460:火山爆発指数6
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1783年10月5日
おはよう!ここ最近妙に寒い日が続いているのが気になっているルイ16世だ。
まだ10月だというのに、氷点下近くまで気温がガクンと下がっているのだ。
少々冬の到来が早いのかな?
それにしても久しぶりによく眠れた。
頭を悩ませていた大きな問題が一つ減ったのだ。
サン=ドマングにおける北米連合軍との戦争は、フランス率いる欧州協定機構軍の勝利に終わった。
行政庁舎など複数の大型施設に北米連合軍が立てこもった影響により、銃撃戦等で損傷を受けてしまったようだが、それでも大切な領土を守ることが出来たのは良いことであった。
戦闘による犠牲者は、フランス側で少なく見積もって4800人以上……これは民間人の数であり、軍人を含めるともっと多くの数になるだろう。
他にもキューバなどのカリブ諸島全域ではまだまだ北米連合軍が抵抗を続けている地域が存在しており、完全な掃討を終えるのは来年の2月ぐらいまで掛かるという。
これがゲーム画面とかなら、スキップボタンを押したり軍事ユニットを動かして攻撃・殲滅命令などを行うことが出来るのだが、やはりそう簡単にはいかないようだ。
現在サン=ドマングから移送された北米連合軍の捕虜1600名は、フランス各地の牢獄に収監する手筈となっている。
現地の収容施設に入れておくという手もあるが、それだと捕虜収容所が既に満杯であり、これ以上押し込めてしまうと衛生環境上の問題があるのと、現地住民の人達の手によって殺害されてしまう恐れが生じたために、比較的安全が保たれている本土の牢獄を簡易改装した収容所に収監することにしたのだ。
勿論、フランスでは少数ながら北米連合軍捕虜の本土移送に反対する声も見受けられた。
山賊まがいの犯罪行為などを行っていた連中を生かしておいて良いのか?!とか、親戚が彼らによって殺されたから復讐の機会を寄越してほしい!とする意見もあった。
ただ、捕虜に関しては虐殺行為に加担していない一般兵に関しては法律によって守られるべき存在であり、サン=ドマングに置いておくと報復対象として一方的に殺害される危険性すら生じているのだ。
そこで、俺は新聞社と公布人を使って捕虜の扱いに関する説明と、捕虜を移送する理由についてキッチリと述べて、国民に呼びかけることにしたのだ。
『今回の北米連合軍が行った突然の侵略戦争、それに伴う一部の部隊が民間人に対する冒涜的行為に関しては我がフランスにとって許容できないものであり、特に罪なき一般市民を遊び感覚で殺害するような鬼畜の如き行為を行った者は、法に則って処罰を受けるべきである』
捕虜になった者のうち、略奪行為に積極的に参加し、専用の部隊を指揮していた回収隊。
カプ=フランセにおいて、罪なき民間人に対して暴力や暴行を行い、著しく人の尊厳を傷つけた騎兵隊。
降伏旗を掲げて投降したフランス兵に対して、裁判なしの銃殺刑を命じて独断で殺害した士官。
……明らかにこの時代においても戦争犯罪として立証できる兵士に関しては、フランスの法に則って裁くことになる。
投降した兵士とは言えど、戦争犯罪を犯している場合には処断したほうが国民も納得するからだ。
当然のことながら、こうした兵士に関しては裁判所において判決を出してから処遇を決めることとなる。
今もまだ北米連合軍とは戦闘状態となっているからだ。
ただ、捕虜として保護すべき兵士達がいるのもまた事実だ。
『しかしながら……奴隷解放を条件として軍属に入れられた黒人兵士や、上官の命令に逆らえず、止む無く従った兵士に関しては寛大な処置をとるべきである。特に黒人兵士に至っては、立ち止まった瞬間に背後の味方から撃たれると脅されていたこともあり、前衛として突撃を敢行して多くの戦死・戦傷者を出している。彼らは味方に脅され、突撃を強要されたのだ。これほどまでに悲しいことはない。同じ国民……同じ国の旗の下に集った兵士が、人間ではない扱いをされた事が何よりも余は悲しい……』
捕虜になった中でも、北米連合軍に属していた黒人兵士に関しては、奴隷労働からの解放を条件に、鋭く尖った槍のような武器で突撃を強要されていたのだ。
また、民兵の中でも地元組織から強制的に徴兵された者もおり、そうした兵士達に関しては積極的な戦闘を行うことは殆ど無かったという。
黒人兵士や徴兵されてやってきた一般兵士など、投降した際に戦意を喪失していた者などは、戦争が終わるまでは捕虜収容所に移送する流れとなっている。
逆に、重大な戦争犯罪行為に関わっていた兵士に関しては、サン=ドマングの捕虜収容所に移送し、現地に裁判官を派遣して彼らが起こした戦争犯罪を精査し、順次裁判を行って判決を決定するつもりだ。
一応、彼らにも弁解する権利はあるが、殆どの捕虜に関しては明確な戦争犯罪行為の証拠が残っていることが多いので、彼らの弁解がどこまで通用するかは不明ではあるけどね。
『故に、こうした兵士達の身の安全を守り、身の安全を確保することが重要なのだ。そうでない兵士と区別するためにも、重大な戦争犯罪行為を行っていた兵士に関してはサン=ドマングの捕虜収容所にて順次、それ相応の刑罰を与えることになるだろう。国民が不安視している問題については、こちらとしても丁寧に説明するつもりだ』
また、そうした兵士以外にも、それぞれ重大な事案に関わっていた作戦司令部要員、サン=ドマング方面の司令官を任官されたデイビッド・ウースター少将など、軍事に詳しい人間に関しては、捕虜として丁重に扱った上で、彼らの軍事ドクトリンや北米連合軍に関する主流となっている武器の情報などを聞き取っている最中だ。
蒸気機関を使って歩行する、四つ足歩行兵器「アトラス」に関しては国土管理局の予想通り、北米複合産業共同体が製造した兵器であることが判明しており、この兵器をデイビッド少将はカプ=フランセに侵攻する前に、既に北米連合に18機ほど配備が完了したとする証言をしている。
彼の発言が正しければ、生産スピードなどを考慮しても今現在北米大陸全体に20~50機前後の四つ足歩行兵器が配備しているのではないかとする予測が建てられている。
あまり嬉しくないニュースであったが、同時にアトラスに関する基礎情報は諜報部の方で入手が出来たのだ。
諜報部やフランス科学アカデミーによる分析では、アトラスの大部分が蒸気機関を使用して得られる気圧や熱を利用して動かしているという。
理論上は設計・運用が可能なのだが、蒸気機関車のような複雑な操作が必要らしく、このアトラスを動かす要員だけでも5人が必要らしい。
それでいて、銃座となるような場所に兵士を4人、操縦士を1人加えると、おおよそ10人で動かすという。
……ちょっと兵器としては野砲などの兵器を持っていない歩兵に対しては脅威であり、特に正面に関しては城門等で使われる分厚い鉄や木などで防御されており、歩兵のマスケット銃では破壊するのは困難だ。
しかし、当初この兵器は恐ろしいものだと考えていたが、破壊されたアトラスを現地の国土管理局の調査員が調べたところ、想定していたよりも脆いことが判明。
特に四つ足歩行兵器なのだが側面攻撃には弱く、城門を丸太のような長い棒を突っ込ませる破城槌のようなものを足元に突っ込ませるだけで横転するらしい。
これは平原や市街地において正面で激突したり制圧することを想定して設計された兵器ということもあり、正面への防御が固く、側面攻撃に対してはかなり脆いという。
「一時はどうなることかと思っていたが……対策が見えてきて良かった……これで一安心かな」
アトラスへの対策もマニュアルが作られており、まだ北米連合軍が占領を続けているキューバやバハマ諸島の奪還が完了次第、北米連合を交渉のテーブルに着かせる。
少なくとも、人種や肌の違いを乗り越えてフランス人として成功モデルとして作っていたサン=ドマングの経済を滅茶苦茶にした責任はキッチリ取らせなければならない。
……でなければ、身を挺して人々を守った軍人や郷土防衛隊の人達が浮かばれない。
その決意を胸にしていたところ、デオンから緊急の知らせが入ってきた。
前世の祖国、日本において浅間山が大噴火を起こし、上野国の大部分が壊滅したというものであった。