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847:北欧神話

「救世ロシア神国軍は壊れつつあります。阿片の供給が間に合っていない……備蓄されていたであろう分も減少の一途をたどり、配給も量を減らされているのです。このままでいけば攻勢阻止のために民間人を徴兵したとしても、彼らに配布する分の阿片が足りなくなるのは目に見えております」


フェルセンはスウェーデン軍によって捕らえられた救世ロシア神国軍の少佐から聞きだした情報を、紙で渡してくれた。

少佐はなんと年齢が18歳だったそうで、聞いたところによれば元々あのプガチョフの遠い血縁関係に当たる人物だという。


「この情報を提供してくれたのは捕虜になった17歳の少佐でした」

「18歳で少佐……?!いやはや、いくらなんでも若すぎではないですか?」

「ええ、それもそのはず……彼はピョートル降臨神を自称する者の遠い血筋だったそうです。血筋関係を崇められた結果、12歳で少佐の地位を与えられてサンクトペテルブルグへのけん制を担う部隊の指揮官を任されていたそうです」

「……12歳で少佐になって……それから昇進していないのを見るに、そこまで優秀ではないみたいですね」

「縁故採用のようなものですからね……実際に彼を捕縛できたのも、奇襲攻撃を行っている最中にも拘らず、複数の女性との交わりをベッドの上で優先していたからでもあります」

「なるほど……確かに能力がないのに血筋だけでもてはやされていたらそうなりますね……」


血縁を理由に僅か12歳の時に軍の中でも佐官クラスの地位を与えられて、彼の部隊はサンクトペテルブルグ方面への牽制目的で配属された軍にいたそうだ。

だが、彼は軍の指揮官としての能力は全くなく、逆に軍よりも女性との愛を熱心に実施するタイプの人間だったようで、結果として捕まったそうだ。


その少佐が持っていた資料には、備蓄されている阿片の数であったり、各部隊に優先的に配布される阿片の量なども記されていた。

備蓄量なども詳しく記載されていることもあってか、主要な都市であったり最前線における阿片の量が手に取るように分かる。


「これが現在の救世ロシア神国が保有している阿片の総量です……我々が予測していた数よりも少なくなっているのが分かります」

「……総量200トン……これだとあまりないんじゃないかな……」

「はい、北米複合産業共同体が保有している阿片の生産量が約350トンから400トンと言われておりますので、総量としてはかなり少なくなっております」

「……やはり、北米複合産業共同体の船団を拿捕したのが効いているようですね」

「はい、スウェーデンにも密航して阿片を売りさばいておりましたので、徹底的に取り締まった結果、彼らは阿片の収入源を失うことになりましたし、何よりも救世ロシア神国への大規模な輸送船団なども取り締まったことで、かの国は阿片を西アジア地域の国々から頼るしかなくなったのです」


現在救世ロシア神国が保有している阿片の量は200トン。

この世界で出回っている阿片総量のうち、殆どを救世ロシア神国が消費・保有していることになる。

生産量でいえば、北米複合産業共同体が主体となって生産しているものの、輸送手段が途絶えたことでこれからは旧来通りに西アジア地域原産の阿片を輸入するしかなくなるのだ。


ムガル帝国やペルシア辺りでは阿片などの栽培も執り行われているそうだが、それでも総生産量は50~100トン前後であり、消費されている阿片の実に4分の1しか満たしていない。

これが正しければ、救世ロシア神国では阿片を毎月最低60トン近く消費しているため、3か月と半月ほどで阿片の備蓄が尽きる計算になる。


「ムガル帝国……それからペルシアから輸出されている阿片の総量は多くても150トン前後であると推測されます。未だに紅海側に船を出せる状況ではないとはいえ、コーカサス地方経由で阿片を輸入している状況であることはほぼ間違いないでしょう」

「コーカサス経由か……それでも阿片を手に入れようと思えばできる環境なのが厄介ですね……」

「それでも、今まで賄ってきた量を鑑みれば、遥かに需要に対して供給が追いついていない状況です。これまでの阿片の配給量も3分の2に減らされていることを鑑みれば、それだけ苦しくなっている証でもあります」

「阿片も常用してしまえば、長期的には慢性的な中毒性によって症状も重くなってきますからね……いずれにしても、これまでのような阿片を服用して大規模な集団突撃による戦法も出来なくなるでしょう」


そう、これまでのようにいかなくなることになる。

それは救世ロシア神国側も理解しているはずだ。

未だにオスマン帝国が粘り強く抵抗をしている上に、旧ロシア帝国への併合を目論んで侵攻をして二方面作戦を展開したのは悪手だったことに気が付いていないのだ。


オスマン帝国を完全に屈服させる目的で陸海軍を動員して侵攻すれば、恐らくゴリ押しでも行けたはずだ。

ただ、プガチョフはこれまでに連戦連勝を重ねているために、イスタンブール陥落以降は大攻勢をあまり行っておらず、現地に取り残された民間人を徴兵して突撃を敢行しているようだ。


つまるところ、自国民の兵士の損耗が激しかったために、現地民だけで対応する方針をとってしまったのだ。

宗教や風習が違う異民族を使うやり方では、現地から徴兵された人間もやる気は起きない。


一方で既にオスマン帝国はアラブ地域において各族長であったり首長クラスの人間を招いて自治権を認めるほどに、追い詰められている。

結果としてオスマン帝国からの自治を引き換えに、大勢のアラブ人兵士がオスマン帝国軍に参加して決死の抵抗作戦を開始している。

どちらが士気が高いか、見れば一目瞭然だろう。


それにネパールの山岳地帯では、出稼ぎに行くことが出来ない人達が冬の間は阿片などを吸って空腹を紛らわす事をしているという記事を読んだことがあるが、これから冬になっていく中でムガル帝国から阿片を輸入したとしても、最前線や都市部に供給するだけの量を賄えるほどではない。


つまり、必然的にそれまで供給していた量を減らさないとやっていけないのだ。

阿片は麻薬である上に、供給が減らされれば減らされた分……効果が薄れてしまう。

何と言っても阿片の中毒性の恐ろしいところは阿片を服用しなければ人間としての機能を消失させてしまう程に蝕んでいくものだからだ。


アヘン戦争や日中戦争においても、阿片は外国勢力における外貨獲得のために庶民に多く流入し、その影響で大勢の人が阿片中毒になって苦しんで命を落とした。

こうした経験をした影響もあり、現代中国において殺人事件は終身刑となるケースもあるが、麻薬の製造や密輸に関与したとなればほぼほぼ死刑判決が下されるぐらいに厳しい扱いなのだ。


それに、この阿片を抽出して鎮痛薬として開発されたモルヒネも、現代日本では末期の癌患者向けの緩和ケアに使われるのも、その依存性などを考慮して使用することが控えられているのだ。

つまるところ、阿片というブーストに頼っていた救世ロシア神国は、これから少しずつ身体が阿片によって蝕まれていく運命でもあるのだ……。

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