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南イタリアへの支援などを盛り込んだ上で、国家統一に向けた動きは粛々と進められた。
頑なに国家統一に関して否定的だった教皇領でも、彼らの住んでいる地域の住民投票によって国家統一にするかどうかといった手順を踏み、更にバチカンに関しては国家が統一化された後でも、教皇領としての機能を維持するという譲歩をした結果、彼らは納得してくれた。
「正直に申し上げますと、教皇領でもかの過激な平等主義者による暴動が起こっておりました。シチリア王国の一件を見て、我々としても教皇領での本格的な捜査や対策などを執り行わなければならない事もあり、国家を統一する動きに向けて行動をしなければならないと考えております」
「それは教皇様も同じ意見でしょうか?」
「ええ、教皇様はこれ以上国内の治安が維持できなくなれば、その時こそ南北イタリア地域が大混乱に陥ってしまします。そうならないように各国の統合化を推薦していくと申されておりました」
「分かりました。貴国の要望に関しても国家統合を行う上で反映させていきましょう。では、次に税収の面での課題ですが、南北間では地域によっては収入が倍近く差が開ているところがあり、こうした地域間格差によって税収を一律化してしまうと不平等となり得る恐れがあります」
税率に関しても、地域間格差によって高い場所と低い場所があり、一つの国家にまとまった際に、税率の違いで不平等にならないように決める必要があった。
北部の方が工場などの立地が出来上がっていることもあり、そうした場所が将来に渡って重工業産業の中心地となるのは確実だろう。
史実と照らし合わせても、南北間で経済格差が広がってしまった要因の一つが、軽工業及び第一次産業に南部地域が頼り切っていたというのもある。
オリーブやレモンなどの栽培地となっていたことで、古くから第一次産業の拠点だったこともあり、産業革命以降、転換が上手くできずそのまま現代に至るまで、イタリアにおける南北間格差は収まっていない。
この時代においても既に格差が生じており、特に南イタリア地域は過激派の拠点となっていたこともあり、苛烈な殲滅戦や治安維持のための懲罰行為が徹底して行われたのだ。
そうした面を踏まえた上で、復興のための税金の支出や、フランスやオーストリアといった大国からの援助などを積極的に行うことを約束したのである。
「イタリアの国家統合を行う上で、戦災に見舞われた地域の復興、及び経済格差是正のための学校や道路などの基礎インフラの支援を重視している。イタリアは山脈地帯が多い……移動をする際にも東部地域では交通の制限が掛かっている状態だ。我が国で採用されている蒸気機関車などの新しい交通インフラによる地域間の移動を迅速に行えるようにしていきたい」
「オーストリアとしても、ルイ16世陛下の指針に賛成だ。道路がガタガタでは荷車も上手く運べないし、我が国も山脈地帯が多いが、それでも平地や山岳地帯の交通に関する整備事業を進めた結果、物流網の改善に繋がっている。確かに基礎インフラへの投資は長い日数と資金が必要だが、必要であれば我が国からも資金援助等をする用意がある」
オーストリアのヨーゼフ2世陛下からの援護射撃によって、各国は納得と格差是正に向けた取り組みを大いに加速することが出来た。
ありがとうヨーゼフ2世陛下。
フランスとオーストリアがいざという時の為に、イタリアにバックアップが取れるようにすれば、彼らも安心して国家の統合化に向けた取り組みを必然的に後押しするだろう。
ただそれでも、税金に関しては各国で税の徴収に関する法律が異なっていることもあり、特に徴税人などに関する問題も含めて協議をすることになったのだ。
「税金に関しては不平等がないようにしないといけませんな……」
「しかし、地域間での経済力や収入面でも差が開いている場合がありますので、一律に税金を決めてしまうと不平等感が出てしまいますね……難しい問題ですが、如何いたしますか?」
「それに関しては私の方から代案があります」
「ルイ16世陛下、代案としてどのようなものをご提示できますか?」
「地域間によって税を一律にするのではなく、それぞれの事情に応じたやり方を取る必要があります。そこで地域間別税収システムを導入して、それぞれが不満を抱かないように行いましょう。既に我が国では運用実績がございます」
比較的財政に余力のある地域に関しては、社会保障費として税を徴収する代わりに、医療サービスを受けられるようにしたり、税を納税した際に地域の特産品などを格安で購入できる引換券の交付などを行えるように提案したのである。
「医療サービス費と、地域納税……ですか?」
「はい、いずれも我が国での運用実績があり、どれも高い効果を発揮しております。税収を確保できるだけではなく、福祉を活用して、地方にも税収が得られる仕組み作りでもあります」
これは既に我がフランスで導入している地域活性の為のプランとして一昨年より導入している制度なのだ。
日本の国民健康保険制度、及び、ふるさと納税を参考に作ってみたのだが、これが思っていた以上に効果を発揮してくれた。
医療サービスを割安で行えるようにした結果、それまで深刻な傷が出来ても放置してしまったり、よくわからない祈祷のようなものにすがる人が多かったのが、今では医療サービスの拡充によって積極的に医者に診断を行うようになり、死亡率の低下にも繋がっている。
「医療に関してはまだ地域間での差がありますが、それでも都市部を中心に病気などを減らすことに成功しております。医療を受けたくても、金銭面の問題から受けられなかった貧困層を中心に、ある程度の医療費を補助することにより、死亡率や重症化リスクの低減に繋がっております」
「医療……というのは、フランスで重点的に行っている科学的知見に則って行われている療法ですね」
「その通りです。伝統的な療法に関しても尊重はしますが、我が国では衛生保健省による指導マニュアルの策定と、医療知識のある医師による治療を行えるように資格制度などを厳格に定めております。イタリア全土で、こうした医療サービスに関して国民が受けられるようになるには時間は掛かるとは思いますが、長期的視点ではメリットのほうが大きいと存じます」
医療サービスを拡充できれば、それだけ多くの命が助かることになる。
平均寿命がだいたい50~60歳前後であり、乳児死亡率が高い時代だからこそ、人口増加の面でも期待できるのだ。
イタリア半島各地の医療制度もフランスを見本にしたものにすれば、医療の共通認識なども発展していくだろう。
そして後者に関しては多くの地域で生産されているワイン酒やチーズに関して行っているのだが、地域の特産品の一環としてワイン酒やチーズを購入する例が多くなり、その結果販売数も上昇して地域経済の活性化を促進させることが出来ている。
このことを集まっている各国に共有し、税収の確保システムの一環として取り入れることなども、会議で決定したのである。




