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499:輪廻(下)

白蓮教による支配地域が着々と浸透していく中……。

清王朝の各地で白蓮教の混乱に乗じた、仏教徒による抗議などが相次いで発生しているのだ。

チベット仏教ではなく、中国で根付いていた儒教や道教といった独自の宗教団体が、この白蓮教の反乱を長らく満州人による体制特権を転覆できる機会だと捉えていたからだ。


「我々はようやく、この穴蔵から抜け出せるかもしれないのだ……彼らとは目的も一致しているし、支援もさせてもらっている。我々も動き出そう」


特に、反清王朝的な思想を募らせていた秘密結社などは白蓮教などからの支援により、人材の確保や情報の伝達手段を確立し、水運業者を中心に組合のような組織が協力してこれらの情報拡散を積極的に行うようになったのだ。

秘密結社である彼らが積極的な協力を行った理由の一つとして、漢民族の復権を願っていたことが挙げられる。


漢民族による復権……中国大陸における民族を大多数が占める漢民族では、モンゴル民族主体の元や満州民族主体の清王朝などはトップが少数民族の手に委ねられていた。

清王朝が崩壊後は、中国大陸は各地の軍閥が乱立し、1949年に中国共産党率いる中華人民共和国の設立まで、中国大陸には統一された国家が無かったのだ。

史実でも、こうした秘密結社が反体制派として中国各地で勢力を誇っていたこともあり、清王朝の絶対的な支配体制が崩れているのを好機と見て、行動を起こしているのだ。


その報は華北から華南まで……僅か一か月もしないうちに清王朝が支配している中国大陸全土に「第一次山東省攻防戦」における八旗軍の惨敗が広がったのだ。


「白蓮教は相当強いようだ。集められた八旗軍の軍勢二十万人が壊走したそうだ」

「二十万人が?!八旗の中でも武装が整えられていたのだろう!なぜ壊走なんてしたんだ?」

「決死隊が陣地に飛び込んで指揮官を集中的に攻撃したらしい。殺されるのを覚悟した上で襲い掛かって指揮官が複数人も殺されて指揮系統がバラバラになって機能不全に陥ったらしい。一方で、白蓮教は決死隊を除けば、三万人の軍勢で退けたそうだ」

「二十万人の軍勢を三万人で跳ね返すなんて凄まじいな……!」

「きっと天から仏様がお力を添えてくださったに違いない。でなければここまで戦うなんてことは出来ないよ」

「ああ、きっとそうだな……これだけ経済が酷い上に、淮安で大規模な流感インフルエンザが発生して大勢死んでしまっているもんな……」

「それに、流感発生地域を強引に封鎖なんてしたから餓死者も多く出たぐらいだ……ホント酷い話だよ」


軍勢の敗北と同時に、疫病の流行も深刻化してきているのだ。

清では京杭大運河を流れる江蘇省淮安を中心に流感が大流行しており、これにより1月の間だけでも述べ数万人規模の人々が命を落としている。

大勢の人々が流感に対する免疫力を持っておらず、さらに米や麦の不作によって栄養状態も芳しくない状態で感染したことにより、重症化してしまう例が多発したのだ。


「息子が、息子の咳が止まらなくて血を吐いているのです!何卒薬を分けてもらえませんか!」

「薬を……せめて母に解熱用の漢方薬がほしいのですが……」

「すみません……もう薬の在庫は底を尽いてしまいました……こちらとしても、皆様にお渡しできる薬は一つも残っておりません……」


これらの流感発生地域において清王朝は疫病の流行を抑えるために地域ごと封鎖を行い、強引な封じ込めを実施したのである。

当然ながら、封鎖された地域の現状は凄惨であり、食料や薬を求めようにも食料品店や漢方薬を売っている店は封鎖直後に人々が買い占めた為に全て閉まっており、また在庫も無くなってしまった為、外出することすらままならない状況なのだ。


「駄目だ、役人達は泰安の一件でピリピリしているし、八旗軍の連中が重武装でこっちを見張っているぞ……」

「これじゃあ俺達は飢え死にするだけだ……干し魚をゆっくり食べて飢えを凌いでいるけど、隣近所じゃ食べるものが無くて餓死した人が昨日だけで3人も出たんだぞ……」

「この街から何とかして脱出しないといけないが……脱出に成功したのは今のところ2人だけだな、他は全員捕まって処刑されちまった……」

「酷い話だよな……飢え死にしそうなのに今ある分の食料だけで何とかしろって……」


食料が無くなって餓死する者もいれば、隔離地域から脱出して食料を買おうとして、越境したところを捕らえられてその場で死罪になった者もいる。

それぐらいに、封鎖された地域の内部は悲惨であり、辛うじて脱出できた者からの伝言によってその実態が浮き彫りになっている程なのだ。


「でも運河で水運業者の人達が食料や薬の入った木箱をうっかり落としているらしいぞ」

「うっかり……?おいおい、木箱っていったら商品だろ?そんなもの落として大丈夫なのか?」

「何でも業者の組合が蘭州の状況を見て気の毒だと思ったらしくてな……上流から船でやってきてうっかり……というわけらしい」

「ほぉ……水運業者の人達も世話になるなぁ……」


水運業者はこうした地域に救援として夜に船を接岸せずに食料品などが入った箱などを岸に投げ入れて支援を行っていたのだ。

これらの支援を積極的に行ったのが水運業組合の青幇チンパンであり、多くの水運業者がこうした米や麦などを水運を使って輸送していたこともあり、彼らが主体となって海上輸送が行われていたのである。


当然ながら、こうした水運業者ギルドは宗教とも密接な関係にあった。

白蓮教とは系列こそ違うものの、彼らも同じ仏教から派生した宗派の一派として天と地を司る仏の神様を信仰していたこともあり、必然的に天候に左右されやすい水運業者の人達にとって、こうした神様を祀ることの重要性は必須であり、多くの水運業者の人達が信仰していたのである。


そうした水運業者を取りまとめていたのが青幇であったのだ。

青幇は表向きは清王朝と協力的ではあったが、来る漢民族復活の日に備えて、着々と準備を進めていたのである。

清王朝から弾圧を受けていた事が多かったのだ。


「我々はいずれ復活する。清王朝が自分達以外の者達を抑圧していた暗い時代は終わりを告げるのだ。時は今まさに我々に動いている。江蘇省にいる者達にも通達せよ……”我々結社が動く時だ”……」


青幇の目的は漢民族の復権である。

各地に点在している青幇所属の水運業者たちは、それぞれ八旗軍に関する軍事情報の収集を急いでいた。

彼らには中国の運河全体に広大な情報網を有しており、少なくとも阿片や賭博、組織的な売春といった裏社会とも繋がりがあった為、活動資金は潤沢なほどに有していたからだ。

これらの情報網と資金を使い、中国大陸で大多数を占める漢民族復活を掲げる反旗を今か今かと待ち構えていたのだ。


そして、その時はやってきたようだ。

青幇の幹部達は、白蓮教とも連絡を取り合い、華南地域を中心に反乱を起こす為の準備に取り掛かる。

清王朝体制は既に崩壊し始めており、経済・軍事共に影響力が低下してきているからだ。

もうじき、中国大陸は三国志時代の時のように、乱世の時代へと突入していくだろう。

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