724:また前進
「ベルリンにおける戦いで、彼らが国家予算の4分の1を費やして作られた城壁は強固です。重マイソールロケット砲による砲撃を開始しておりますが、敵も威力の高い固定式大型砲台による反撃をしてきており、こちら側にも被害が出始めております」
「そう易々と突破できる相手ではないというわけか……こちら側の被害はどのくらい出ている?」
「投入しているフランス軍のうち、現時点までに約2000名が戦死……1万人程が戦傷している状態です。二個大隊が第二防衛線と第三防衛線を突破した際に集中砲撃を受けて、その時の被害が最も大きい損害をだしております」
「二個大隊というのが、例の突撃命令を敢行した部隊か……うむ……恐らく第五防衛線以降の内側であれば、蒸気兵器の配備も進んでいるだろう……」
「ええ、最低でも国土管理局との情報を照らし合わせれば、あと14機程存在しているものと推測されます。マギアと大型砲台の破壊が急務となっております」
固定式大型蒸気兵器……。
やはりこれらの兵器群による攻撃が一番フランス軍に損害を与えているようだ。
フランス軍の主力兵器である重マイソールロケット砲なども高威力ではあるが、精密な砲撃に関しては難しい……。
風向きなどの条件が揃えば誤差は30メートル以内に収まるのだが、如何せんあの手の兵器は『多く撃ち込んでナンボ』の兵器であり、精密砲撃を行う兵器ではないのだ……。
命中精度は二の次であり、大量に配備して一斉砲撃を敢行して城壁や目標地点を砲撃して削り取る。
これに特化した兵器であり、制圧力に長けている能力でもあるのだ。
元々マイソール王国との会談後に、フランスが蒸気機関の技術支援と引き換えに買い取ったマイソールロケット砲だけど、これは史実ではマイソール王国との戦いで勝利したイギリスが多くのロケットを鹵獲し、彼らが使用することになるはずだった兵器群だ。
それが今ではフランスが大々的に利用しており、欧州協定機構軍にも設計図や資料などを贈ってライセンス生産を認可している。
重マイソールロケット砲に関してはフランス人技術者たちによって産み出された面制圧用の兵器であり、これらの兵器を活用することによって、フランス軍の更なる発展と戦略の幅を持たせるべく活用することを優先させた。
つまるところ、都市部攻略に向けて制圧性に優れた兵器の開発を優先事項として、国王である俺は承認したのだ。
その一方で、プロイセン王国軍の技術者たちは精密な砲撃や射撃を行う武器・兵器の生産に長けていたこともあり、彼らの使っている空気銃であったり、蒸気野砲に関しての精密性は上と言わざるを得ない。
特に空気銃に関しては……20世紀クラスの技術力によって高威力と高レート発射が出来るのが恐ろしい。
空気猟銃と大差ないレベルにまで仕上がっている上に、ライフリング技術まで作り出している点が恐ろしいのだ。
俺以外にも転生者もしかしたらいるんじゃないかと思うぐらいに良く出来ているし……。
いや、もしそうだったとしたら尚更技術者を保護しなければならない。
アンソニーとジャンヌからの報告によれば、これらの最新鋭武器・兵器を設計・生産しているのはベルリン宮殿の直ぐ近くにある工場で作られているらしい。
ヴィルヘルム2世が実権を握った頃から、これらの工場には大量の物資などが搬入されており、そこで現在欧州協定機構軍を足止めしている兵器を生み出したそうだ。
蒸気兵器といっても、野戦砲に蒸気機関を内蔵して威力を高めているモノを開発・実戦配備している点からも、いくら劣勢に追い込まれているとはいえ、油断ならない相手でもある。
現に、補給線が確保されている上に、人員の配置と補充が行える欧州協定機構軍と互角に渡り合えている点では脅威である。
「こちらは大量生産・大量配備・面制圧を行う兵器を開発しているのに対して、プロイセン王国軍は精密性を重視して開発された武器・兵器の投入を行っているからな……特に、首都での決戦に備えて準備をしてきただけに、彼らの抵抗もさることながら兵器の温存が出来ていたのが、ここにきて我々に対して響いているな……」
「申し訳ございません」
「いや、君に対して責めているのではない。少なくとも武器・兵器の運用思想の違いでもあるのだ。都市部での戦いに特化した戦術に合うやり方を彼らは選んだ。少数精鋭・少数配備とはいえ、我々よりも優れている武器・兵器を使って遅滞戦術に持ち込んでいる……それはプロイセン王国軍の戦術を評価すべきだろう」
皮肉なことに、追い詰められていたとはいえ統率力を失ったわけではないプロイセン王国軍は、薔薇十字団の抗戦派と協力して戦いを続けている。
食料に関しては来年3月までの備蓄分がベルリン市内に蓄えられているとされており、砲弾や武器に関しても年内までは戦える分を確保しているそうだ。
ロンドンの戦いとの違いは、やはり幼い子供や妊婦の女性などを戦闘員に動員していない点だ。
ロンドンの戦いでは、武器を握れる状態であれば5歳児ですら戦いに参加していた記録が残っている。
子供が現れたので保護しようとしたら刺された兵士もいたぐらいだ……。
子供まで戦場に駆り出されて殺されるのは正直胸糞悪い話だし、非戦闘員に関しては降伏の意志があれば絶対に攻撃してはならないと厳命している。
それでも、10代前半の子供が動員されているのは報告書でも記載されている上に、アンソニーからの報告では、防衛線の建築現場では子供達や老人、そして囚人までもが動員されているという。
第二防衛線に関しても、囚人や老人だけで構成された部隊による攻撃があったとされているし、やはり欧州協定機構軍内で情報が行届いていない部分もあるかもしれない。
「老人や囚人も動員しているとのことだが、それも最新鋭兵器を温存して戦闘に使いたい現れでもある……これに対して、フランス軍をはじめとした欧州協定機構軍が如何にして攻略するか……それに関しては欧州協定機構軍との間で相談したほうがいい」
「はっ……しかし、今からの相談となりますと……一週間ほど作戦に支障が出てしまいますが、それでもよろしいでしょうか?」
「……余としては相手に時間を与えたとしても、こちら側の戦術の内容を欧州協定機構軍内で共有して、こちら側だけでなく相手の民間人への犠牲が少ないやり方で行えるのであれば、それに越したことはないからね……念には念を入れてやるべきだ」
つまるところ、プロイセン王国軍は精密性に優れた武器・兵器の長所を生かした戦いを向こう側が行ってくる以上、欧州協定機構軍側はそれにどう対応するか……という点で、フランス軍をはじめとした欧州協定機構軍は苦戦しているというわけだ。
最も、こちらは前進を続けているためこのペースで前進を続けていけば、年内までにはベルリンを攻略するのは可能である。
可能と言いきれるのには理由がある。
それを説明しよう。




