709:新秩序
それから、既に単独講和したポーランドに関する処遇なども取り決めが行われており、かの国に関しては、オーストリア・クラクフ共和国が東部地域の併合と、現体制に対してプロイセン王国ではなくオーストリアの傀儡国家として生き長らえることを条件に講和が完了している。
戦争参加国でありながら、比較的温情的な判断が成されたことは、ポーランドにとって幸運な事だったと言えるだろう。
「ポーランドに関してですが、かの国は既に単独講和に応じており、また今後は欧州協定機構加盟国としての一員として、参加することになるでしょう……最も、それが実現できるのは最短で5年はかかりますがね……」
「懲罰ではないにせよ、まだまだ我々に誠意を見せなければならない国ですからね……プロイセン王国の傀儡国家だったとはいえ、改革はまだ我々よりも進んでいないのでは?」
「それもありますが、親ロシア派、親プロイセン派の貴族同士で国内の情勢が不安定化していたので、これらの派閥を潰し合い、国王に関しては欧州協定機構加に宥和的で国内の改革を推し進める派閥……革新思考派に支援を行い、かの国王を納得させました……。これから5年間の間に改革を実施し、欧州協定機構加盟国としての責務を果たすまでですよ」
クラクフ共和国も一時は国土の90%以上を占領されたが、ポーランド軍の撤退に伴って領地を回復している。
しかし、それ以上にプロイセン王国に実質的な傀儡政権となっていた事も相まって、ポーランドは実質的には列強から転落し、辛うじて地域を維持している国家という位置付けであった。
今回はプロイセン王国から一時的とはいえ、蒸気野砲の供与が行われたことでクラクフ共和国に多大な被害と占領を行えるほどの軍事力があることが証明されたのだ。
その事を踏まえて、今後はポーランドを抑えると同時に、これ以上の混乱を拡大させないように弱体化をする必要性が生じたのだ。
最も、この主張をしていたのは史実のポーランド分割に対して賛同的でありテレジア女大公陛下の意向を無視して強引な併合を執り行うことを目指したヨーゼフ2世陛下であった。
今は既に亡くなっているが、史実よりもポーランドに対する態度は幾らか優しくはなっており、いくつかの領土割譲だけで済んだのはポーランドにとってはかなり「温情」に等しい結果である。
ヨーゼフ2世の跡を継いだレオポルト2世陛下も、史実とは違ってポーランドに対してはある程度柔軟な対応をしていることもあって、ポーランドは分割の末に消失する運命から逃れる事が出来たともいえる。
クラクフ共和国がポーランド政府に対して要求した事は、ズバリ戦後の賠償と合わせて領地の割譲であった。
元々開明的な考えを持って、実質的に立憲君主制を導入していた事も相まって、ポーランド側も改革の機運を訴えた革新思考派のグループであったが、プロイセン王国と旧ロシア帝国側からの圧力によって、これらの考えや思想を持っている人物やグループは抑圧されていた。
しかし、そうしたグループは戦前よりクラクフ共和国を通じてフランスやスウェーデンと接触を図り、内部からの改革と欧州協定機構加盟に向けて国王の側近や親しいグループに関する情報を集めてくれたのだ。
とどのつまり、クラクフ共和国によってポーランド内部からも改革の意思が芽生えており、その芽生えは潰えることなくこうした形によって国家の存続が許される形となって、首の皮一枚で繋がったのだ。
「ポーランドの改革に関しては理解しましたが……彼らは本当に信頼できるのですか?」
「ええ、親プロイセン派と親ロシア派の貴族を仲間割れして対立化を激化させたのも彼らでありましたし、何よりも内情を流してくれたお陰で工作もやりやすかったのです。それに……彼らとて国家滅亡という事態は避けたいでしょうし、我々に協力をしてくれた見返りとして国王に次ぐ発言権を有するようになりました」
「つまり……実質的に国の実権を握ったというわけですね?」
「ええ、ですのでポーランドは欧州協定機構に従順に従ってくれております。賠償に関しても鉱石資源の多い地域の割譲や港湾施設の租借を行ってまいります。これによって15年から20年程期間を要しますが、賠償金の支払いも行えるでしょう」
「領地の割譲以外にも、経済的な請求を行うのですね」
「その通りです。北部のグダニスク地域の利権、及びウッチで生産されている工業製品などに課税を行い、これらの利権や税から捻出された金額から賠償金を補填する契約です。ポーランド側も国家の維持を条件に了承してくれました」
占領されて被害を受けた地域と同じ面積分の補填をポーランド側に要求し、ポーランド側もこれ以上の経戦能力が無い事と、オーストリアやスウェーデン側からの圧力によってこれらの国々にも領土を割譲されているのだ。
最も、史実でもポーランドが何度も分割された末に国土を喪失している歴史を経験したことがあるが故に、今回の講和条件によってクラクフ共和国をはじめとした欧州協定機構加盟国によって領土を分割されるも、国土が残っている時点で、史実で辿ったポーランドの国家喪失に比べたら、かなり温情的ともいえる講和内容でもあった。
ポーランドも史実では1795年にプロイセンやロシア、オーストリアによって領土を三分割された上で国土は全てこれらの国々に吸収・併合されたために、国家の滅亡という事態が起こり、それから独立した後もナチスドイツによって占領された挙句、ソ連がポーランド地域を奪取した後は、実質的なソ連の傀儡政権でもあった。
故に、ポーランドは独立した国家としての実績は、現代になって復活したばかりでもあるのだ。
2022年に起こったヨーロッパでの戦争でも、ポーランドは武器や兵器支援をNATO加盟国の中でも大々的に執り行った要因の一つに、戦争で敗北したらどのような事が起こるのか……を身をもって知っているからこそ大々的な支援に踏み切り、俺が転生をする直前に至るまでそれは続いていたのだ。
ただ、問題なのはポーランドよりもその隣国であった。
「ポーランドの問題は一先ずいいでしょう……問題は旧ロシア帝国ですね……」
「ええ、あの地域は厄介です。旧ロシア帝国はまだ国力を温存しているとはいえ、領地に関しては旨味もありませんし、新ロシア帝国との併合に関しては領土的・政治的な面で反発が強まる恐れがあります」
「まだパーヴェル1世も欧州協定機構に関して懐疑的であり、彼に付き従っている派閥は忠誠心も強いので、強引な併合は彼らの反発を招いて戦乱が発生する恐れがあります」
「うむ……プロイセン王国よりも問題は長引きそうだな……」
「困ったことに、かの国は閉鎖的になっております。これに関しては救世ロシア神国への防波堤としての役割を担うぐらいしか……」
「仲間にもできず、かと言って新帝国への強引な併合もできぬか……厄介な国だな……」
「ええ、ですのでこの機会を契機に旧ロシア帝国への処遇も話し合うべきでしょう」
旧ロシア帝国の扱いはかなり難しく、集まった大使や弁務官も、旧ロシア帝国の今後について十分な議論を尽くすべく、議論を執り行ったのである。




