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770:本質

グレートブリテン島を囲う問題もそうだが、やはり北米複合産業共同体との一戦を交える状況も考えられる。

特に、中南米方面の軍事侵攻を行うために、国内で阿片問題を発生させてから対処に困っている中で執り行うという手法も一つ考えられる。


史実でもイギリスと清国との間で勃発したアヘン戦争も、紅茶の原料となる茶葉を輸入していたイギリスが、取引で赤字を出していた為に赤字解消のため阿片売買を始めたところから始まる。

インドで生産された阿片を格安で輸入し、それを清国に売りつけて国中で阿片患者を増やした。

怒った当時の清国皇帝がイギリスから輸入された阿片を燃やしたことを端に発生した戦争だが、戦争を起こす理由としても十分に考えられるだろう。


つまり、北米複合産業共同体の上層部の中でスペインやポルトガルが利権を多く持っている中南米地域の簒奪を目論んで、欧州協定機構加盟国に対して阿片による薬物中毒事案を発生させ、特に教育などが十分に受けられていない貧困層を中心に蔓延させて社会問題化している間に、行動を起こす……。


地域間戦争のリスクが高まっている。

いや、地域間だけではなく救世ロシア神国にも阿片を供給している恐れもある。

阿片の積み荷を地中海地域で降ろさず、そのまま現在救世ロシア神国の占領下に置かれているイスタンブールに積み下ろしをしているのではないか……という説だ。


「地中海方面を行き来するモンペリエの船乗りの間でも、ある積み荷をイスタンブールまで運ぶ闇の仕事というのがあるそうです。イスタンブールで取引をすれば一回で半年分の給料が支払われると言われているそうです」

「それって……阿片を運んでいるんじゃないか?」

「ええ、ほぼ間違いなく阿片でしょう。イスタンブールでの積み下ろしに関しても、複数の木箱を届けるというものですが、金品の払いが潤沢過ぎる点からフランスに持ち込まれた阿片を、フランス国籍の船を経由してイスタンブールに運んでいることになります。現に、イスタンブールには多くの救世ロシア神国の兵士が駐屯しているみたいですし、消費量もそれなりに多いと推察されます」


確かに、イスタンブールで売った方が金になるだろう。

向こうは兵士を強化するために阿片を服用しているのだから……。

中東や西アジア地域からの阿片では足りなくなるはずだ。

推定だけで、現在のアフガニスタン地域やイラン方面で栽培・出荷されている阿片と同量を服用しなければ、兵士達の禁断症状を克服できる量ではないはずだ。


つまるところ、阿片に頼っているせいで救世ロシア神国の多くの兵士が病魔に蝕まれているというわけだ。

阿片も中長期的に服用すれば常習性と依存性が高くなって無気力状態になって廃人と化してしまう病だ。


清王朝の末裔であり、後に日本の庇護下で建国された満洲国の王族でも、阿片中毒になって最期は廃人になって死亡した人がいるぐらいに恐ろしい劇物なのだ。

それ故に、阿片の服用に関しては『末期の癌患者や重度の激痛を伴う病気を罹患している者のみ』と厳格な服用条件を提示し、嗜好品目的での販売を禁止しても……貧困層ではこれらの阿片を『退屈しのぎ』として服用してしまっている。


ただでさえ、国内でも問題が生じているのに、これで海外への転売拠点となっていたとなれば、確実に北米複合産業共同体は欧州全体の疲弊を狙って【意図的な薬物汚染】を仕掛けてきたことになる。

北米複合産業共同体のどの上層部かはまだわからないが……。


それでも、確実に国民の生活を脅かすレベルの量を密輸入して、金を稼いで中毒者を増やすやり方は恐ろしい上に、史実のイギリスが清国にやったレベルと同じか、それ以上のあくどいことである。


さらに言ってしまえば、救世ロシア神国で兵士達の育成に使ったり、集団結婚に伴う交配の儀式に使われているという事なので、国民全体が阿片中毒を引き起こしている頃合いだろう。

つまり、阿片でキメた状態で上層部から下級兵士に至るまで、多くの人間が薬物を使って領土を拡張し、痛みを感じない無敵の兵士を育成しているということにもなる。


阿片を服用し続ける限り、痛みを感じない兵士の存在が確認されている……。

腸が飛び出しても動き続けたとするオスマン帝国に駐在武官として滞在したフランス高官が述べていたし、やはり一定の効果があるのだろう。


その育成に使われている金に関しては、恐らく占領地から略奪した金銀財宝とかだろう。

絵画や壺といった芸術品の多くが、阿片の購入資金となり、その資金が巡り巡って北米複合産業共同体に流れている事を突き止める事が出来れば、今後の捜査なども進んでいくだろう。


また阿片を必要としている救世ロシア神国に、第三国を経由して売りさばく行為に関しては利益にも繋がるし、救世ロシア神国からしてみれば在庫が足りない阿片を使いたいという両者の思惑が一致し、双方がいくらでも買っていくだろう。


「イスタンブールか……つまり、我が国も知らず知らずのうちにそういった阿片に関する事案の加害者側の手助けをしてしまっている……というわけか……」

「現在、その仕事を行っていた者を聴取しておりますが、阿片だとは知らなかったようです。ただ、運搬予定であった荷物などを裁判所の命令で差し押さえを行い、モンペリエの港湾地区にある倉庫の中を国土管理局と憲兵隊が捜索しております」


イスタンブール方面まで捜索は行えない。

ただ、物資がどの流れでイスタンブールに向かったかまでは記録が残っているはずだ。

そこをデオンは突き止めるために裁判所の許可を得て差し押さえを行い、倉庫の中を検分することにしたという。


モンペリエはマルセイユと並んでフランスでも有数の港湾都市だ。

地中海に面していることからスペインやイタリア方面、さらにアフリカにも貿易を進出している重要な拠点だ。


これらの港湾都市に阿片が流通しているとなれば地中海方面を通じて救世ロシア神国の実効支配しているイスタンブールにまで届いているのが事実であれば、それは地中海方面だけにとどまらず、東欧諸国にも阿片による被害が拡大してしまうという点だ。


「既にブルガリアやルーマニアの一部地域が彼らの支配地域になっているはずだ……個人資産の保有を禁じ、全てが平等に分け与えられると言われている救世ロシア神国だが……阿片も分けているのかね?」

「はい、阿片を一人でも多く服用するためにパンなどの食べ物に混ぜてから使用している例がございます。ごく少量とはいえ、兵士以外の国民に関しても阿片を服用している状態ですので、そうした薬物を服用している点で、幸福感であったり痛みを感じにくい状態になることで、救世ロシア神国のトップであるプガチョフ……自称神となったピョートル降臨神を崇め祀る国家を樹立しているのでしょう」

「つまるところ、宗教国家としては完璧というべきレベルだというわけか……厄介な相手だな」


北米複合産業共同体も厄介だが、オスマン帝国の大半を制している救世ロシア神国も油断ならない。

阿片を巡って次の戦争が巻き起こされる可能性も高くなり始めてくる頃合いだ。

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