62:カレースープ
主人公に変化が………
時刻は午後8時。
さっき調子に乗って図面まで引いてしまっている自分を殴りたくなった今日この頃です。
小トリアノン宮殿もだいぶ冷え込んできた。
暖炉に沢山薪をくべてガンガン温かくしているが、それでも寒い!!!
寒いよー!
現代よりも平均気温が寒かったみたいだし、小氷河期だったと言われている時代だけに寒さだけは辛い。
ホットコーヒーも、今左手で持っているコップに淹れてあるので4杯目だ。
「ううう……やはりこの時期は凄く冷え込むなぁ……ハウザー氏、外の気温は何度ぐらいだ?」
「温度計ではおおよそマイナス6度です」
「そんなに?!これで外で作業をしていたら霜焼けになってしまうな……うう、冷えるのは少しばかり身体に堪えるね」
マジでこの時代の冬を舐めない方がいい。
そもそもヴェルサイユは北緯49線上にあった筈だから……北海道の札幌よりも北に位置しているんだよね……。
平均気温が1月ぐらいだと5度前後になるから、現代の暖房器具に頼りまくっていた俺にとってこの時期はマジで辛い。
暖炉の火と毛布にくるまっても寒いものは寒い!
ふ、冬の間だけでも南部のニースあたりに別荘を構えたいねぇ……。
ニースは夏涼しくて冬暖かいリゾート地だもんね!
しかしなぁ……今の所イタリア半島にあるサルデーニャ王国に帰属しているのよ。
割と戦略的にもいい場所だから幾度も戦火に見舞われているという悲しい場所なんだよなぁ……。
19世紀ごろになってフランス領になったと思う。
あー、空腹と寒すぎて仕事に集中出来ていない!
今やるべき仕事は意識調査結果の国民向けの集計結果だろう!
明日には各新聞社に送らないといけないやつだぞ!
締切守らなかったらやっぱ国王だらしねぇ!って指さされるぞ!
自分、マジでしっかりしろ!
これじゃあ話にならないよ!
あれ簡単なグラフだけでも良かったのにイラストまで付けちゃった結果、完全に蛇足って感じになっちゃっているじゃねーか!
お陰でイラスト書いていて最後の最後でインクをこぼしてしまって凝りまくった用紙を丸ごと1枚台無しにした戦犯がこちらにおります(自分を指さしながら)
さっきまでのお調子のいい空気何処行ったんだコンチクショー!!!
大ポカやらかしやがって!!!
おまけにレイアウトに凝り過ぎて時間浪費してしまうとかお馬鹿さんすぎるだろうが!
職員にも余計な負担かけちゃったし、もう本当に……俺ってアホだわ。
(いい加減に進まないと職員にも負担掛かるしなぁ……みんな、ホンマすみません!!!)
幸い1枚の被害で済んだ。
インクを溢していない箇所は丸コピよろしく。
そのまま書き写せばいいので、あと1時間もあれば終わる仕事だ。
でも、その1時間で終わるのだろうか?
そんな予感がしてきたんだ。
あと一歩の所で立ち止まってしまっている感じがしてきたぞ。
こう、働き続けると謎テンションというものに遭遇してしまうんだ。
長時間仕事を続けていると突然精神がハイになっている感じが……。
躁鬱病でいう所の躁状態かな。
分かりやすく例えるなら一気に感情が高ぶってブワァーッ!!!っと文章が流れるように書き込むことが出来る感じになる。
しかし、このブースターが切れてしまうとノロノロ運転をしている高齢者ドライバーの如く、全く筆が進まなくなってしまう現象に似ているな。
燃え尽き症候群じゃなかろうか?
あー……思い当たる節がそれなりにあるわ。
転生前もたびたび仕事に身が入らないことがあって精神科医の元で精神安定剤を服用していた時期もあった。
うん、これ燃え尽きる3分前かもしれんわ。
これじゃあアカン!
一回、空気の入れ替えも兼ねて思い切った事をしよう!
ラストスパートをかけるために温かい料理でも作って自分や職員たちを奮い立たせてみるか。
自分の為にもそうしよう。
あと1割を書ききれば完成なんだけど、その1割を書くのにリソースがドンドンと削り取られてしまっている状態なんだよね。
一旦息抜きも兼ねて夕食を取ろう。
アントワネットは既に宮殿で先に夕飯を食べていていいよとは言っているけどね。
今日はアントワネットは勉強に集中する日なんだ。
改革を手伝ってくれているのは俺もしっかりと理解しているし、何よりも彼女が頑張っている姿はとってもいいものだ。
だけど、彼女自身がもっと色々な事を学びたいと申し出ていたので、今は経済学の先生と勉強をしている筈だ。
(アントワネットも頑張っているんだ。俺も頑張らなくちゃ……!)
俺は自分を奮い立たせて席を立つ。
小トリアノン宮殿に設けられたキッチンに向かい、男の大雑把な冬の料理を作ることにしたんだ。
インド大陸から遥々輸入したカレー粉、これをメインに使います。
さすがインド製だ……スパイスの味が本格的だぜ!!!
まず鍋に水と皮と芽をぶち抜いて適当サイズに刃物で斬り落としたジャガイモを投入して火で加熱する。
火が通ったかなぁ~と思うまで熱したらカレー粉を適量突っ込みます。
さらにお気持ち程度のベーコンを入れて煮えるまで待ちます。
……。
……。
……。
はい、45分で煮おわったので完成。
俺特製カレースープ。
これといって面白味がないカレースープの完成だ。
ハハハ……。
俺……何やっているのだろうか。
後ろからハウザー氏の声が聞こえてきた。
「……陛下、国王陛下!」
「うん?ああ、皆の分を作っていたんだ……これから器に盛りつけるから……」
「すこしお疲れではありませんか?後の作業は我々でもできますのでお休みになられては……」
「いや、あのグラフの作成でミスったのは俺の責任でもあるんだ……だから、自分の始末は自分でやるべきだから……大丈夫だ」
「そうですか……ですが、無理だけはしないでくださいよ!国王陛下になられたのですから……」
「うん、ありがとう。ささっ、スープが冷めないうちに皆で食べよう」
いかんな……どうもここ最近皆から無理をしているように見えてしまっているらしい。
ミスも自分でも感じるぐらいに多くなっているようだし、どうしたらいいんだろうか。
温かい筈のカレースープだけど、この時スープを飲んだ際に味がよくわからないように感じてしまう。
それから何とか他の職員の手を借りて午後10時ギリギリになってようやく国民向けの意識調査結果を完成させることが出来たのであった。