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845:ミンスク防衛線(下)

「では、これよりミンスクへの突入を開始します。笛を鳴らしてください」


神父からの指示により、阿片も効いて快楽を終えた直後に高らかに笛の音が鳴り響く。

笛の音を聞いていたものたちは一斉に条件反射で立ち上がり、装備を整える。

鎧を被り、鉈や斧を持ち上げる者達。

少年兵らはマスケット銃を抱えて突撃準備を開始する。


「中尉、阿片が切れ掛かっている者達を集めてください。彼らを先に突入させておきましょう」

「阿片の中毒者たちですな……武器はどうします?」

「武器もあまり持てない状態ですし、走らせるだけで十分です。彼らが最初に犠牲になることで人々の多くが突入することができるのですから。相手に無駄玉を撃たせることで、犠牲も減らせます……国家に殉じる事で彼らの存在を無駄にさせない為に、突入を開始させてください」

「……分かりました。早速集めて突入を開始します」


最初に、阿片の効果が切れやすい中毒者を優先的に後ろから剣を使って走らせる。

彼らが止まれば進軍が出来なくなる。

阿片によってボロボロになった身体に出来る最期の恩返しだ。

中尉らは中毒者を集めてから、武器も持たずに突入するように命じ、立ち止まったりした場合には後ろから銃撃する旨も伝えた。


「いいか、立ち止まるな!立ち止まったり戻ったりした場合は命令違反で処刑する!!!」


阿片中毒になった者の多くが無気力状態で行進を始めた。

突入とは言い難い光景だが、少なくとも彼らにとっては一生懸命に歩いて向かっている。

旧ロシア帝国軍からしてみればいい的である。

後ろからは剣や銃を構えた兵士がいる。

立ち止まったり、逃げることは死を意味する。

であれば、前に進むしかない。


「阿片、阿片を……」

「もう後方にはない。立ち止まったら殺されるぞ……」

「ミンスク、ミンスクに阿片があるはずだ……そこに行かなければ!」


阿片の中毒症状が出ている者達は手を振えながらミンスクの陣地に向かって歩いていく。

中には失禁をしながらも阿片を求めてさまよう中毒者がやってくる。

それも十人などではなく、何百人と群がってやってくるのだ。


これに対峙する旧ロシア帝国軍の陣地では、死守命令を受けている下士官が必死に弾込めを行って臨戦態勢を整えて迎撃を行う。

欧州協定機構軍の加盟にサインをしたため、軍の規定に則り投降してくる者は保護せよと掲げているものの、阿片中毒者の多くは手を上げたり、白旗を挙げずにゾンビのようにずるずると足を引きずったり、幻聴や幻覚に苛まれてながら近づいてくるのだ。


「くそっ、また阿片中毒者を弾除け代わりに出しやがった!!」

「ど、どうします隊長?!もう200メートルまで迫ってきていますよ!」

「……構わん!大声を上げて引き返すように言え!引き返せば撃たなくてもいい。投降する意思のある者は撃つな……ただし手を挙げなかったり、白旗を挙げないヤツは撃ってよし!射撃準備に掛かれ!」

「了解ッ……これで四度目だ!」

「おーい!聞こえるか!投降すれば命を助ける。しかし、これ以上近づけば攻撃する!聞こえているか!」


兵士の一人が大声を上げて近づいてくる阿片中毒者たちに声を掛ける。

しかし、反応は鈍い。

ただただ、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくるだけだ。

これで四度目の大攻勢の合図であり、彼らにとって厄介な人間以外の何者でもなかった。

仕方なく、旧ロシア帝国軍の兵士が阿片中毒者に向けて発砲すると、それを合図と言わんばかりの皮切りに、救世ロシア神国の陣地で大きな掛け声と叫び声が聞こえてくる。

救世ロシア神国の陣地では、仲間が無残にも殺されたことを嘆き、その報復のために攻撃しようと神父が演説を始めているのだ。


「ご覧なさい!旧ロシア帝国軍は血も涙もない悪逆非道な連中です!交渉のために赴いた熟練兵士を何の躊躇なく撃ち殺したのです!このような暴挙を許してもいいのでしょうか?!いいえ!絶対に許してはならないのです!!!」

「「「うおおおおおおおっ!!!!」」」


雄叫び。

咆哮。

地面を鳴らすような声が響き渡る。

これが救世ロシア神国軍が行う突撃の準備であり、神父らによって引き起こされた突撃の合図でもある。

彼らからしてみれば、阿片中毒者とはいえ交渉に向かった人間が無慈悲に撃ち殺された場面を目撃しているため、旧ロシア帝国軍は非道な軍人に見えるのだろう。

この事を許せないと感じている者達の多くが武器を構えた。


中毒者がミンスク防衛線における旧ロシア帝国軍の陣地に向かって歩き、それぞれが撃たれたのを確認してから、今度は部隊指揮官である尉官クラスの者達が拳を振り上げて突撃の号令をかけた。


「総員、突撃!!!」

「「「「ウラァァァァァァァァッ!!!」」」」


突撃の合図と共に、痛みを感じない兵士達は駆けだした。

駆けだした先にあるのはロシア帝国より分離して以来、エカチェリーナ2世の息子が統治していた都市である。この都市を攻略することが出来れば、ピョートル降臨神ことプガチョフにとっても和平を取り付けることができる重要な拠点都市だ。


ここを攻略するのはピョートル降臨神からの天命であり、やらなければならない事でもあったのだ。

第一弾として、足の速い軽装備の兵士が突入を開始した。

そのうち、弾除け要員として使われているのが、占領地から徴兵した兵士達であり、彼らの多くが自殺兵としての役割を与えられているのだ。


サーベルであったり、斧であったり、槍であったり……はたまた、手製のこん棒などで武装した彼らは旧ロシア帝国軍の陣地に突入を試みる。

前時代的な突撃であり、マスケット銃や野戦砲を正規軍の大部隊に普及している旧ロシア帝国軍にとってはいい的であった。


近づいて来たら発砲し、後ろに待機している兵士達が装填済みのマスケット銃に切り替えて発砲を繰り返す。そして、野戦砲部隊が拡散弾を発砲して、平原で突っ走ってくる兵士目掛けて砲弾の雨を降らせるのだ。

フランス軍で実践されているマスケット銃や野戦砲の使い方の訓練を実施した彼らは、押し寄せる軽装備兵を排除していく。


このまま押し倒せると思ったその時、旧ロシア帝国軍の陣地のうち陣地左翼から大きな爆発が起こった。

続いて右翼側からも大きな爆発音が鳴り響いた。

陣地にいる旧ロシア帝国軍の兵士達が振り返ると、そこには爆発物を投げ込んでいる救世ロシア神国軍の兵士たちがいたのだ。


彼らの背中には革製の鞄に10kg程度の爆薬を背負った兵士であり、この爆薬に火を点火して敵陣に投げ込む役割を担っている自爆兵であった。


爆発物を投げ込んで爆発させたのちに、近接武器に切り替えて斬り込みを行う『聖剣隊』と呼ばれている部隊であり、彼らこそ痛みと恐怖を克服した兵士でもある。

爆発で吹き飛ばされた箇所から、一気に他の兵士達がなだれ込んできて防衛線が破られていく。


この日、救世ロシア神国軍は4度目の大攻勢において初めてミンスク郊外にある旧ロシア帝国軍の陣地をくい破ることに成功したのであった。

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