチの首都はフランスFranceではなくプランスPrinceです。
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