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871:ラ・マルセイエーズ

☆ ☆ ☆


1794年7月10日


パリ 廃兵院


今日は廃兵院に赴いて戦傷者として治療を受けている兵士達の見舞いを行っている最中だ。

国のために尽くしてくれた彼らが、脚部などを戦場で損傷したりした結果、日常生活が送れなくなってしまった人達だ。

こうした人々のために、フランスでは諸外国に率先して義手や義足の開発、及び歩行が困難になってしまった人達のために車椅子の助成金などをふんだんに出す様にしている。


結果として、戦傷軍人だけではなく身体に障害のある人達も、暮らしやすい社会を目指して急速にバリアフリーに近い階段などの段差などをなだらかな坂に置きかける工事などもパリから率先して行っているのだ。

この廃兵院においても、階段などを一部改良して手すり付きのなだらかな坂に変更したのである。


これは車椅子の人でも乗り降りがし易いようにとの配慮で作られたのだが、これが多くの兵士の間で役に立っているのだ。

特に、両足を戦場で失ってしまった兵士にとって、段差は鬼門と化している現状では片足が義足の状態ですら厳しいと評しているほどに、彼らにとって段差は脅威なのだ。


その脅威を試しに無くしてみてはどうかと尋ねたところ、あれよあれよという間にバリアフリー仕様になったというのが事の真相だ。

それまでの大理石で出来た階段の上に木製のなだらかなスロープを後付けで設置した代物ではあるが、ここで治療に当たっている兵士の間ではかなり好評のようだ。

右足を野砲の直撃を受けて失ってしまった兵士との会話をした中で、その有難味を教わる話を直接本人から聞いたのだ。


「今までは階段を登るのも一苦労でした……ですが、今ではなだらかな坂になっているお陰で登りやすくなりました」

「それは大変でしたね……今ではどんな感じに登りやすくなりましたか?」

「まず、段差がないので手すりにしっかりと片手で捕まって登るだけでも、義足側の足がスムーズに登りやすくなりました!これだけでも相当助かっております!」

「やはりあると無いとでは段違いに違いますか?」

「ええ!段差があると義足側の事を考えて登らないとつまずいてしまいますからね……お恥ずかしながら、それで一回派手に転んでしまって舌を噛んでえらい目に遭ってしまいました……」


スロープの設置は、廃兵院の看護師さんが考案して後付けで取り付けてもらったものだが、これだけでも多くの兵士から好評な意見をいただいた。

車椅子に乗っている兵士も同様に、段差では介助者に手伝ってもらって乗り降りをしなければならないが、スロープ状の坂であれば押してもらうだけで乗り降りがしやすくなると語ってくれたのだ。

身体に障害を負った兵士の多くが、誰かに介助してもらう助けを必要としている現状を踏まえると、そうしたほうが大きな助けになるのは言うまでもない。


義手や義足、それに車椅子に関する予算は出されているが、まだまだ足りないのが現状なのだ。

特に、傷痍軍人となって身体機能に障害を負った人達を支えるために補助金制度を出したり、リハビリテーションを設置して機能回復に努めるようにしているものの、先のスロープ状の階段などはまだまだ設置が少ないのが現状だ。


「あの坂のスロープは他にも設置する予定はあるのかね?」

「ええ、廃兵院のすべてに設置しておりますが、やはり兵士達の実家であったりアパートなどの居住区に設置するのが望ましいかと存じます。ここに入院している兵士のうち、手足などを損傷して切断したり動かなくなってしまった者が全体の二割近くを占めています。彼らの家にもスロープなどを設置する助成金などを出してもらった方が、大いに喜びます」

「なるほど……では、予算を組んだ方がよさそうだな……」

「今後、傷痍軍人の方々だけではなく、事故等で身体機能障害を負った方であったり、生まれつき先天性の病で身体に障害を抱えている方でも使いやすいのようにすれば、広域的かつ永続的に実施が行えるようになるかもしれません」

「そうだね……将来的にはそういった方々にも使えるようにしたほうがいいね。戦争が終わっても、スロープ状の階段を使えるようにすれば、足腰の弱った老人の方々も使えるからね……うむ、予算を増やすように説得しよう」


廃兵院のスタッフを呼び止めた上で、スロープ状の坂の設置にも補助金を出した上で、多くの場所で立てた方がいいか尋ねたところ、可能であれば彼らが廃兵院を退所した後に元居た家などに設置するべきであるという意見が多数を占めた。


四六時中彼らが介助するわけではないし、身体がある程度動ける人に関しては自分で行える作業は自分達で行うように方針を取っている。

それに、傷痍軍人の人達だけではなく、先天性の身体に病気や障がいを抱えた人達であったり、足腰の弱った老人でも暮らしやすい社会を目指すことになりそうだ。


「ところで……ここでこの廃兵院を管理している院長にお尋ねしたいが……最近では傷痍軍人のリハビリでかなり効果を上げている治療法を産み出した者がいるそうだが……誰なのかね?」

「ああ、彼のことですね!彼は今年配属されてきたルジェ大尉ですよ。主に義足の装着などをした状態で、機能の回復においてかなりの効果を発揮しております。いずれ医学会の論文にもなりそうですな」

「ルジェ大尉……ひょっとして、ルジェ・ド・リール大尉の事かね?」

「おや、陛下は彼の事をご存知だったとは……」

「うむ……聞いた中でもそうではないかと思ったのだよ」


これは驚いた。

まさかフランス革命において歴史的な役割を担っていた人物がここで働いているとは思わなかった。

ルジェ・ド・リール……。


廃兵院の管轄している部署の中に、驚いたことに史実ではフランスの国歌である「ラ・マルセイエーズ」を作詞作曲を作った一人であるルジェ・ド・リールがいたのだ。

彼が作詞作曲した歌は、ご存知世界でも歌詞の内容な物騒すぎて話題の国歌であり、オリンピック大会やサッカーワールドカップで演奏されると、大熱唱される曲だ。


そんなルジェ・ド・リールだが、彼の運命はフランス革命によって大きく替えられただけに、この世界ではフランス革命が起きなかったため、ラ・マルセイエーズが作詞作曲されることはなかった。

その一方で彼は軍人としての傍らで、カリブ海戦争の際に、サン=ドマング奪還作戦に参加中の同部隊にいた友人兵士が戦場で負傷して大怪我をしてしまう。


ルジェ・ド・リールに医学的な知識が無かった事と、部隊の衛生兵が戦死してしまったために友人に対して適切な医療処置を行えずに死なせてしまったことを深く悔やみ、医師の資格をとるために軍医として転属を決意。


結果として彼は猛勉強の末に軍医の資格を獲得し、プロイセン王国との戦いでは戦場で多くの味方兵士を救い出し、その功績を認められて看護大尉にまで昇格した上で、廃兵院においてリハビリなどを担当する部署に就任されたという。

そこで、彼の考案したリハビリ内容が多くの人達を救っているのである。

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