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722:ベルリン包囲戦(下)

夜が明けてからも、欧州協定機構軍による攻勢は続いていた。

第二防衛線を突破したフランス軍の攻勢は、当初の予定通り住宅地が密集するエリアへと戦いは移っていく。

流動的に、そして大勢の人を巻き込んだ市街地戦闘がより激しさを増した。


伝令兵からの報告により、プロイセン軍側が人員の根こそぎ動員を開始して、前線に次々と投入してきていることが告げられた。


「市民軍の存在を確認!!!老人から子供まで動員して徹底抗戦を続ける模様です!」

「クソッ、まるでロンドンの戦いみたいな事をやってくるのか?!」


ベルリンにおいて、逃げ込んだ市民の総数は40万人程いたため、彼らの多くが徴兵されたのだ。

40万人もの人間を兵士にすることは容易いことではない。

全員に最低限の軍事教練を行わなければならないからだ。


鎌や鍬といった農具であったり、ハンマーなどの武器になりそうなものであればそれはもうすでに『武器』としてカウントされ、最低限扱えるようであれば『兵士』として採用されたのだ。


彼らには拒否権などはなかった。


しかしロンドンの戦いと違うのは、10歳未満の子供や妊娠中の女性、手足などを損傷した身体に障害のある人は除かれたという点だ。


こうした人達は教会などの施設に集められて、防具の修理や武器の作成、簡易的な食事の調理を任されていたのだ。


『少しでも持久戦を行うためには、全員の協力が必要だ。とはいえ、あまりにも幼過ぎては戦えないし、反って足手まといだ……妊娠中の女性も身体がキツイだろうし、戦傷等で身体に障害のある者にとっても武器を持って戦うことは強要できん。その代わりに、少しでも出来ることを優先して考えて働けるようにしてもらいたい』


このことを推奨したのは、薔薇十字団の中でも穏健派に属しているグループからの提案であった。

ロンドンの戦いのように、全ての人材を投入しても勝てる戦いにはならない。

むしろ貴重な兵力だけではなく、後方支援要員すらも玉砕に近い行為を行った結果、ロンドンの戦いにおいて市内は壊滅的打撃を受け、現在までに人口は最盛期の10分の1程度しか回復していない。


グレートブリテン王国内戦により、かの国は史実では列強国の一員であったが、その列強国になる道が閉ざされたために、再び力を付けるまでには最低でも100年ほどの時が必要になるだろう。


そんな経済回復がしていないロンドン市内において、すでに英語ではなくフランス語が中心となっている状態であり、市内の至る所にはフランス語で書かれた看板や、企業などが進出している。

実質的に、ロンドンはフランス資本によって再生されている状態であり、ロンドンの戦いではすべてを失った結果、元の言語まで失われてしまったのだ。


穏健派は、破滅をもたらしたこの結果を恐怖し、戦後のビジョンをどうにかして作り上げることを目標としていた。


穏健派の多くは、ベルリンが市街地戦闘において荒廃してしまったとしても、復興は必ず成し遂げるようにしようとしている。

特に、プロテスタント系の宣教師を匿っている者も多かったこともあり、彼らは望みを託せるように根回しを行っていたのである。


また、薔薇十字団とて派閥の中でも穏健派に属していたグループの多くは、投降することを推奨しており、こうした穏健派で執り行っていたグループの多くが集団投降を行い、犠牲を抑えようとしていたことも事実である。


とはいえ、全員を救えるわけではなかったのと、穏健派の割合は薔薇十字団の中では3分の1未満だったことから、彼らが人的損耗を避けようとしていても、徹底抗戦を続けることを唱えるグループや、薔薇十字団のボスであるカリオストロを中心となって出来上がった派閥の意向が強く反映されてしまっていることもあり、ベルリンの多くの地域で非戦闘員であっても武器を手に取れる年齢に達している者であれば、全員が兵士として戦うように指導が行われた。


単純で明快な指令。

それが突撃であった。


「「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」


大声で叫びながら、旗を振り回している。

彼らの旗は薔薇十字団のシンボルマークである薔薇と十字架であり、大きく旗を振ってやってくる……その行動に意図が分からずに対峙したフランス軍の部隊は固まってしまったのだ。


「とっ、突撃してきています!大勢が旗を持ってこちらに向かってきています!」

「止む終えん!撃てッ!旗を持っているのは砲撃の観測用として持っている可能性が高い!近づかれるとマズい!」


薔薇十字団の下した命令はただ一つ。


『友愛の精神を持てぬ異端者に、友愛の精神を教えるために突撃し、武器を取り上げよ』であった。


これは薔薇十字団の基礎となる友愛思想が発展した考え方であり、戦おうとしている者の戦意を挫くことこそが大切であると同時に、闘争心がある場合にこれを挫かせるには大勢の人間が武器を持っている人間から武器を奪い取り、その武器を破壊して降伏するように促すことこそが友愛として大切な事であると説いたのだ。


だが、これは単なる方便であり、実際には相手側の弾薬を消耗させるように指示を出しており、まず最初に突撃を敢行する者の多くが老人や囚人、何かしらの違反を起こして市民権を取り上げられた住民が大多数であった。


『蒸気兵器を随時投入するにも時間がかかる……今ある資源を活用せねばなるまい。老人や囚人、それに違反者をつかって戦場で時間を稼いでもらおう』


薔薇十字団のトップであるカリオストロが下した命令によって、旗だけを持った市民軍が第二防衛線目掛けて突撃を敢行。

多くが旗以外の装備を持たない者達であり、彼らは3万人ほどの大突撃によって戦局を混乱させる狙いのためだけに命令されたのだ。


命令を拒む者は、後ろから容赦なく銃撃されており、立ち止まったり逃亡しようとした者はその場で射殺された。


後ろから撃たれたくなければ前に進むしかない。

人々は消耗品として、そしてベルリンの戦いにおいて犠牲を払ってでもプロイセン軍側の立て直しをするために必要な存在でもあった。


これによる、多くの市民が第二防衛線を突破したフランス軍やオーストリア軍に大挙して突撃を敢行し、彼らもまた迎撃のために発砲を余儀なくされたのだ。


こうした血みどろの戦いは多方面にも及んでおり、行動と止めればどちらかが死んでしまう。

そのため、相手を如何にして殺すか……という思考に陥り、各地で凄惨な光景が繰り広げられることになった。


ベルリンの中心部ではプロイセン軍側がある程度立て直した巨大蒸気砲台を使って5分に1発のペースで砲撃を開始し、包囲作戦を行っている欧州協定機構軍に少なからぬ損害を与えた。


しかし、市街地内部に突入をしている欧州協定機構軍は兵器の質で勝負に打って出ており、すでに兵站と補給線を確保した欧州協定機構軍には弾薬や食料も届いている。

つまり、相手側が降伏するか殲滅するまで戦うことができるのだ。

この血みどろの戦いは当面つづくのであった。

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