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632:兵士

さて……。

ブルボン宮殿での傷痍軍人や将軍などを労うパーティーに出席をしているが、その中でも一際注目が集まっている人物がいた。

先にテレーズが話していた人物であり、史実では皇帝に即位した人物である。


(ここにいたか……)


彼の名前はナポレオン・ボナパルト。

歴史上のフランス人と聞けば真っ先にジャンヌダルクと次いで有名な人物だ。

世界史を習っているとしたらフランス三大有名人の一人だ。


今の彼はまだ20歳になるかならないかの年齢だが、既に陸軍少佐として戦線の野戦砲部隊の指揮を任されていたはずだ。


どうやら、将軍たちに野戦砲の戦術が通用しているかどうか意見交換をしているみたいだ。


……ということは、一時的に帰ってきたという事だろうか?

テレーズがパーティーで交流した際には出兵しているという話を聞いていないので、恐らく前線の視察ないし指揮を行い、ある程度情報を直接伝えるために戻ってきたと思うのが妥当だろう。

将軍たちは若き佐官が持ち帰ってきた情報に耳を傾けていた。


「……であるからして、我が軍が配備を進めている新型の野戦砲に関しては、プロイセン王国のものよりも小型ではありますが、性能としては五分五分といったところでしょうね」

「……野戦砲は少しは使えそうかな?」

「いえ……プロイセン王国軍の主力兵器である蒸気機関内蔵の野砲は確かに強力ではありますが、メンテナンス作業が時間が掛かっていけませんな」

「ほう……あの新兵器が使いづらいのかね?」

「蒸気機関は熱暴走をしやすいのです。常に冷却用の水だけではなくタービンを回す上で、安定して執り行わないといけません。私にとってみれば、グリボーバル砲のほうが使いやすいと思っております」


上司である将軍に対しても、自分の意見を遠慮なく申し立てている。

若き軍のエースと持て囃されていた上に、実際に砲兵としてはトップクラスの指揮能力を持っているナポレオンだからこそ言える言葉だろう。

どれ、俺も話を聞いてみようかな。

話の区切りがついた頃合いで、俺はナポレオンに話をかけてみることにした。


「随分と砲に関する事を話していたみたいだが……ナポレオン少佐、我が軍の情勢はどうかね?」

「こ、これは陛下……我が軍の情勢ですが、ネーデルラント方面では一進一退の攻防戦を繰り広げており、ポーランド方面ではオーストリア軍が押し返しを見せております」

「ふむ……確か君は最前線で砲兵指揮を執っていると聞いたが、やはり砲兵の扱いはかなり変わっているかね?」

「従来と比べたら、大幅に変わっております。マイソールロケットが導入されたこともあり、砲兵だけではなく一般歩兵でも軽量マイソールロケットを携帯して砲撃できるようになったのは歴史的転換と言っても過言ではありません。聞くところによれば、陛下がマイソールロケットの導入を進言したと仰ったそうですが、本当なのでしょうか?」

「うむ……それは事実か否かと言われたら事実だな……少し立ちっぱなしで足がイカンな……すこしそこの椅子に座らせてもらうよ」

「あっ、どうぞ陛下……!」

「うむ、ありがとう」


若いということもあってか、かなり明るい感じの好青年というイメージだな。

俺の事も持ち上げていたけど、やはりグリボーバル砲よりも携帯しやすいのがメリットとして挙げているみたいだ。


史実のナポレオンは身体が小さいことがコンプレックスを抱いていたのではないかと言われている……通説ではあるが、なので俺はテーブルの椅子に同じ目線で話すことができるように、腰かけて話を続けることにした。


「ではナポレオン少佐に問うが……現在の戦況はどうかね?フランス軍は勝利できそうか?」

「そうですね……私の見方を申し上げれば勝利できる確立は五分五分といったところでしょうか……フランスが防衛に尽力していることもあり、ネーデルラント方面は一進一退の攻防をしているとはいえ、少しずつ村や地区を奪還しております。年内までにはネーデルラント北部地域への進軍も確保できるかと……」

「うむ……五分五分ということは、もう半分は厳しい要素もあるという認識でよろしいか?」

「はい、プロイセン王国軍は蒸気機関に関して兵器に特化した武装をしております。この装備によって、我が軍をはじめネーデルラントやクラクフが苦戦し、領土の大部分を占領下に置かれている原因になっているのも要因の一つです。相手を完全に自国領まで押し戻すのには相当の年月と苦労が掛かります」


つまるところ、多方面での戦闘になっていることから、ナポレオンいえど厳しい状況になっていると思っているようだ。


彼の軍事的戦略は割と長けている上に、指揮系統の能力に関しては相当なものがある。

フランス革命が勃発した時も、彼はまだ20代半ばだったのに卓越した戦術を実行して、軍上層部の信頼を取り付けたのも大きい。


(まだこれでも20歳前後なのがスゴイよな……流石、コルシカの怪物と恐れられただけのことはあるね……)


俺は更にナポレオンに質問を続けた。


「君の意見も聞きたいのだが……今の砲兵戦術を駆使してプロイセン軍を追い詰めることはできそうかね?」

「……少し難しいですね、プロイセン王国軍の蒸気野砲は我が軍のものよりも射程が長く、砲弾装填の際も数でカバーしております。フランス軍が進軍しずらいのも、こうした蒸気野砲からの砲撃が相次いでいるためです。特に、都市部への砲撃が止まないのも、彼らが我が軍の戦術を知っている可能性が高いのです」

「ふむ……戦術の見直しはしなければならないが、我が軍の補給戦略は間違っていないのだね?」

「補給に関しては我が軍は完璧と言っても差し支えないでしょう。携帯用保存食の配布や、それに伴う補給を担う部隊の役割分担などもしっかりと定めておりますし、これらの補給部隊に優先的に軍馬を導入して、前線にいる味方兵士に食料や医薬品、砲弾や弾薬を届けるのにも、彼らの協力無しでは行えないからです」


ナポレオン曰く、戦術の見直しは必須ではあるが、戦略としてはこのままで良いとの判断のようだ。

少なくとも、彼の意見は十分に参考になるだろうし、今後軍のレポートにも彼の情報が入り、将軍の目にも流れていくだろう。


ナポレオンとの会話を終えた後、デオンがナポレオンについてどうだったかと尋ねられたので、率直に答える。


「陛下が最近気にしていると仰っていたナポレオン少佐ですが……お話をしてどう思いましたか?」

「そうだね……悪くないんじゃないかな?戦術家として見れば、我が軍の欠点なども述べていたし……とはいえ、それでも注意したほうがいいかもしれん……」

「……やはり、野心家でもありますか……」

「そうだ……彼は将軍と接している時も、自分の考えに関する優位性について話していたからね……自然と出てきているのだろう。優秀なのは間違いないが……それでも少し気になる。彼に監視というわけではないが、見張り役を付けることは出来そうか?」

「佐官の副官として少尉ないし中尉クラスの人間でしたら、こちらで用意できます」

「分かった。では彼の下に就かせておいてくれ……」


ナポレオンは確かにこの世界でも優秀であった。

しかし、その優秀さ故に若干不安に思う面も見受けられた。

これはあくまでも保険としての意味合いだ。

彼を束縛させるつもりはない。

こうした機会でなければナポレオンと直接話せる機会はないからね。

俺はその後も、傷痍軍人と対談を続けて、彼らを少しでも勇気づけるために行動したのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついにナポレオン出ましたね。 優秀過ぎるし史実での行いから危機感を持って当然ですね。 願わくば彼は陰のない英雄でいてほしいです。
[気になる点] ナポレオン少佐って言い方おかしくない?ボナパルト少佐だと思うんだけどな。
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