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773:両刃(下)

北米複合産業共同体による国家ぐるみの事案……。

その言葉を聞いて参加者は皆口を閉ざしております。

大西洋を挟んだ向かい側の国家が、この件に絡んでいるのは間違いないとのことです。

根拠として、参加者に複数の資料を配布しておりました。


「皆もよく見て欲しいが……今回の摘発で押収された阿片の入っていた木箱に書かれていた刻印は北米複合産業共同体で生産されたものであると判明している。それに、これらの一連の阿片はフランス政府が治療用として輸入しているマイソール王国産のものではない。品質も違う上に加工方法が違うからな……今後、医療用医薬品ではない嗜好品目的の阿片が貧民層だけではなく、中流層や貴族階級にも流入してくる可能性がある。改革派としてはこれらの阿片を見つけたり、勧めて来たりする者を告発できる仕組みを行ってもらいたい」


資料にはいくつもの数字やグラフが並べられており、ここ1年間で押収された阿片の量なども記載がありました。

4月に一斉摘発によって検挙された阿片工場では、プロイセン王国やグレートブリテン王国出身者が低賃金で奴隷のように働かされていた状態で生産されていました。


表向きは堅パンの製造工場でしたが、実際には堅パンの中に阿片が混入している状態であり、保存食として食べられている堅パンに阿片を入れ込み、それを貧民窟や救世ロシア神国向けに販売をしていたようです。


「これらのパンに入っている阿片を食べることで、多かれ少なかれ中毒症状を誘発するようになる。気分が落ち着いてよく眠るようになる。もっとも、鎮痛剤として使用されている成分を常用するようになれば中毒になり、阿片を服用しなければ生きていけない身体になる。阿片がむやみやたらに乱用してはいけない理由が、中毒になれば身体が阿片を求めて失神や慢性的なだるさによって動かなくなってしまう。つまり……廃人に至ることになる。イラストに描かれている描写は決して誇張ではない……よく見て欲しい」

「これは……」

「凄まじいですね……」


阿片を服用し続けるとどうなるか……。

イラストが用いられて説明が書かれておりますが、かなり具体的で恐ろしい描写でした。

目の焦点が定まっておらず、よだれを垂らしながら自分で排泄の処理なども出来ない程に疲弊している様子が描かれておりました……。


これは、貧民窟で阿片を乱用した男性と女性をそれぞれ描いたイラストでしたが、この会議に出席していたサンソン氏も「決して誇張した描写ではありません」と言っておりました。


オーギュスト様から衛生保健省を代表してサンソン氏が交替し、資料の読みを進めました。


「一連の出来事を踏まえても、阿片の取締件数は直近一年だけで200件以上……そのうち半年が大多数を占めております。北米大陸産の阿片によって国内だけでも多くの都市で阿片の売買が確認されております、現状では医療用ではなく嗜好品目的の阿片のほうが多く流通している傾向が高まっております」

「一つ気になったのですが……なぜここまで阿片が流通しているのでしょうか?」

「それに関しましては、プロイセン王国で発生した戦乱の影響で、占領地域を中心に失業質が上がって貧困層の数が相対的に増加している事が要因として挙げられております。貧困から抜け出すためにご法度である阿片の密売に関与し、医療用ではない非合法な娯楽目的の阿片を売りさばく……さらに寂しさから紛らわすために阿片に手を染める事例が多く見受けられているのです」


娯楽目的での阿片の乱用事例は我が国だけでも複数報告されていますが……そのどれもが乱用した人が悲惨な目にあっております。

資料に書かれているイラストの人も、実際に今年の2月に収容された後、最期は自分の排泄はおろか食事すらもとらなくなって衰弱死してしまったと書かれておりました。


文字通り、廃人となってしまうほどに弱ってしまう程に阿片を乱用することは恐ろしいことです。

病気が進行してしまい、身体を起こすだけでも激痛が走るほどの末期症状の患者にのみ投与が許されております。

これは治療ではなく、痛みの緩和を目的とした緩和ケアであり、死ぬまでの苦痛を和らげる目的での使用が推奨されております。


ですが、阿片を健康な人が服用してしまうと悲惨なことになってしまうとここでは詳細に書かれており、サンソン氏がその状況について語ってくださいました。


「残念ながら、貧民窟の中で既に阿片の中毒症状によって一生この症状と付き合うことになってしまった者が40人以上出ています。彼らは日常生活すら困難な状況であり、こうした悲劇的な日常が水面下で進行している事を踏まえても、脅威と言わざるを得ない……これは国家の衛生事情を考えても乱用者となって悲惨な事案になることを防ぐために取締の一層の強化を提案いたします」


サンソン氏が打ち出した取締に関しても、北米大陸産の阿片を取り締まるための法律を制定し、所持の厳罰化や売買に関しても最低懲役10年以上といった傷害致死罪と同等の適法を推奨することを盛り込みました。


また、医療用以外の売買を行っている者に対しては『治安を乱す行為』及びそれに伴う『国民への健康を故意に害した罪』とし、末端であっても重労働刑や幹部になれば死罪を適応すべきと述べました。


「……いずれにしても、私の予想を遥かに上回っているペースで阿片が貧民層を中心に広がっている以上、一定額の金銭を支給する代わりに阿片を引き取る等の対応を執り行ったほうがよろしいと思います。ロンドン革命政府の残党であったり、北米複合産業共同体が意図的に仕掛けているのであれば、今後彼らに主導権を取らせないように牽制するのが得策かと存じます」


これらの阿片は北米大陸で生産された阿片のようで、マイソール王国から輸入された阿片に比べると質が多少劣っているとのことです。


それに加えてマイソール王国から輸入されている阿片に関しては、積み荷で入れている際には腐敗やカビなどを防ぐために食塩などの防腐剤を添付しているそうです。

しかし、貧民窟で押収された阿片のほとんどがそうした防腐剤等の使用が行われていないことが判明しております。


防腐剤を使用していないのでネズミなどが齧り、周囲では阿片による影響かネズミの大量死が起こっている事案もあったそうです。

それに加えて、堅パンと一緒になっていることから阿片入りと知っていながら食して急性食中毒を起こして搬送される事案も見受けられたそうです。


アフリカを回って喜望峰経由で入ってくる阿片に比べて、北米大陸から中継地点を使って密輸される阿片はインド大陸に比べて時間もそこまで掛からないからなのでしょう。


「マイソール王国での輸入に関してはこちらが派遣している高官とマイソール王国の高級役人が密輸が行われないように船をチェックしてから我が国への輸出をしている上に、港に到着すれば港での検査も厳重に行っている。最低でも今後はより一層の注意と警戒を怠らないようにしなければならないだろう……」


会議の中でも、改革派は阿片の危険性を理解した上で、今後同様の事案が起きないように気を付ける事を心がけた上で、フランスの至る所で潜んでいるであろう販売人などを摘発するべく、憲兵隊と国土管理局が麻薬特別捜査班を結成することも盛り込まれました。


戦争が終わっても、まだ暗い影は我が国の足元に潜んでいるのです。

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