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476:魔女の呪い

★ ☆ ★


私はスタニスラス……兄さんことルイ16世がフランス国王として君臨し、外務大臣として私は兄さんを陰で支えている。

外務大臣としての仕事は決して楽ではない。

この仕事を引き受けた時、私は初めて兄さんから()()()()()んだなと実感していたんだ。


以前の私では考えられないだろう。

なにせ、昔は兄さんのことを嫌厭していた。

自分のほうが優れた才能を持っており、普段から大人しくて一人で錠前弄りに没頭し、殆どサロンにも姿を見せず、王室内でも話題に上がることはあまりなかったんだ。

向上心の高い私は、そんな兄さんのことを、だらけていると思いバカにしていた。


……けど、そんな考え方が変わったのは、1770年に叔母の暴挙によって発生した「赤い雨事件」の際に、叔母たちは私を利用して王政政治を奪取し、祖父と兄さんを殺害して私を王位に就かせて叔母たちの言いなりにすることを企んでいたらしい。

所謂、傀儡となるために私を利用しようとしていたのだという。


「スタニスラス……すまん、兄として命の危険に晒すところだった……叔母たちがやった事とは言え、これ以上関係悪化をすれば同じような事が起こり得るかもしれない。兄として、弟であるお前を守るために全力を尽くすつもりだ」


叔母たちがやったにも関わらず、兄さんは私に面と向かって謝ったのだ。

兄さんが謝るべきことじゃなかった。

むしろ、兄さんのことを貶したりした私に責任があるべきなんだ。

あの日以来、私が兄さんに対する考え方は大きく変わった。


私が王座に就いたらより良い世界を築き上げることができると高を括っていたのが恥ずかしく思えるほどだ。

私よりも、兄さんのほうがずっと上手く政治と社会を大きく変えるために動いていたんだ。

貴族や聖職者への課税義務化は勿論だけど、ユダヤ人やユグノー派への寛容令、農奴や奴隷の廃止、所得に応じた税制改革といった具合に、それまでは貴族の反発で出来なかったことをあっさりとやり遂げたんだ。


あまりにも画期的かつ、斬新で革新的な政策を打ち出し、即座に実行に移していく。

多くの平民層がこの政策を賛同し、兄さんはこの時から既に国民から多くの支持を得ることが出来たんだと思う。

この時、私は兄さんに貴族や聖職者の反発が怖くないのかと尋ねたことがある。

すると兄さんはこう答えたのだ。


「確かに有力貴族や名のある聖職者から毎日脅迫まがいの抗議文が来ているさ。それでもこれはやっておかないといけないんだ。国王が常に国民の為に誠意を見せている姿勢があるからこそ、国民は国王を支持しているんだ。国民あっての国王であり、国王あっての国民でもある。この関係が崩れてしまった時、人々は王政政治というものに懐疑的になって、やがては王政打倒に向けた反乱を引き起こしかねないんだ。スタニスラス……そのことは肝に銘じておいてほしい」


一部の特権階級ではなく、大多数を占めている平民層を重視することが、王政政治を続けるうえで大事なことだと語ってくれたのだ。

その言葉は今になってみれば極めて正しかったといえる。


グレートブリテン王国が内戦に陥り、国土の大半の都市が焦土と化したのも、そうした国王が国民のために行う政治体制が崩れて、権力闘争と政治的な対立が激化したことによる情勢不安によって、国民が政府や国王を見限って反乱を起こしたのだ。

もし、以前の私のような考え方を持った状態で王の権力を手にしていたら……恐らく、長くは続かなかっただろう。


(きっといつか……自分がすべて正しいんだと思い込んでしまうと視野が狭くなってしまうだろう。そうなれば、自分の意見ばかり気にしてしまう者だけの取り巻きになって総合的な判断を見誤るというわけだ……)


兄さんのスゴイと思うところは、改革派を含めてだけど……いろんな人の意見を聞いたうえで、反対意見だったり訂正意見がある場合には、その意見を検証する事を重視している点だ。

台湾の青龍買収時にも、最初は台湾本島全域の買収を計画していると話した際に、閣僚から反対意見が出て、その理由などをしっかりと聞いたうえで、最初はまず青龍からという流れになったのも知っている。


もし、台湾本島全域を買収していたら大変な事になっていただろう。

まだあの地域の大部分は未開発の地域であり、先住民族との交渉もあるし、何よりも維持をしていくうえで、膨大な費用が掛かる。

ネーデルラントやスペインが百年以上前に植民地として領土を持っていたが、いずれも現地住民との対立やコストに見合わずに撤退した土地でもある。


そこで、兄さんは青龍を『東アジア地域の交易拠点』とする事にして、日本や清、朝鮮半島では生産されていない砂糖の生産拠点とすることによって、甘味を欲しがる彼らに提供できる姿勢を見せたのだ。

グレートブリテン王国が清国に対して阿片を輸出して莫大な利益を得られていたのに対して、フランスは青龍に生産拠点を作って経済貿易だけでなく、現地の生産・物流拠点となった事で、必然的に周辺国から多くの貿易が可能になったのだ。


勿論、こうした動きに反発する動きもあった。

兄さんはそうした動きを察知して謀略を未然に防いだり、逆に不正な事案や汚職案件などを調査して、反発した者達の投獄などを推し進めた。

社会の発展のために公共事業の整備・設備投資を盛んに行い、気が付いたらパリから悪臭が消えて綺麗な都市へと生まれ変わるぐらいに、街並みは良くなったのだ。


外務省の貴族への対応として私は様々な指南を受けて、着実に実績を積み上げている中でも、兄さんはその実績以上の功績を積み重ねていった。

平民層の平均年収を押し上げたり、専門的な知識が必要な蒸気機関に関する技術者の育成、さらには教育を誰でも受けられるように夜間学校の開設など、文字の読み書きを習う機会がなかった人たちにも学ぶことが出来るようにしたのだ。

これからやってくる蒸気機関が多く使われる時代を見越して行っていると兄さんは語っている。


「文字を読み書きできるようになれば、新聞を読むことができるし、勉強を学ぶことが出来れば新しいステップを踏み出すこともできる。蒸気機関は操作を扱う側は操作方法さえ覚えればいいかもしれないが、こうした蒸気機関を製造したり修理する場合は説明書や組立方法の図を理解しなければならない。そうした理解が出来るようにするには教育機関の拡充をしないといけないよ」

「なるほど……でも、その場合だとそうした蒸気機関を扱う人たちだけに教育を受ければいいのでは?」

「いや、それではダメなんだスタニスラス……いずれ蒸気機関を使った作業……製品を作り上げる工業化の波がやってきたら、今いる工員だけでは足りない状態になるよ。予め教育を受けている人が多ければ、多いほど工業化への転換が出来るんだ。これはそのための布石だ」


兄さんの言っていることは正しかった。

今まさに工業化の波が到達して、多くの工場がパリ郊外にも建設が進められている。

パリだけではなく、サン=ドマングや青龍といった海外県にも工場が作られており、今は瓶や砂糖を精製するだけに留まっているけど、いずれはありとあらゆる物が工場で加工される時代がやってくる。

その時に、兄さんの目指していたフランスの揺るぎない強国が実現するのだろう。

私は、そんな兄さんの目指しているフランスの為に、この身を捧げる覚悟だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人を想い、人に伝え、人に示し、人から伝えられ、人を隔てず、また人に伝える。 こういうのは現代のマネジメント論でも重要なんだからそりゃ名君として称えられるよね。説得力がある。 理論だててキャ…
[気になる点] 話名と内容があってないように感じます 魔女の呪いってあるけど中身は弟が兄に対してどう思っているのかだし
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