696:ベルリン包囲作戦
ベルリン包囲作戦……。
そこに記されていたのは、ベルリン包囲作戦に参加する欧州協定機構軍の総数と、具体的な作戦案について複数の案がまとまったものである。
まず、現在のベルリンに関する記載から見ていこうと思う。
ベルリンはプロイセン王国、そしてその後のドイツ帝国の首都となる場所であり、中世ヨーロッパ時代から重要視されている都市でもある。
ベルリンは市街地の中心部から、半径10キロ圏内を要塞化したものであり、プロイセン王国の首都防衛のために広大な壁が建設されている。
これは史実において第二次世界大戦後にアメリカ率いる資本主義陣営と、ソビエト連邦率いる社会主義陣営の対立によって、西ドイツと東ドイツの国境線沿いに建設されたベルリンの壁よりも高く、そして厚さは3倍以上となっており、下手なコンクリート製のものよりは頑丈に作られているようだ。
これはヴィルヘルム2世が国庫の予算をふんだんに使用して建設したということもあり、防衛戦闘を重視して街そのものを要塞化したとも受け取れる。
「半径10キロ圏内を壁で囲み、軍事要塞で使用されるような強固なレンガ作りを担っており……さらには複数の砲台も展開しているのか……都市要塞といったところだな……」
「恐らく、世界最大の要塞であることには変わらないですね。既に宮殿外部も囲うように壁が作られておりますので、外壁だけではなく内部でも二重、三重の壁が建設されたとのことです。それぞれ都市区分が分けられておりますので、ベルリンでの決戦では都市区画における住宅区画も攻略しなければ、中央の政府関連の施設にたどり着けません」
「物凄い要塞だな……外壁ですらマイソールロケットやグリボーバル砲の集中砲撃をしなければ壊れない壁で覆われているというのに、さらに内部にも壁で敷き詰められているのか……これでは攻略も難しいな……」
こちらに熱気球による空爆が行われる技術があっても、それを実行するにあたって妨害されない事が条件であり、制空権を完全に掌握しないと熱気球は投入できないだろう。
さらに、付け加えるように言えば完全に要塞化した都市部を攻略するには兵力もかなり必要であり、今回のベルリン包囲作戦には述べフランス軍20万人、オーストリア軍6万人、スペイン・ポルトガル軍4万人、スウェーデン軍2万人、ノルウェー軍2万人の、合計34万人規模の兵員を動員するそうだ。
これは戦闘員の数であり、後方支援要員の数を含めれば50万人に達するという。
「今回のベルリン包囲作戦に先立って、欧州協定機構軍50万人をもって軍事作戦を実施いたします」
「50万人……物凄い数だな」
「最低でも、これぐらいの数がないと攻略は不可能だと判断した為です。10万人規模ではベルリンにいる市民などを根こそぎ動員した場合、相手側は40から60万人規模の兵員を動員可能と見積もっております。投石や弓矢といった古いやり方であったとしても、脅威となり得るのです」
「そこで戦闘員を34万人を揃えて戦うというわけか……」
「決戦において備えは万全を期す必要があります。故に、予測される反撃に対処できる兵員が必要なのです」
50万と最大で60万の兵士のぶつかり合い……近代史における最大規模の戦闘になるのは間違いないだろう。
史実でのベルリンの戦いではドイツ軍がヒトラーユーゲントや傷病者まで根こそぎ動員してかき集めて90万人近くで抵抗し、対するソ連軍が200万人以上の兵力でゴリ押しで勝利した戦いでもある。
あの時は、ソ連軍兵士による略奪や暴行によってベルリンでは戦闘以外にも混沌とした状態に陥ったと記されている。
流石にソ連軍みたいに傍若無人な振る舞いはしないように、略奪や暴行の禁止を徹底させ軍規違反者は厳罰に処すように命じてはいる。
それでも、これまでに数十人のフランス軍人が戦地において窃盗や略奪行為に加担したとして、軍刑務所送りになっているので、完全に無くすことはできないかもしれない……。
大規模な兵力を動員し、かつ一拠点を堕とすのに50万人も揃えているので連携は必須だ。
「七年戦争の時ですら、ここまで大決戦を行った例はあまりないでしょう。兵士の数を含めても、軍としての連携が重要になってきます」
「50万人規模の兵力は凄まじいからな……それだけ多くの兵力が集まっていることだから、軍同士の連携も必須だろう」
「また、ベルリンは区分分けされておりますので、これらの地域の制圧には時間が掛かります。ベルリンに複数あるとされる巨大固定式砲撃装置や固定式蒸気兵器の類は、まだ実戦投入されておりませんので、どの程度の威力があるのかは不透明なままです。ただ、これまでに確認されている蒸気機関よりも大幅に強化されたものであるのは確実でしょう」
そして、ただプロイセン王国側も勝てないというわけではなく、勝てる……もしくは決戦を行って一撃講和が可能であるという算段があるからこそ、首都決戦を選んだのだ。
その証拠にアンソニーとジャンヌがベルリンに潜入して探りを入れている巨大固定式砲撃装置や固定式蒸気兵器はプロイセン王国軍の捕虜を尋問しても『わからない』『その兵器に関しては詳しいことは知らない』という回答が返ってきており、一般兵には存在そのものは知っていても、どのような性能なのかは未知数なのだ。
つまるところ、首都に配備されている兵器はごく一部の兵士にしか操作方法が分からない上に、威力や性能なども秘匿兵器なのだ。
もしかしたら、これらの兵器はマイソールロケットやグリボーバル砲よりも強大で、20世紀に登場したパリ砲やクルップK5のように、長距離攻撃と高火力に特化した兵器した兵器の可能性も捨てきれない。
故に、ベルリン包囲作戦が開始されると同時に、これらの兵器群の無力化する必要がある。
正直に申し上げると、こうした兵器を鹵獲したり戦勝国としてぶんどって解析をしたいのは山々だし、実際に独自の進化を遂げた兵器というのは男にとってロマンの塊でもあるが、残念ながら脅威となる以上は潰さないといけない。
「……ベルリンでの決戦にプロイセン王国が賭けたのは、少なくとも我々に大きな損害を与えることが出来ると確信しているからだ。確信がなければ戦うことはしない、講和を行おうとするはずだ……なのに、それをしなかったという事は、国土の大半が占領をされても自分達の軍隊で粉砕できる自信がある表れだ……陸軍大臣、海軍大臣、国土管理局局長……」
「「はっ……」」
「これは国王である余からの勅命だ。ベルリン包囲作戦を国王は承認する。遅くとも年内までにベルリンを平定し、そして固定式巨大兵器群を無力化せよ。またベルリンの中心部まで進行できたら必ず彼らに降伏勧告を出すように、血は多くは流したくはないからね」
「「御意」」
国王として、ベルリン包囲作戦を承認した。
史実ではフランス革命戦争後に起こったナポレオン戦争で蹂躙されたプロイセン王国だが、それよりも早くにベルリンはフランスをはじめとした欧州協定機構軍の手に落ちるだろう。
果たして、どのような結末になるのか……歴史を動かしている一人として見届ける責務があるのだ。




