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728:未来(上)

新ジャンルの小説を連載しました。

詳細はページ下部にあります。

お時間がありましたら是非とも手にとってお読みください。

★ ★ ★


1791年11月19日


ベルリン 第五防衛線


ベルリンの市街地では、今日も黒煙がモクモクと登っていき、爆発音と発砲音、そして悲鳴と共に噴き出していく血の臭いが立ち込めている。

市街地の至る所が戦場であった。


公園も、広場も、市場も、神学校も、工房も、集合住宅も……。

市街地に存在するありとあらゆる場所が戦場となり、ありとあらゆるところに戦いが繰り広げられる光景が日常生活になりつつあった。


欧州協定機構軍はフランス・オーストリアが主導となってベルリンの南部地域からの攻勢を開始、それぞれの区画ごとに分けられていた攻略においても、これらの地域における【安全確保】が最優先課題となっており、時折制圧したと思っていた場所から伏兵が飛び出してきて襲撃を受ける事例が多々見受けられたのだ。


ベルリンにいる市民にとっても薔薇十字団にとっても、ここから後がないのだ。

だから必死になって抵抗を続ける者が後を絶たず、彼らはその命が尽きるまで剣や銃……果ては鎌や斧といった道具を持ち出してまで戦うことを選んだのだ。


「回り込まれた!撃てッ!撃てッ!近づかせるな!!!」

「おいっ!爆弾を抱え込んでいるぞ!近づかせるな!」

「畜生!囚人兵だ!こいつら自爆する気だ!逃げろッ!!!」

「自爆兵か……何という戦術を生み出してきているんだッ……」

「突撃では効果が無いと分かったんだ!こんな戦術を使うなんて……」

「口を動かす暇があったら弾込めを急げ!もたもたしていると自爆兵に殺されるぞ!」


プロイセン側には火薬を詰め込んだ樽を抱えて自爆をしにくる者も少なくなかった。

その多くが何かしらの罪状を言い渡された囚人であり、彼らは口を布などで覆われて喋れない状態にし、薔薇十字団が解き放った()()()()となっている。


彼らには爆弾を抱えた状態で全力で敵に突撃することを命じており、突撃すれば罪を全て不問にすると教え込んでいるのだ。

勿論のことながら、そんなことをすれば自分も死ぬのはほぼ確定するようなもの。

抵抗して拒否をする者も多かった。


だが、拒否権などはなかった。


「彼らは罪人です。友愛の精神を知らない可哀そうな方々です……であれば、王国に命を捧げてからこそ罪は消えるのです。彼らをベルリンでの駒として使うのです」

「しかし……囚人兵部隊のうち3分の1は先の突撃命令で戦死しております。残っている者も正直言って役立つかは不明です」

「そこを役に立たせるのが貴方たちの仕事です。友愛の精神を持って慈悲深く、彼らにも恩赦を与える条件として爆弾を抱え込んで突撃命令を行うのです。後ろから必ず銃を構える部隊を忘れずに配置してください。でなければ簡単に離反するので……」

「は……はい……」

「いいですか?囚人以外にも既にベルリンの総人口の5%は居住権等を喪失した流民多くいます。彼らには肉の壁となって役立ってもらう必要があるのです」


囚人は罪であり、その罪を清めて友愛の精神に至るには敵を屠り、慈悲の心をつかませることが第一だと薔薇十字団のトップであるカリオストロは説いた。


それをそっくりそのまま真に受けた薔薇十字団の者達が、ベルリンや近郊都市で勾留されていた重犯罪者を6月末までに移送し、自爆兵としての訓練を受けさせていたのである。

反攻的な態度を示したり、拒否をする者は例外なく舌を斬り落とされたり、歯を引っこ抜かれたりと拷問を受けた。


自爆兵を担うのは強盗や傷害以上の犯罪を犯して収容されていた犯罪者であり、こうした犯罪は贋金騒動の時を境に王国内で急増していた問題であった。

さらに、経済情勢の不安定化も相まって、職を探して地方都市から上京したものの仕事にありつけずにそのまま流民となって留まっている者も多く存在していた。


当時のプロイセン王国の全人口のうち、4~5%が何かしらの非合法的手段によって食糧を確保していたという事を踏まえれば、当然検挙率なども大幅に上がっていた。

刑務所に収容しきれない人数になり、最終的には3万人以上もの囚人を更生目的ではなく『自爆兵』としての訓練を受けるように指示を出し、最終的には軍ではなく薔薇十字団が自爆兵を指揮することになったのだ。


そして、その自爆兵以外にも流民となって仕事に就けない者たちも動員され、彼らは簡素な武器を手にとって囚人兵を後ろから嗾けて、逃走したり立ち止まっている囚人兵を殺害する権利が与えられたのだ。


最も、彼らには部隊長に選ばれた者しか銃を所持することが許されなかった上に、その後ろには連射式空気銃で完全武装している薔薇十字団の戦闘員が見張っているので、実質的に彼らも後続の部隊から射殺される恐怖に怯えながら囚人兵を死地に送ることになる。


またこの問題に対して、罪を償わせるという意味合いも込めて自爆兵としての訓練を行い、罪を消す方針を薔薇十字団が率先して指導し、徹底して教え込んだ。

罪を消すには人に役立つことをする……そして、それが果たされた際には天国に行けるという風に罪人たちに日夜教え込み、外部との情報も遮断したのだ。


「いいですか?あなた達は罪を犯したのです。その罪を消してくださるのは慈悲深い国王陛下以外に他なりません。ここにいる者は誰かの財産を奪い、人を傷つけた罪人です。本来であれば死罪になってもおかしくない罪を犯した貴方たちに、生きる権利を許して下さったのです。その罪を赦す代わりに、国王陛下の恩義に報いるためにも、あなた達は爆弾を抱えて敵陣地に突撃するのです。その功績が認められれば、必ずや無罪放免されるでしょう。その為に訓練に励み、決死の覚悟で臨みなさい」


ベルリンの戦いが始まる一か月前から囚人兵の訓練を行い、中には恐怖のあまり自殺を図ったり他の囚人や看守を殺害して脱走する者も現れる程であった。

それでも、ほとんどの囚人兵を訓練することに成功し、最初の第一陣として老人と囚人兵の混成部隊を第一防衛線に投入し、一定の戦果を挙げることに成功した。


この成功体験が薔薇十字団による洗脳工作を加速させることになり、最終的には彼らは死ぬことを前提にした兵士となって爆弾を抱えた状態で敵の占領地域に突撃していく。

爆弾がさく裂しても、前の人間に続くように爆弾を抱えた状態で突撃をしてくるのだ。


救世ロシア神国の兵士みたく麻薬などはやっていないにも関わらず、ほとんどの囚人兵が自発的に爆弾の入った樽を持って自爆兵として第五防衛線に突入していたフランス軍やオーストリア軍に襲い掛かった。


「なんだこいつは!?」

「死兵だ!こいつらは死兵なんだ!」


囚人兵のほとんどが、後ろから撃たれずに防衛線に到達した欧州協定機構軍の兵士達によって殺害された。

手前側で撃たれた兵士達は成す術なく、抱え込んだ爆弾と共に爆発していく。

何度も血が吹き飛んで、霧のように赤く染まっていく。

そのような光景が繰り返すように広がっていく。

まるで地獄を具現化したような光景が広がりつつあった……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この部分、表現が逆では無いでしょうか? >その罪を消してくださるのは慈悲深い国王陛下以外に他なりません。 ①国王陛下以外にありません。 ②国王陛下に他なりません。 [一言] 拷問まがい…
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