表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

788/1019

786:茶葉

テーブルの上に熱々のお湯の入った容器に、紅茶を注ぐためのティーセットが用意されている。

朝から本格的なティータイムというわけだ。

朝食前に一杯やるのも悪くない。

お酒じゃないし、ノンシュガーであればお茶は健康に適している飲み物でもあるからね。

茶葉はマイソール王国産を使用しているとのことだ。


「今日の茶葉はマイソール王国産だそうだ……中々風味が良い感じのお茶だよ」

「マイソール王国産ですか、以前は中国産の茶葉を使っていましたが……最近では滅多に入荷されませんものね……」

「ああ、中国は今白蓮教が大部分を支配しているからね……それまでの外部への輸出先だったのをやめて、国内消費に変えているみたいなんだ。それまでにヨーロッパ向けに輸出されていた茶葉もほとんどが取りやめになっているから、どうしても欲しい場合はベトナム……西山タイソンと呼ばれている場所まで取引に行かないと買えない代物だよ」

「成程……通りで物凄く高騰しているのですね……改革派でも中国産の茶葉が100グラムあたり1000リーブルで取引されていると言っておりましたから……」

「うーん、流石に100グラムで1000リーブルはちょっとぼったくり価格かもしれないなぁ……いくら何でも足元を見て言っているかもしれんが、それだとインド方面の茶葉に切り替えたほうがいい。このマイソール王国産の茶葉みたいにね」


そう、今現在中国産の紅茶の茶葉は非常に入手が難しい状況となっている。

白蓮教は『我が国で栽培されている茶は民のために与え、浄土へと誘うための安息のためにもたらすのに使用するべきだ』という主張の下で紅茶の輸出が全面的にストップされてしまっているのだ。

何度かフランス側も国営の貿易会社が清王朝に変わって中国大陸の大部分を支配することになった白蓮教への国交樹立も兼ねて交渉したが、彼らは中国大陸への外に出る事に対して閉鎖的であり、彼ら自身のコミュニティの中で自己完結できるような社会を目指しているようだ。


元々仏教の中でも弥勒菩薩を主とする救世を行うために、今ある敗退的かつ苦しみからの脱却を願う終末思想に近い体質を執っている白蓮教故に、とても閉鎖的で交渉をしている際にも『あなた達は清王朝の圧政に対して無力であったとの同時に、取引を続けていたことは誠に仏の教えを破っている彼らと似た者同士だ。それ故に今は国を立て直すことを最優先するために貿易はしない』と相手側から言われたそうだ。


この時代の中国史はあまり詳しくはないが、清王朝時代は満州人が政権を担っており、中国大陸に住む大多数の漢民族は彼らの統制下で暮らしていたはずだ。


阿片以外にも、ちゃんと輸出基盤が整っている為、こうしてインドから取り寄せた紅茶をアントワネットと二人っきりで飲むことが出来る。

史実ではマイソール王国滅亡後、イギリス植民地時代にはコーヒーのプランテーション農園を建てまくって生産を開始したため、インド有数のコーヒー豆の生産地域となっていたはずだ。


日本で安価な値段で販売しているコーヒーにはベトナムやインドネシア産のコーヒー豆を使用していると表記されているところもあるが、これは流通網もさることながらコーヒー豆の風味に酸味があるため、日本人やアメリカ人が好むため多く輸入されているという。


逆に、酸味がないコーヒーを愛飲する人が多いヨーロッパでは、インドで生産されたコーヒー豆が幅広く流通しているそうだ。

この薀蓄に関しては、かつて会社務めをしていた際に外資系企業に務めている友人からオススメされたコーヒーがマイソール産だったから覚えている。


「中国産の茶葉とマイソール王国を含めたインド産の茶葉の違い……オーギュスト様は分かりますか?」

「マイソール王国産の茶葉もそうだが、コーヒー豆もサン=ドマング産と違って風味が異なっているからね……それぞれの気候の違いというのも関係していると思われるけど、それでもどっちもそれぞれ良さが伝わってくるからね……風味がやっぱり違うかなぁ、中国産の場合は生産コストなども嵩んでいるからね、高級向けの場合は輸出費用も物凄く高く設定しているし、現地から輸送している間に発酵するようになってから、紅茶として愛飲されているのが由来だと聞いているよ」

「凄く御詳しいですね……実際その通りですね……マイソール王国産の場合は比較的近いので発酵の風味も中国産よりマイルドなものになっておりますし、これらの紅茶が現在ではフランスにおいて大部分を占めておりますからね」

「まさに、マイソール王国産がフランスをはじめとしたヨーロッパの紅茶文化を支える象徴になるとはねぇ……俺も昔はそこまで思っていなかったよ」


茶葉の違いが分かるのも、やはり毎日高くて品質が保証されているものを飲んでいるからなのかもしれないが、マイソール王国産の紅茶は今では庶民層の間でも幅広く浸透している。

どのくらい浸透しているかといえば、茶葉を専門に取り扱っているパリの店に入れば、一昔前までは中国産の紅茶が並んでいたのが、いまでは滅多に手に入らないレアな茶葉となってしまったため金庫に保管するようになっていることだろう。


中国産にとって代わってマイソール王国産の紅茶が並んでおり、大半が中国産の代用という形で仕入れを行ったものであり、味の方はどれも悪くはない。

それに紅茶の消費量が減少した影響もあってか、コーヒー豆も取り扱っているようになっていたのは印象深いものがあった。


これも自国領のサン=ドマング産のコーヒー豆もカリブ海戦争以降になってようやく復興したプランテーション農園から生産されたものが主流になりつつあるが、それまでの代理としてマイソール王国産のコーヒー豆も販売されており、これらを含めて今現在マイソール王国との間には医療用阿片以外にも庶民や上流階級者が愛飲する飲み物の輸入先として重宝しているというわけだ。


紅茶だけでなくコーヒーもイケる口なので、是非ともフランス資本の下でコーヒー豆のプランテーション農園も支援しようかなと思っている。

最も、目下の救世ロシア神国や北米複合産業共同体に対抗するために外地への投資に関してはそこまで多くの余力が回らないのが玉に瑕だが……王室に充てられている予算のうち、自由に使える予算というものが3千万リーブル存在している。


この予算内で宮殿であったり屋敷を借り上げてパーティーを開催したり、災害等が発生した際には王室の予備費から被災地復興への資金としてお金を支出することができる。

これまでにも戦災で被災したネーデルラントに対し、集合住宅の建設費用として300万リーブルを無償で寄付を行ったが、後で大使がわざわざ頭を下げて謝意を表明していたからね。


朝からアントワネットとお茶を淹れてゆっくりと朝日が昇るまで過ごす……。

うん、悪くないしとても良い感じだ。

今日はリラックスタイムといこうじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

☆2020年9月15日に一二三書房様のレーベル、サーガフォレスト様より第一巻が発売されます。下記の書報詳細ページを経由してアマゾン予約ページにいけます☆

書報詳細ページ

― 新着の感想 ―
[良い点] マイソールも順調に発展しているようで何より。 中国は今後仏教系原理主義に入りそう。そして周辺に侵略路線に……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ