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881:演習

さて、北米複合産業共同体との戦争が実際に行われたとする机上演習が陸海軍指導の下で執り行われる事となり、これには北米大陸の東海岸地域は勿論のこと、カリブ海諸島や中南米地域、ヨーロッパ地域まで事細かに記したものである。


軍主体で執り行われるこうした演習というのは数日かけて執り行われるため、今見ているのは開戦初期から3か月間までに行われる戦闘である。


複数人の士官や将校などが軍隊のユニットに見立てた専用のチェスを取り入れており、北米大陸には諜報員が持ち買った情報を元に、それぞれ「正規兵」「民兵」「海軍艦隊」などが編成されている。

一昔前のターン制戦略ゲームに似ている気がするが、これでも立派な遊びではなく『軍事教練』の一環として実施しているものだ。


ヨーロッパ側は、フランスだけではなくスペインやポルトガルなどから派遣されている武官が参加しており、彼らはそれぞれ実際にそれぞれの自国軍がどのような動きをするのかある程度想定しながら取り組んでいると語ってくれた。


「フランスとの合同作戦はプロイセン王国との戦いでは上手くいきましたが、新大陸においては間に大西洋が待ち構えております。こちらのサイコロを二つ振って数字の目が合計で「4」以下になると艦隊の一部がハリケーンや故障によって損傷を受けて1ターンの間行動できないようになります」

「なるほど……そこまで考えているのかね?」

「はい、大西洋は長期航海のため補給のためにカリブ海諸島に立ち寄ってから新大陸に向かうのがセオリーとなっております。訓練した船乗りであっても嵐が吹き荒れる状態では海軍艦艇のみならず、頑丈に作られている大型船であってもあっけなく沈没するリスクを孕んでおります」

「では、北米複合産業共同体から先行します」


まず、北米複合産業共同体側のユニットが動きだす。

北米複合産業共同体を指揮しているのはデオンだ。

彼らは国土管理局で得られた情報や教練情報を元に、軍事ユニットを動かしていく。

まず初めに動いたのは、中南米地域の北米複合産業共同体が支配している地域にいる民兵組織であった。


「武装民兵軍団が中南米地域において蜂起を開始。スペイン及びポルトガルの駐留軍に対して破壊工作を実施します」

「サイコロの目は『7』……破壊工作が成功しました。これにより、前線部隊の補給基地が損傷を受けてスペインとポルトガルのユニットは動かすことができません。続けて攻撃を行いますか?」

「攻撃を継続します。次に攻撃するのはスペインとポルトガルが保有している港湾施設です。民間船を装って奇襲攻撃をします」

「奇襲攻撃の成功確率は50%……サイコロの目が6以上であれば成功です……「8」が出ましたので奇襲攻撃が成功し、港湾施設が北米複合産業共同体の支配となりました」


ターン制ゲームを見ているようだが、実際にパソコンのターン制の戦略ゲームはこうした机上演習を参考に作られているのだ。

攻撃ユニットの威力であったり、航空戦力や海上戦力などをマップに表示して戦う手法などは先の時代になるが、こうしてみるとかなり確率論などを踏まえた上で練られている戦いだ。


机上演習とはいえ、実際にゲームプレイヤーとなって見ているようで俺個人としてはかなり満足している。

北米複合産業共同体を動かしているデオンも、割とノリノリで演習に参加しており、スペインやポルトガル、そしてフランスの武官がかなり苦戦しているのが印象的であった。


「サン=ドマングの守備兵力を温存した上で、追加の輸送兵団を輸送します。航海上には北米複合産業共同体の船舶を確認、これより拿捕……サイコロの目は「3」か……」

「残念ながら拿捕に失敗しました。北米複合産業共同体のターンです」

「では、こちらは反撃に転じます。私掠船による反撃……サイコロの目は「12」艦艇のマストを直撃ですね」

「艦艇に砲弾が直撃しました。これにより、乗っていた船舶が損傷しました。シャルルマーニュ級フリゲート艦1隻が航行不能になります」

「……ああっ、1だ!シャルルマーニュ級フリゲート艦、行動不能!」

「輸送船団を守ることも大事だが……これは手痛い打撃だな……」

「まだシャルルマーニュ級フリゲート艦は配備されていますが、サン=ドマングに常駐している艦艇の1隻が行動不能になったのは手痛いですね……この艦を救うために他の船を動員しなくては……」

「やはり、フリゲート艦とはいえ相手が私掠船であるとこうした事態も考えられるな……」


北米複合産業共同体が私掠船に持っていた大砲を放ち、それがフランス海軍の主力艦であるシャルルマーニュ級フリゲート艦に直撃し、マストが折れたことで行動不能になってしまったようだ。


輸送船団は何とかスペインやポルトガルの支配地域まで送ることが出来たが、行動不能になった一隻を助けるために別の船も動員する羽目になり、輸送船団の護衛船団の数が減ってしまっている。

それを突く形で、今度はフロリダから北米複合産業共同体の海上戦力が出撃し、中南米とカリブ海諸島に向けて進軍を開始したのだ。


デオンは国土管理局の局長ではあるが、少なくとも長年政府の裏方で諜報員として活躍してきた人物だけあって、軍人よりも独特の視点でユニットを動かしていく。

そうきたかと思ったのは、中南米とカリブ海に向かった船団だが……ほぼ同数でありカリブ海方面はフランス軍が、中南米方面にはスペインやポルトガル軍が対応する展開となってきた。


「カリブ海方面に展開した艦隊はフランスの駐留艦隊を攻撃します。駐留艦隊の守備はどうしますか?」

「無論、迎撃だ。ここで防衛しなければサン=ドマングが失陥する」

「ではサイコロを……サイコロの目は「2」サン=ドマング沖合の防衛に失敗しました」

「うむむ……これでサン=ドマングが陥落したとなれば、カリブ海方面への救援が出来ん……せめて守備隊だけでも防衛に付かせれば……サイコロの目は「8」だ」

「艦隊決戦では敗北しましたが、サン=ドマングの守備隊は攻撃を押し切りしました。次はどうしますか?」

「中南米の沖合にいるスペインやポルトガル艦隊に対して『降伏』を勧告します。謀略を駆使して偽情報を拡散します」

「何?!」

「降伏ですと……それに、偽情報の拡散とは一体どういうことですか?」

「このサン=ドマングの沖合の戦いでフランス海軍は敗北しております。そこで民間船を通じて沖合でフランスが大敗したと伝えて、サン=ドマングが陥落してカリブ海方面が北米複合産業共同体の支配地域になったと宣伝します」

「それだと成功率は低いですが……サイコロの目が「10」なので偽情報に惑わされてスペインやポルトガル艦隊は北米複合産業共同体の艦隊に対して「降伏」を受諾した扱いになります」


なんということでしょう。

デオンの指揮の下で机上演習を行った結果、北米複合産業共同体が勝ってしまった。

少なくとも決められたルールの上で行った結果勝ったので文句はなかったが、演習に参加した軍人たちからどよめきの声があがったのだ。

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― 新着の感想 ―
両軍別室にして統裁官が間に入らないと(笑)。
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