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727:秒針

☆ ★ ☆


1791年11月11日


「折角の休日だ、今日ぐらいは二人っきりになるのも悪くないだろう」

「そうですね、せっかくのお休みの日ですし、のんびりすごしましょうか」


今日はオーギュスト様が丸一日休息を取る事にしました。

ここ最近はプロイセン王国の首都攻略に向けて部屋に引きこもっているに等しい状態でもあったので、休息に二人で付き合うことになりました。


普段の様子からして、そこまで進んで休みを取るような人ではないのですが、今日はのんびりしたいと言っておりましたので、二人で水入らずの休日になります。

といっても、昨今の情勢を鑑みて宮殿内をぐるりと回るようになりますが……。


思えば宮殿もかなり様変わりしてきております。

宮殿内には王立試験農園がありますが、最近ではガラス張りの温室も備え付けられているので、冬でもストーブを焚いて室内を温暖な気候を再現することができるのです。


試験的ということもあり、そこまで大きな温室ではないのですが……それでも、本来ならばイタリア半島南部でしか採れないレモンを栽培することが出来ますので、秋でも新鮮なフルーツを堪能することが出来ます。


「今年は実りが遅かったみたいだから、まだレモンも採れるんだね……」

「ええ、味は少し劣っていますが……食べれない事は無いですよ?!ほら、紅茶にレモンを薄切りにしたのを入れるだけでも風味が変わって美味しくなりますし……」

「ああ、レモンティーか……あれはいいぞ。レモンの酸味がいい具合に刺激して喉も潤うからね。なによりも風邪予防としてはうってつけだ……では、一杯頂こうとかな」

「ええ!少しばかり早いですがお茶にしましょう!」


温室でまだ残っていたレモンを手に取り、薄切りにして紅茶に浸します。

これで少しばかりですが紅茶にレモンの風味が染み込んできますね。

オーギュスト様はこの時期になるとコーヒーだけではなく、紅茶をよくお飲みになられます。


理由としては風邪予防として効果があるというのが主な理由ですが、本心としては身体をポカポカと温めてくれる紅茶を飲んで寒さを凌ぐのが目的になっていると語っておりました。

いずれにしても、私の淹れてくれる紅茶を進んで飲んでくださるので、嬉しいですね。


「やはりホットレモンティーはこの時期にしか味わえない特別な飲み物だね……!夏場は冷たいのがいいけど、今の時期だと身体が温まるホットレモンティーが一番さ」

「まぁ、そう言ってもらえると嬉しいです!まだおかわりは沢山ありますから、どんどん召し上がってくださいね。テレーズが作ってくれたクッキーもありますわよ」

「ありがたい。クッキーもいただくとしよう」


温室の隣にある仕切りに囲まれたテーブル席に座って暖かい紅茶と、クッキーを食べる……。

いつも堪能している光景ですが、外で食べる機会というのはほとんどありません。

理由としては戦時中ということもあり、プロイセン王国の刺客が襲ってくる可能性があるからです。


現に、フランスでは過去に爆弾を使った事件があったこともあり、戦時下という事も相まって外でこうして紅茶を飲む機会というのはほとんどなくなりました。


とはいえ、いつまでも建物の中に留まっているのも身体に悪いですし、護衛の人を複数人引き連れた上で、宮殿内の敷地に不審者であったり不審物がないかチェックをした上で、安全が確認されたのを確認してから外に出ているのです。


「こうしてゆっくり飲む機会も最近はあまり堪能できていなかったからなぁ……有難く飲ませてもらうよ」

「ええ、今日ぐらいはゆっくりしていきましょう」

「……それにしても、随分と様変わりしたな……ヴェルサイユ宮殿も……」

「そうですね、私が嫁いでからというもの、宮殿内も大きく変わっていきましたからね……」


それでも、私がフランスに嫁いできてからというもの、ヴェルサイユ宮殿内の催し物も様変わりしておりますし、なによりも驚いているのは宮殿内の敷地に大きなライデン瓶を使った電波塔が立っている点でしょう。


ライデン瓶を使った通信は既に軍の方では主流になりつつあり、遠方地でも素早く通信が発信・受信できるのがメリットとなっております。

このライデン瓶を使った通信においては、オーギュスト様が多額の資金提供を行って作り上げたものであり、ちょっとだけオーギュスト様の趣味も反映されている形となっているはずです。


「俺は古典主義的な建築物にしてくれと依頼したんだが……思っていたよりもヴェルサイユ宮殿の内情にピッタリな感じになったな……」

「でもこの塔から発信・受信させる内容は伝令を使うよりも最短で届くというのがスゴイですわね……婦人会でも噂になっておりましたよ。すごいものがヴェルサイユ宮殿に建設されているって……」

「確かに、婦人会でも話題になるよね。これだけ大きな建物が宮殿の敷地内にドドーンと建設されるとなれば、あちこちで話題にもなる……それでいて、しっかりと実用性に優れているとなれば、今後もこのライデン通信塔も姿や形を変化させながら、より高度なものになっていくんじゃないかな……」

「つまり、もっと形を変えていくという事ですか?」

「そういう事になるね……いずれ、ここからでも見ることの出来るぐらいの高さを誇る電波塔もパリで開発・建設されるんじゃないかな……」

「パリにですか……?」


オーギュスト様はライデン瓶の通信塔を見ながらしみじみとした様子で語っておりました。

パリにもし……これよりも比較にならない程に大きな電波塔が立つことになれば、それはきっと大きな塔になるでしょう。

まるで、パリにその電波塔が立つことが予見されているみたいです。


「随分と……通信塔に詳しいのですね……」

「あ……いや、技術が進歩していけば、ライデン瓶ではなくてももっと高速で……かつ旗振り通信よりも早い電波塔が建設されるのは必須になるんじゃないかなって思ってね。今はまだ軍用と一部の新聞社だけが使っているけど、これが国内の地方都市やオーストリア、ネーデルラントでの通信に使われるようになれば、もっと大勢の人が利用するようになる……そうなれば、通信に掛かる負担も大きくなるんだ。今のライデン瓶だけでは追いつけない程になるよ」

「そうなれば、私もオーストリアのウィーン宮殿にいる家族に何時でも連絡が取れるようになりますね……」

「そうだね、このまま技術革新が進んでいけば30年……いや、15年もあれば20分程度で連絡が取れるようになるよ。電波の仕組みに関する法律も予め成立させておけば、今後の電波事業に関してもフランスが有利になるからね。特許や権利を含めてフランスが先進技術を確保しておけば、今後の発展と利益をもたらすのは確実だよ」


やはり、オーギュスト様は一歩、いえ、三歩以上先を見ているようです。

巨大な電波塔がパリに建ち、様々な人達が国中に連絡が取れるようになれば……きっと、不自由なくいろんな人との交流ができるようになるでしょう。

私たちが生きている間に、その光景を目の当たりにすることができるのであれば、きっと科学技術も発展していく事でしょう。

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