表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

838/1022

836:白銀(下)

容九の取り組んだのは、人材確保……。

そのために、彼は東萊府にいる農民だけではなく最下層民として差別されてきた人々も採用し、蒸気機関を開発・研究・製造する大きな拠点を作ることを決定したのだ。


「東萊府を漢城府と引けを取らないぐらいに発展させるには、万人を受け入れる必要がある。この仕事に従事することを望んでいる者……ひいては、民が一丸となって執り行える事業を作る事から始まるのだ……早速、東萊府全域に宣伝と求人も兼ねて執り行ってくれるか?」

「勿論です。各集落や……奴婢などに関しては宣伝人を雇っておきましょうか?」

「いや、宣伝人を雇えば反って胡散臭い事を言うかもしれん……後になって言っていた事と違っていると指摘されたら、それだけでも不信が生まれてしまう……それだけは避けるためにも、言葉で説明できる者を使って執り行ったほうがいい」

「分かりました。では、数名ほど人員をそちらに回しておきます」


製造拠点は日本に次ぐ東洋でも有数の蒸気機関開発・製造を執り行う目指して作ることになっている。

明治維新の際に、日本が西欧列強国に追いつくように国内の様々な改革を実施したが、その中でも成功したのが工場建設と、それを扱う人材の確保であった。

奇しくも、長らく武士という階級を主軸においていたのが無くなり、皇族や華族、士族などの階級こそあれど、農民や商人なども【平民】として同じ扱いを受けることになったのだ。


つまり、身分制度が事実上一部を除いて廃止されたことにより、多くの人々が就労制限などが無くなって自由に職に就ける時代が到来したことも、西洋文明の知識が到来した際に取り入れて、思想や文化にも馴染み、国際的な地位を確固たるものにした要因の一つとなったのだ。


容九は、大韓帝国時代の政治家として、隣国の日本が飛躍的に発展した現状を分析し、既存の身分体制を打開できるようになれば、我々も発展を遂げられると確信しているのだ。


「募集を行う際には以下の文言を必ず付け加えた上で、どんな身分であっても受け入れるようにしよう……幸い資金は豊富にある。陛下の為にも我々が一心同体となって改革の先陣を執るのだ!」


日本で再建された大坂を中心に蒸気機関の開発・生産に取り組んでいる道頓堀工場を参考に作る事を決めており、この際に募集をした人材の条件は以下のものであった。


・年齢は問わない。

・如何なる身分も問わない。

・朝9時から夕方6時まで働ける人材を広く募集する。


年齢、身分を問わず、朝から夕方まで働ける人材の募集……。

これは当時としてはかなり衝撃的な内容であった。

中人であっても、農民であっても、その下と見られていた者達であっても、彼は募集を執り行ったのだ。

身分よりも、能力を重視する。

それが容九が最初に身分制度の是正を執り行う上で重要な第一歩でもあった。


「農民などはまだ分かりますが……奴婢などを採用する事に不平不満を言う連中は確実に出てきますぞ」

「そう言う連中には『例えそのような身分であっても、我が国に仕えている者達だ。それに、これは身分を問わず広く募集をした中で集まった者達であり、そこに優劣はない』と言い返しておきなさい。何か嫌がらせをするようであれば、陛下の書簡を突き付ければいい。犬やネズミですら一発で黙る」

「服などはどうしますか?」

「服に関しては作業員に関しては全員が同じ服を着る事になるだろう。それでもだ、今までちゃんとした服すら与えられていない者であっても、統一された服を着させるという事は、団結を産み出す事にも繋がる……それを肝に銘じておきなさい」

「はっ、では……予定通りフランスから輸入した服を支給する手筈を整えておきます」


身分階級はここでは意味を成さない事を示す為に、自身を含めて服装はフランスから輸入された茶色の作業服を着こなし、開発研究を行う者に関しては白衣を着て作業を執り行うことになったのである。

西洋式の服装にしたのにも理由があり、伝統的な民族衣装であったり普段着を着ていると、相手の身分が分かってしまうためでもある。


つまるところ、身分による格差を是正させるために身分を問わない工法による作業を執り行う現状において、民族衣装を着ての作業というのは相手に身分を意識させてしまうため、フランス製の作業着を着て蒸気機関を作ったり、建物の建設を執り行うことを主目的にしているのだ。


「府長も結局はあまり深く関わりたくはないという事でもありますからね……鶏小屋を提供するとは思いませんでしたよ……」

「あれでどうやって蒸気機関の研究をしろと思ったね……むしろ、これしか提供できないから漢城府に帰ってくれと言わんばかりの行動だな……ま、だからこそ自分達で蒸気機関を研究・開発・製造に関わる施設を国庫から捻出してもらえるのだ。反ってありがたい事だと思えばいいさ」

「そうですね……こちらで設計した図面で建設できると思えばいいかもしれないですね……」


当初、東萊府の府長がやってきて、鶏小屋を収容した場所を提供しようとしたが、そこでは壁の損傷が激しく、とてもじゃないが蒸気機関を保管するのに適した場所とは言い難い。

府庁に関しても、空いている場所がないという建前を押し付けており、最低限必要な資金提供と寝床だけは用意するという扱いであった。


結局、容九たちは自分達で建物から作ることになり、その間は蒸気機関の製造などはできないため、研究職に応募してきた者達に対して、蒸気機関に関する基礎知識を学ばせる教育期間とすることになったのである。


前途は多難ではなかったが、漢城府でも東萊府でも、新しい蒸気機関に関する事に対して、両班の人間は否定的な見解を述べたり、研究に対して良い印象を持つことはなかったとされている。


これは、蒸気機関の利便性を理解した彼らが、それまで中人や農民、奴婢などの者達よりも優位性に優れているという建前のもとで行われてきた搾取行為が、蒸気機関の登場によって一般人であっても数十人分に匹敵する力を有する機械にとって置き換われて、両班の権限の縮小に繋がると考えたからである。


そうしたこともあってか、漢城府から派遣された容九の研究を妨害しようとしていた両班も少なくない。

彼らは土地の選定をしていた計測班を妨害したり、彼らの事業に応募をした農民や奴婢などを理由もなく集団で痛めつけて参加を辞退させたりなど、悪質な行為に及ぶ者もいたのである。


しかし、そんな妨害にも容九は負けなかった。

彼としても祖国を発展させることは、前世で経験した祖国併合などを起こさないために必要不可欠な事だったからである。

ここで両班の妨害に屈してしまっては、かつての歴史が繰り返されるだけである。

清王朝が衰退している今、経済と技術力を発展させる絶好のチャンスでもあるのだ。

彼は妨害などに屈することなく、黙々と人を集めて蒸気機関関連施設の建設を執り行い、年度末には朝鮮半島で最初の蒸気機関工場を稼働させたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

☆2020年9月15日に一二三書房様のレーベル、サーガフォレスト様より第一巻が発売されます。下記の書報詳細ページを経由してアマゾン予約ページにいけます☆

書報詳細ページ

― 新着の感想 ―
[良い点] 特権階級の妨害に負けず頑張った成果が出るのは嬉しいですね。
[一言] おフランス改編チートじゃなかったっけ…?日本はルイの中の人の祖国だとしても朝鮮半島に何かゆかりは
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ