695:ベルリン包囲網
さて、プロイセン王国の三分の二近くを制圧したわけだが、それでもプロイセン王国は降伏せず、ベルリンでの決戦において勝敗を決めようとしている。
特使を派遣して講話条件を提示したものの、特使が返された事情を見るに、彼らは先のフリードリヒ大王が七年戦争において危機的状況下に陥ったにも関わらず、見事窮地を脱した「ブランデンブルクの奇跡」の再来が起こると思っているらしく、決戦において欧州協定機構軍に対して一撃を加えて講和に持ち込む公算らしい。
実際に、ベルリンの戦いにもつれ込んでも彼らは『勝利ないし敵に大打撃を被る事が出来る』算段があるからこそ、この戦いでけりをつけようとしているようだ。
その証拠にこれまでに確認されている蒸気兵器などを含めて、ベルリンでは相当な抵抗が予測されるだけに、欧州協定機構軍も相当な被害が出る可能性もあるため、慎重にベルリン包囲戦の作戦計画を実施しているという。
ベルリン以外の都市でも彼らの切り札ともいえる蒸気野砲や連射式空気銃などが配備されていたものの、殆どが通常兵器・武器の類が多く、最新鋭の軍装備品の多くはベルリンに貯蔵されている節が見られる。
陸軍大臣と海軍大臣が口をそろえて、ベルリンに最新鋭の兵器を温存している旨も明かしている。
「これまでに解放した都市や地域でも、守備を担っていた部隊の多くが旧式の装備品で武装しておりました。プロイセン王国がネーデルラントの大半を制圧下においた時のような蒸気野砲や連射式空気銃といった最新鋭装備品は殆ど配備されておりません。薔薇十字団関係の部隊のみ、こうした装備品を身につけておりましたが、それでもこれまでに確認されている数と比較しても、かなり少ないです」
「オーストリア方面軍でも同様に新鋭兵器の投入が殆ど行われていないという報告が挙がって来ております。さらに、ベルリン決戦に備えて各村々に至って備蓄していた小麦やジャガイモなどを接収しているため、ベルリンを包囲しても長期戦に備えるべく準備を進めているものと推測されます」
「鉄壁の守りを固持しているベルリンへの攻撃しか、プロイセン王国を降伏させる手段はないのだな……」
史実よりも早くベルリンの周囲には高さ5メートルを超える壁が建設されており、これは都市を守る城壁としての役割も担っている。
さらに、これまでに解放した領邦や地方都市に比べて、壁の厚さも相当分厚いものとなっているため、マイソールロケットやグリボーバル砲の一斉砲撃にも耐えきれる程の強度があると国土管理局の報告が挙がっている。
これを調べてくれたのはアンソニーとジャンヌであり、二人の報告書では『最低でも同じ場所に100発以上の砲弾を浴びせないと壁が破壊できない』と記載があったほどだ。
上空から熱気球を飛ばして正確に攻撃するという手段も考案されているが、連射式空気銃などを巨大化して、対空砲に転用された場合はこれを迎撃する余力はあるのか不透明でもある。
「やはり、ベルリンにおいて決着を付けるしかありません。まだあの都市には複数の蒸気兵器が健在しておりますし、何よりも分厚い壁に覆われておりますので、これらの防衛網を突破しない限り、市街地への侵攻すら困難です」
「ベルリンには確か固定式蒸気兵器や超大型野戦砲の存在もあるのだろう?これらの兵器に対抗する手段も使うのだな?」
「ええ、安全を期すために一定の戦果を挙げている無人の熱気球による空からの攻撃や、射程距離を大きく伸ばしたマイソールロケット砲による攻撃を開始し、かの平気が存在している箇所に5号弾を打ち込むことを計画しております。ただ、国土管理局からの情報によれば、これらの兵器に関し、我々の攻撃範囲よりも大きく加害範囲が広いという情報も入って来ておりますので、欧州協定機構軍が一定の距離に接近すれば、壁の外側から狙って攻撃をしてくるものと推測されます」
「それだけ長距離射程を行える兵器というわけか……熱気球やマイソールロケットに対抗するための長距離兵器となれば、それだけこちら側も対抗しないといけないわけか……」
今回、プロイセン王国西部の主要都市や領邦地域はフランス軍による無人の熱気球による空爆が一定の成果を挙げた。
その結果は確実にプロイセン王国側も把握しているはずである。
把握しているからこそ、対抗策を何かしら講じてくるはずだ。
「しかし、プロイセン王国は決戦に備えているということであれば、熱気球対策もしてくるはずだ。恐らく、マイソールロケットをも上回る長距離兵器を保有しているのであれば、ベルリン決戦は長期戦の要相になるだろうな……」
「最低でも3か月……長引けば1年近く戦闘が続く可能性もあります。最も、ベルリン以外の都市は3か月以内には平定が完了する見込みですので、協力してくれた地方貴族であるユンカーへの報償や地位の確保など、やるべき事は沢山ありますが、逆説的にいえばベルリンさえ封じ込めてしまえば、プロイセン王国の大部分を掌握できたも同然の状態となります」
「ベルリンの掌握か……それさえ完了すれば、この戦争は終結するのだな?」
「ええ、プロイセン王国の同盟国であるポーランド軍はすでに瓦解が始まっており、親ロシア派の貴族とプロイセン派の貴族による内紛が発生しているという情報が国土管理局に入ってきております。プロイセンへの輸出経済を強化していた同国の経済情勢も不安定化しており、ポーランドも単独講和に踏み切る見込みが強まっております」
「そうか……もうポーランドも持たないのか、であれば、プロイセン包囲網の完成だな。とはいえ、かの国は蒸気機関に関連する技術は我々の一歩上を進んでいたはずだ……どんな兵器が繰り出されるか、警戒を怠らないようにせねばな……」
ポーランドはすでにクラクフ共和国の完全制圧どころではなく、単独講和に踏み切ったとしても国体維持を優先して考えるだろうと推測されているため、三ヶ月以内にベルリンでの決戦が行われるのはほぼほぼ確定されたも同然である。
しかしベルリンいえど、蒸気関連では兵器技術においてプロイセン王国がリードを広げていた。
それだけに、今回のベルリン包囲作戦では多くの蒸気兵器が決戦に備えて国中からかき集められたのではないかと推測されている。
蒸気野砲や空気連射式銃といったスチームパンクを題材にした映画やアニメで登場しそうな武器や兵器もプロイセン王国はフランスよりも先に正式採用しただけではなく、実際に運用しているからね。
逆説的に、ベルリンでの決戦においてこれまでに我々が認知をしていない兵器群を使って総反撃を行使するということも考えられる。
「あとは……フランス軍だけではなく、欧州協定機構軍が一致団結して作戦を遂行する事だな……作戦に関しては軍に任せる。この戦争に終止符を打てるように、任務に励んでもらいたい」
「ありがとうございます陛下、ベルリンでの決戦における作戦は既に立案されております」
「そうか、作戦を見ても構わないか?」
「どうぞ、こちらになります」
そして、ロシャンボー大臣が欧州協定機構軍のベルリンでの決戦における作戦案を提示してくれたのだ。




