756:七つ目
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1792年4月20日
今日は驚きのニュースが飛び込んできました。
なんと、オーストリアとの間で通信事業に関する共同事業を執り行うことになりそうです。
「オーストリアとの通信事業を共同で持ちかける案件を引き受けたのですか……?」
「うん、オーストリアとの同盟は鉄則かつ、強固なものになったのは知っているね?それで国家の枠組みを超えて執り行うことにしたんだ。通信技術を我が国だけで独占していても、利益は頭打ちだからね。交通の便を鑑みても、オーストリアとの共同事業という形で発展させていくのが良いんじゃないかという事になったんだよ」
「つまり、同盟国としての親交を深めると同時に、通信事業の拡大をするという事ですね?」
「うん、今はまだ旗振り通信とか発光信号も混じった状態だけど、ニュースの速報であったり、情報伝達が早ければ早いほど、こちら側としては対策に当てる時間が長くなるからね……通信にしても、今後は民間との間で電子通信に関する特許であったり、通信全般の利益をフランスが多く得られるように工夫をこなすようにするのさ」
オーギュスト様は上機嫌でオーストリアとの通信事業を立ち上げることを話してくださいました。
何でも、戦争終結後にオーストリア側から通信技術に関する技術支援の打診がされたようです。
フランス軍が遠く離れた司令部でも通信を使って交信を執り行って意思疎通が取れていたのを参考に、軍用と民間用に分けて使用を検討する段階に入ったと仰っておりました。
「改めて……軍用と民間用に分けて通信を作るつもりだよ。軍用の文を打つ際には取り扱いを行うのを軍人に、民間用の通信に関しては新聞社や雑誌と契約を取り付けている専門員によって切り替える仕組みづくりをするつもりだよ」
「なるほど……では、我々王族の者も使用することは可能でしょうか?」
「うん、現時点では手続きが必要だけど出来るようにはなっているね。でも一文を打つのに30リーブルの費用が掛かるからね……遠方に送るにしても、三文となれば90リーブル……とてもじゃないけどまだまだ庶民が使える値段にはなっていないからね……通信技術に関する革新的技術が到来し無い限りは、そういった電信機器は高いままさ……」
「たしか、一基あたり1000リーブルでしたっけ?」
「そう、今の計算では部品の消耗品費等を含めても一日で3件程度の依頼があれば黒字にはなっている。だけど、将来を見据えたら値段を下げる代わりに電信でのやり取りを強化できるようになればいいかなとおもってね」
現在、戦争が終わってから通信技術を使っているのは新聞社や証券や金融会社が中心となって執り行っている事業となりつつあります。
遠方で起こった出来事を記事にするためにパリからリヨンに向けてライデン瓶通信を使って交信をしているところもあります。
ベルリンでのペスト騒動に関しても、現在は収拾しつつあるとはいえ、依然としてベルリン市内への移動は制限されている状態であり、ベルリン封鎖は解かれそうにありません。
「たしか……ベルリンでのペスト騒動も電信を使って部隊との間でやり取りしていらっしゃるのですよね?それで感染も減ったと聞いておりますが……」
「うん、その通りだよ。大人数で感染源となっている場所への立ち入り禁止を徹底させたうえで、重要な情報であったり部隊の安否確認などは電信を使って行われたんだ。ベルリンを占領している部隊も段階的に感染していない事が確認された部隊から撤退を進めているんだ。このペースで進めば来年の10月頃には引上げは完了するね」
「それにしても……そういった情報などもすぐにパリに伝わっていくのが凄まじいですわね……本来なら馬を飛ばしても一週間は掛かるのに……」
「それを3時間で達成できるようになったのも、通信技術の進歩によるのが速いね。あとは人力ながらも旗振り通信と発光信号によって早くなったのもあるけど……それでも、通信によってこれまでの常識が大きく変わりつつある……そうした事業が利益になるという事を、フランスだけじゃなくてオーストリア側も気が付いたというわけさ」
オーストリアも通信技術の発達に大きく力を入れることになりそうです。
首都のウィーンは内陸にあるため、沿岸部からの情報収集なども時間が掛かっております。
これを通信技術によって即日中に知る事ができれば、情報伝達という手段が大きく変わって、人々の意識なども変わっていくでしょう。
特に、証券取引であったり金融関係の会社では、専門の取引通信回線を多額の金額で買い取っており、港湾都市での海洋貿易の収支報告であったり、株の取引情報などをいち早く確認してから売買するという方式に切り替えた事で、取引が大きく変わりつつあるという事です。
小麦の相場取引であったり、相場関係は情報伝達の向上によってより正確に、より早く通達ができるようになったそうなので、これを利用して証券取引や為替関連の事業を行っている会社に対して、通信技術を提供するようです。
蒸気機関に次いで、通信技術の発達。
今はまだ、ライデン瓶だけではなく人間を使って旗振り通信であったり、ランタンなどの灯りを使って発光信号を使った通信ですが、いずれ電気だけの信号によって通信が執り行われる日がくるかもしれませんね。
「いずれ地球の裏側にいても通信でやり取りできる時代がくるようになるとは思いますが……きっとその頃には大きく生活様式なども様変わりしているでしょうね……」
「そうだねぇ……恐らく、あと200年後ぐらいにはパリから日本に電話できるようになると思うよ……その分、海底にも通信のケーブルを敷設しておかないといけないけどね。いずれそういった飛躍的に文明が発展する時代がくるさ」
「今の私たちの生活も凄まじい速度で変わって来ておりますが……これよりも更に発展する感じなのでしょうか?」
「恐らくね……人々は海だけではなく空も征するようになるさ。気球のような乗り物を発展させて、空を飛んで遠方まで飛んでいける航空機の開発だったり、通信技術を更に発展させて直で対面しているかのように会話できるようになる時代がくるはずさ……」
「オーギュスト様はそんな時代がやってきたとき、どんな事をしたいですか?」
「どんな事かぁ……ま、そこまで文明が発展しているのであれば、世界中を見て回りたいね。こうして国王となった以上は気軽に海外にも行けないからね……ローマであったり、バルセロナとか……色んな国の都市を見て、人々がどのような生活を営んでいるのかじっくりと見学してみたいのさ」
オーギュスト様は、まるで思い出すように嬉しそうな表情で語っておりました。
いずれ、人々が家に居ながら世界中を巡る事ができるようになる……。
空想的な話をしていらっしゃいましたが、オーギュスト様の口調からして……それが遠い将来に実現できそうな気がしてきました。




