567:広域電信網
「でも、これだけの情報を良く早くに知ることが出来たね……この後半の記事に関しても2日前だろう?最寄りの場所でも馬を飛ばして10日間ぐらいかかるはずだが……」
「それに関してですが、情報は例の通信技術を活用させて頂きました。フランス各地に設置された電信網によって、この情報が逐一入ってきたのです」
「おお、ではソレイユ計画が功を奏したという事か!」
「そうなります、これで万が一有事が起こったとしても我が国は迅速に軍の配置などが行えるようになりますので、今後も活用をしていく事を強く推奨いたします」
しかしながら、戦争が勃発した際の初動の対応をどうするべきかについては、すでにフランス全土で迅速に報道が伝わるようにソレイユ計画に則り、ライデン瓶を改良した通信システムの確立が成されているため、万が一国境線沿いから敵国の軍隊が越境した情報が入れば逐一報告がされるようになっているのだ。
今回の報告に関しても、既にフランスの主要都市部を結ぶ場所に高さ30メートルにもなる巨大なライデン瓶に備蓄した電気で通信できる通信塔を構築し、戦争が勃発すればすぐに駆けつけることができる体制を整えていたこともあり、本来であれば馬などを使って駆け巡るだけで12日も掛かるような日数を、1日で通信可能にした点は十分に評価すべきところだろう。
太陽のように通信網を国内に行届くようにする……をコンセプトに全国に設置が進められているライデン瓶を改良した電信装置による通信送電技術が、国境を接している地域を中心に完成した。
総額費用800万リーブルと、宮殿が建てられるぐらいの費用となったが、それでもこの時代において日夜を問わず安定した通信技術を確立し、馬を走らせるよりも早く届くようになった。
「ソレイユ計画での通信システムの確立は行えているようだね……莫大な予算を投じた甲斐があったよ」
「はい、すでに都市部での運用に関しては完了致しました。現在では通信の届かない地域への伝達手段を確立するために、空白地域における新規増設も行う手筈となっております」
「うむ……まだフランスの中西部は農村部が多いこともあって、まだ通信が届かない地域もあるからな……大都市圏における通信システムが確立されたとはいえ、まだまだ地方にも届くように工夫しておく必要があるな……」
ライデン瓶を応用した電信システムには弱点があり、現代の通信システムに比べたら出力もメッセージの送信範囲も大幅に限られている状態なのだ。
現在までに15キロ離れた場所までの通信は可能となっているのだが、この15キロを過ぎてしまうとライデン瓶から発せられた電信の受信が極めて不安定となって受信所でも聞こえないという事態になってしまうのだ。
「ライデン瓶を見張っていなければならないからな……その影響はとても大きいといっても過言ではない。まだ不便なところは改良をしていくしかないな……」
「フランス中西部に設置予定の電信塔に関しては、現在設置されている電信塔の改良したものを取り付ける予定でございます」
「ふむ……とはいえ、何人かが見張っていないとまだ運用ができないのであれば、当直の通信士も確認作業に時間を取られるからな……定期的に決まった時間に通信を心掛けるようにしておかないとね……」
さらに、受信所には常に一人を常駐させておかないとライデン瓶で受け取った電信内容が把握できないという事もあり、電信内容の送受信を行える人員の配置及びその教育にも、リソースも取られている。
定期連絡としての運用が既に始まっているとはいえ、やはり電信を行う操作は難しいらしく、専門書を読みながら送信を行っているという。
発電装置に関しても、蒸気機関を始動してから動かしていくという手段を講じていることもあり、この蒸気機関を起動するのに10分程度の時間を要するため、その間に通信手段を破壊されてしまうと、送信が出来なくなってしまう。
それに、上手く受信が出来なかった影響で、2日間ほど通信が途絶えていたケースもあったようだ。
「2日掛かったということは……どこかで通信が出来ていなかったのか?」
「はい、ボーヌの街に設置されていた電信塔の受信が芳しくなかったようで、通信内容が受け取れなかったとのことです。そこで、馬を飛ばして状況を確認したとのことです……」
「なるほどね……まだまだ改善の余地があるというわけか……」
また、電信内容を紙に受信して地震の震度計のように揺れなどを使って把握するシステムも開発中ではあるが、ブレが大きいと受信した言葉の内容が異なったものになってしまうなど、まだまだ開発途中の段階であるため、完璧な電信とはいえないのが実情でもあるのだ。
そこを補うために馬をつかったり、旗振り通信などを活用して足りない場所を補うため、カバーをしているのである。
通信が出来ない場合は、旗振り通信や馬を使って伝令を行うという昔ながらのスタイルも活用しつつ、新しい事への投資と設備を行うということも大切な事なのだ。
通信網の確立を行えていることにより、フランスは情報戦において一歩リードする事が出来ている。
将来的には無線通信のようなシステムを構築し、より迅速な対応が行えるように研究と改良を加えるように指示を出している。
しかし、技術の陳腐化や発展の速度は凄まじいものであるため、いずれ他の国に追い抜かれる可能性も高い。
なので、こうした通信網に関する研究には多額の予算を投じて、将来軍事面だけではなく民間用の通信システムを国が管理できるようにすることを目標としているのだ。
これは必要な費用であり、国費からの支出も多くなっているが、それに見合う研究内容でもある。
「電信というのは、いずれ将来を大きく変えるような内容だからね……この調子で研究と開発、そして装備を進めて欲しいものだ」
「そうですね、この調子で配備が進めば、遅くても再来年までには全国に電信塔による広域通信が可能になります。リヨンで起こった出来事を、その日のうちに知る事ができるようになるでしょう」
「そうだね、速達のニュースなども知ることができるようになるけど、今はまず文字数制限をどこまで伸ばせるかが注目だね」
「まだ30文字程度が限界ですからね……長い長文を行うようになるのには、相当の時間が必要になるでしょう」
30文字程度の通信しか出来ない現状として、何か隣国で政変等があった場合には、単語で記す事となっている。
「隣国 侵攻 防衛中」のように、限られた文字数の中で、的確に情報の伝達を行う必要性があるため、長ったらしい文字を記入すれば、最初の文しか反映されないこともあり、文字を打ち込むにしてもしっかりと何があったのか簡単にまとめて記入する必要があるのだ。
その点に関しては手紙や馬などを使った郵便システムに劣るが、逸早く情報を入手する事が出来る電信システムの構築は、それらをも凌駕することになるだろう。




