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491:再会

★ ☆ ★


「……それで、お父様は言ったんです。リンゴがとっても渋くて泣いてしまったって……」

「フフフ……ほんと、あの人は何でも挑戦することがお好きなんだから……それで、それから何て言ったのかしら?」

「これは生で食べるものじゃない、だから食べてはいけないよ……って身体を張って説明していましたの」

「アハハ!もう本当に面白いわね!」


私は娘のテレーズのお話を部屋で聞いているところです。

テレーズはオーギュスト様とお話をした際に起こった出来事を語ってくれたのですが、何と加工用のリンゴの木に生えているリンゴを生で食べてはいけない事を実践するために、ジョセフと一緒にリンゴの木の前でリンゴを食べたのだそうです。

あまりにも悶絶したような様子だったようで、身体を張った体験としてテレーズも可笑しかったらしく、思わず笑ってしまったのだそうです。


「本当に、あんなに面白いことをするお父様は初めて見ました」

「そうね、あまりオーギュスト様はそういったことをするような人ではないからね……それにしてもわざわざ渋いリンゴを実践して食べるなんて……ジョセフは何か言っていたかしら?」

「お父様、なんでリンゴを食べた後に水を欲しがるの?って聞いて、悶絶しているお父様の背中をさすっておりましたわ」

「まぁまぁ、なんて優しいのかしら……みんな仲がいいのね……」


こうして娘とお話をしていると、オーギュスト様は普段から子供達のために気を遣ったり、家族のために色々なことをしております。

一緒にピクニックをしたり、冬場は雪合戦などを楽しんだり……今度、落ち葉を集めて甘いイモを焼いたりもしました。

休日は家族と一緒に遊ぶ……。

今日は戦没者追悼式がある関係でそこまで長くは遊べませんが、それでも式が始まるまではまだ時間があるので、この部屋にやってきてお茶を飲んだりするみたいです。


「今日は戦没者追悼式だけど……本当に、テレーズも行くのかしら?」

「ええ、私も王族の一員です。国の為に命を捧げた人達のために、彼らの為に祈りを捧げたいのです」

「……そこまで意思が固いのであれば、追悼式に参加を許可しますが、途中で退屈だから抜けるとかは無しですからね?」

「ええ、分かっておりますお母様」


テレーズの雰囲気は最近より一層大人びたものに変わってきております。

普段……といいますが、5歳を過ぎたぐらいから色んな本を読み漁るようになり、勉強でも多くの授業を真面目に受けて、成績も学年でトップのようです。

本当に、私とは大違いのようです。

私は勉強をするのが苦手だったのと、どうしてもあちこちに行って気になったモノを探しに行ってしまうので、とにかく脱走癖が抜けませんでした。


ですが、テレーズは違います。

真っ直ぐな瞳を向けた上で、真摯にこの戦没者追悼式に参加をしたいという意思を確固に持っているのです。

私も彼女が真剣であればそうした行いには止めませんし、参加を認めるのが親……そして王妃としての勤めてあると考えております。

テレーズは、そうした事を踏まえた上で、オーギュスト様の政治的な判断について語りはじめました。


「こうして私たちが安心して暮らしていけるのもお父様が国を担い、政治を動かしているからだと思います。もし、お父様が他の人達の意見に流されやすかったり、中途半端に政治的な判断が下されるような状態であったら、こうはいかないでしょう」

「そうね……確かにオーギュスト様は政治的な信念を持って臨んでいるわ。中途半端な事はせずにやるならとことん追求していくわね」

「ユダヤ人の人達や、ユグノーの方々への寛容令、農奴を含めた奴隷廃止宣言も、昔では考えられなかった事だと先生もおっしゃっていました。フランスの為に、貴族や聖職者への課税を加えたのも、財政を健全化させると同時に将来お父様や王室と対立関係になると思われた人達を抑えつける狙いもあったと……お母様はどうお考えですか?」


……これは難しい質問をテレーズはしてきましたね。

確かに、オーギュスト様はアデライード派やオルレアン派の貴族や聖職者と対立していました。

その対立は政治的な意味合いが強く、前者はオーギュスト様そのものを排除しようと目論み、後者は利権を維持しようとしたために、オーギュスト様と対立していたのです。


オーギュスト様は最初に出会った時から、フランスの行く末を考えておりました。

その際に、フランスを今後どうしたいか?

どうやってフランスを立て直すのかを説明してくれた際に、私は思ったのです。

彼らは現状の利権や地位を守るために行動し、オーギュスト様はフランスの未来のために必要な改革を実施すべくあの時から動いていたと……。


「そうね……確かにオーギュスト様の政治改革はそれまで宮廷内で幅を利かせていた貴族や聖職者の中でも、とりわけ特権階級にいることを甘んじて自分自身の利権や地位を守るために行動をするような人達が多かったですわね……そうした人達を排除……というよりは、変えるためのチャンスを与えようとしていたというのが正しいかしら?」

「変えるためのチャンス……?」

「そう、貴族や聖職者への免税排除を行った際も、二年間は特例を出して返済不可能な借金があった貴族や聖職者に対しては、借金を肩代わりする代わりに贅沢品などを整理した上で、お金の貯蓄が出来るように財政管理を行う司法書士や税理士を紹介したのよ……あまり知られていないかもしれないけど、オーギュスト様によって借金に苦しんでいた貴族も救っているのよ?」

「そんなことがあったのですか……」

「ええ、爵位や地位にふさわしい身なりなどをしようとした結果、無理をして借金を背負うケースが多かったのよ。大抵がパリの一等地に年収45年分の屋敷を無理して購入したケースなんてのもあったわね。そういった借金が多くなっても、貴族や聖職者の人たちは金融機関からお金を沢山借りて借金を借金で返済するという無理な方法をしていた人もいたのよ」


勿論、借金漬けになっていたとしても貴族という特権階級にいる関係上、そうした借金は多くなっても国が負担してくれるだろうと思っていたが多かったみたいです。

それ故に、返済が不可能になるぐらいの借金を背負っていたというケースも多くみられました。

オーギュスト様は、そうした貴族や聖職者に対して、国が借金を肩代わりしました。

しかし、無条件にというわけではありませんでした。


借金が嵩んでいた場合、爵位の返還や屋敷や贅沢品を手放す……といった重い処置が下されたのです。

無条件に救済をしてしまうと、平民層から猛烈な反発が起こると改革派の方々が懸念を示しておりましたので、その意見を取り入れた上で、貴族社会にとって大切な「爵位」の返還……つまり、貴族から平民になるという条件を出したのです。


その代わりに郊外の家を提供したり、仕事を行う上で大切な知識や技能を実習するための講座を開いたり、当面の生活に困らないだけの資金を与えたりしたのです。

そうした「借金貴族」に対しては、自立した社会支援活動も行って、彼らが路頭に迷わないようにしたのも、オーギュスト様の助力があってこその慈悲でした。

永遠の対立ではなく、階級社会が変化するために備えようとあの時から備えようとしていたのかもしれません。


「王妃様、国王陛下がお見えになりました」


ブリジットがそう告げてくれたお陰で、私はテレーズに「折角だから直接お聞きしちゃいましょうか」と告げて、やってきたオーギュスト様にその事について、追悼式の準備前までにお話することになったのでした。

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