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767:ロータリー

☆ ☆ ☆


1792年8月10日


おはよう諸君。

史実ではルイ16世が暴発した群衆によって国王の権限が停止されて幽閉する事態になった8月10日事件が起こった日だ。

あの事件で王権は完全に剥奪され、結果として国王だけでなくアントワネットまでも断頭台で命を散らす結果となった。


だが今は違う。

逆に、革命派として名高い著名人が国家反逆罪の容疑で逮捕されたのだ。

彼の名はマクシミリアン・ロベスピエール……。

ジャコバン派の中でも急進的な山岳派によって国王の処刑命令を実施したり、恐怖政治を代表する政治家になる()()()()()男だ。


彼は逮捕された。

一時期は改革派に属していたので史実のような過激な思想からは脱してくれたのかなぁ~と思っていたが、残念ながら歴史の修正力か、はたまた本人の思想転換によるものなのか定かではないが、2年ぐらい前から改革派内部での対立を起こして改革派を脱退。


それ以降は故郷のアラスで人権派弁護士として活動をしていたようだが、次第に過激な主張や発言が飛び出しており、内偵調査の結果フランスで貧民層を扇動して革命を起こそうとしていたことが発覚。

彼が貧民層の人達を集めて集会をしている際に、憲兵隊が彼から革命に関する言動を取ったことで逮捕に踏み切ったそうだ。


「結果として、ロベスピエールは逮捕されたのだな……」

「はい、彼は禁書指定された平等主義者の本を隠し持っていただけでなく、国家転覆を企てている手紙も憲兵隊によって発見されました。筆跡鑑定の結果、本人の字で間違いありません」

「そうか……致し方ないことだが、彼は国家への反逆罪と集団武装準備罪も適応されるのかな?」

「はい、既にロベスピエール本人からも国家転覆に関する供述を話しているとのことです。憲兵隊からの報告もありますが、彼自身が平等主義者に代表されるような極端な革命的思想を実施しようとする旨の文言も語っているとのことです」

「……やはり、彼はその道に進もうとしてしまったのだな……」


ロベスピエールは革命家としての血を捨てていなかった。

それと同時に、人々を恐怖で支配するために策を巡らせていた事も発覚している。

阿片が貧民窟で流行して問題になっている事に付け込んで、これらの阿片を持ち込んだのが戦争によって流れついてきた難民や亡命者によるものであり、そうした社会的混乱に対して政府は自国民を守る義務を怠っているというものだ。


史実のロベスピエールは左派的主張をしていたのに対し、この世界でのロベスピエールは右派的主張を繰り返し強調していた。

特に、難民や亡命者といった外国籍の人間を『潜伏的敵対階層』と位置付けて、彼らによって貧民層の仕事が奪われていると主張していたようだ。


「貧民層の人達に窮状を訴えるという手段はまだ理解できるが……難民や亡命者といった外国籍の人間に対して攻撃的な言動で語っていたというのは本当かね?」

「はい、これに関しては彼の書いていた日誌であったり、発言用の原稿に排斥内容を盛り込んでいることが判明しております。自国民を守らずに外国籍の人間を優先的に保護している現在の政策が気に入らないとも語っておりました」

「……つまり、外国人を排除して自分達が恩恵を受けるべき国民に目を向けろという意味で行動をしようとしていたという事かね?」

「その通りですね……彼も陛下や王族関係者を攻撃するよりも、まずは外国籍の難民や亡命者を攻撃して彼にとって正当なる意見を述べる事を重視していたようです。そのほうが敵対階層者に憎悪を向けることがやりやすいとも語っておりました」

「難民や亡命者をか……うーん、そこまでいくとはな……」


彼の平等主義は、実質的に極右的思想であり排斥主義に近いものとなっていた。

史実でも外国からの反革命的勢力からの攻撃から守るために排斥主義的な発言をしたこともあるが、今のロベスピエールはそれ以上に外国人を敵視しているような感じだ。


あくまでも難民や亡命者に関してはフランス国籍を取得した者に関してはフランスへの滞在を認可し、難民に関しては比較的復興が進んでいる地域に戻らせるようにはしている。

今回の戦争では数十万人規模の戦争難民や亡命者が大勢フランスに押し寄せた。

彼らに新しい仕事などを与えていたが、ロベスピエールにとってはその行為が気に入らなかったようだ。


その主張に共鳴していたメンバーを集めて、パリで武装蜂起を企てていたともされており、現在までに逮捕者37名、拘束者180名、関係者567人の事情聴取者を出している。


これらの逮捕・拘束者が大量に出てくるのは難民や亡命者の違法労働を行っていた事業所を摘発して以来の数だ。


群衆を扇動し、革命によって新体制を確立したフランスは既に恐怖政治によって支配され、多くの一般大衆が革命による政治的動乱に付き合わされる羽目になったのは有名な話だ。

かのロベスピエールが革命によって成し得た政治体制を悪用して、恐怖……テロ―ルによって政治権力を掌握して王族だけでなく、自分に逆らう人間を次々と逮捕・処刑しまくった結果、自身も処刑されることになるとは……。


「何というか……彼は改革派で学んでいた知識を悪用して、人々を扇動するように仕向けていたのかなぁ……」

「恐らくは……」

「はぁ……何と言えばいいか、言葉にならないよ……」


本気で社会を変えようとしていたのは事実だが、ああいう理想主義者が権力を掌握すると、自分の意に反する人間を「敵」と見なして処刑する。

そして気が付けばその恐怖によって仲間からも見放されて殺されたのだ。


恐怖で支配する政治体制は、互いの相互監視社会でないと実現しないし、その社会は必然的に貧しい国家体制でしか採れない。


その有名な国が北朝鮮だろう。

かの国は実質的に一党独裁ではなく個人独裁政治に舵を切っており、その北朝鮮を支援している中国やロシアからの輸入に頼り、国内では国民を階層ごとに分けて相互監視社会を行って密告が横行している程だ。

韓流ドラマを見ただけで強制収容所行きになるぐらいだし、徹底した情報管制を敷いているからこそできる独裁政治だ。


しかし、それでも北朝鮮は単独では独裁政治を維持できない。

中国やロシアからの資源の輸入に頼っているからだ。

現代では一部の独裁国家が中国やロシアといった比較的経済が発展して軍事力があり、地下資源が豊富な一党独裁国家からの援助が無ければ生活できないのだ。


いわば、恐怖政治というのは貧しいことで成し得る政治家だけでなく、人々の心にゆとりが持てない状況で蔓延する思想病がもたらす成れの果てなのだ。


ナチス政権も第一次世界大戦後のハイパーインフレーションと、その後の賠償請求などによってドイツ経済が困窮し、世界恐慌によって社会情勢が極めて不安定化した結果、人々はヒトラーの演説によって心を動かされて政治権力を掌握するに至るのだ。


そんな恐怖政治による支配をロベスピエールが望んでしまっていたのだとしたら、きっと彼の心が抱えている人間の本質的な支配欲なのだろう……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 昔とある小説で「右も左も、上に担ぐ神輿が違うだけでやりたい事(独裁と恐怖政治)は一緒」と日本の極右極左の動きを痛烈に皮肉る一文がありましたが、ロベスピエールも己の権力志向・独裁志向を満たすた…
[一言] この世界のロベスピエール、なんかト○ンプ節も入っていて右翼と左翼の悪い所が合体したみたいだ。捕まって良かった。
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