表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

428/1022

426:私掠

今現在、地図を確認しているが……こちらに届いている戦況は概ねフランス側の徹底した防衛によってサン=ドマング南部の防衛に成功している。

これは既に確認済みの情報だ。

また、サン=ドマングの知事を務めているトゥーサンと補佐官のカンバセレスの無事も確認された。

庁舎に砲撃が当たったことによって混乱が生じ、陸軍守備隊が郷土防衛隊のエスコートを受けて南部のポルトーフランス(旧県庁所在地)に退避することに成功した。


この話を聞いた時には正直ホッとしたのだ。

何せ、フランスでは初の黒人知事なのだ。

恐らくヨーロッパでも初めてだと思う……記憶にある限りでは。

長らく奴隷制の名の下に抑圧されていた人々だが、今では奴隷廃止と共に市民権を獲得した大事なフランス人でもある。

そうした中で、教養があり黒人だけではなく白人や混血の人からも厚い支持を受けているトゥーサンが生きていたことは本当に良かったのだ。


彼が北米連合による攻撃によって死亡した……という事態になれば、確実に戦争が泥沼化してしまうだろう。

特に、侵略を受けているサン=ドマングの人たちにとって、トゥーサンという存在は既に奴隷廃止の象徴として語り継がれるレベルの人材だ。

黒人の人たちからしたら、将来目指すべき人として真っ先に尊敬の念が込められているぐらいには支持を集めている。


万が一、トゥーサンが死亡していたら今度こそ北米連合との全面戦争も決断しなければならないと思っていた程だ。

それだけに安否確認をするまでハラハラしていたものだ……無事で良かった。

……だが、良かったとはいえ、サン=ドマングにおける北部の主要な港町は全て北米連合軍による攻撃によって占領されている状態だ。


(戦力比ではこちらが多いが……相手は実戦経験が豊富な民兵集団か……こちらとしてもやりづらい相手だな……)


国土管理局の外地管理部による調査では、侵攻してきた北米連合の推定兵力は6月1日時点で約8000人……約二個師団規模の兵力を彼らは投入してきたのだ。

それもタダの案山子ではなく、新大陸動乱において練度と兵力に勝っていたグレートブリテン王国の兵士達を追い掛け回して皆殺しにしたとまで言われている民兵組織の構成員が多くいるという。

正規兵よりも勝るとまで言わしめた狂犬のような兵士達による占領であることからか、荒っぽい手段で現地から物品などを徴収しているようだ。


これに対抗するために、陸軍守備隊や海軍海兵隊だけでなく、現地の一般市民からも志願兵を募っており、政府公認の民兵組織である郷土防衛隊も加わっているので現地は兵力の再編成を実施して侵攻してきた北米連合を迎え撃つ。

これに加えて海軍のシャルルマーニュ級フリゲート艦で構成された先遣隊による支援物資の積み下ろしやポルトーフランス周辺の制海権の確保をしている。

既にサン=ドマング南部の沖合では海戦が勃発しており、小回りが利くフランスのフリゲート艦が北米連合の旧グレートブリテン王国海軍所属の戦列艦4隻の撃沈に成功しているそうだ。


これに加えて、スペイン海軍やネーデルラント海軍との合同で武装商船……敵国の民間商船の襲撃を国が許可した私掠船(海賊船)に動員令が下された。

彼らは欧州協定機構加盟国で構成された旗を掲げており、海軍戦力として参加することになっている。

私掠船による北米連合所属の民間船や軍艦への襲撃が許可される代わりに、私掠船には必ず海軍兵士4名を搭乗させる決まりも作ったのだ。

好き勝手に私掠船で同盟国の船にまで襲っていましたとなれば後々になって国際的にマズいからね。


スペインとか私掠船に手ひどくやられて苦い経験を持っているからね……。

最も有名なエピソードでいえば、当時無敵と謳われたスペイン無敵艦隊を撃滅したうえに、当時のグレートブリテン王国の国家予算以上の金銀財宝を持ち帰ったグレートブリテン王国でのフランシス・ドレークが有名だろう。


かの日本国内で有名なファンタジーゲームでは性転換しているが、彼には架空戦記ではないかと疑うレベルで武勇のエピソードが多すぎて本当にスゴイ人物だ。

未だに私掠船といえば、ドレークの事を現すことも多く、彼に関する資料などもヴェルサイユ宮殿に存在しているほどだ。


またスペイン無敵艦隊を撃滅したのは今から200年前の16世紀の話ではあるが、200年経過してもまだ私掠船は健在であり、欧州協定機構加盟国全体での私掠船の数は軽く見積もって千隻以上存在している。

沿岸の海域を航行する小型のもあれば、大西洋だけでなく世界一周も実現可能な大型船も私掠船として兵器などを搭載できるようになっている。


この私掠船の一員に元グレートブリテン王国海軍艦長兼冒険家として欧州でその名を知らない者はいない程の有名人であるジェームズ・クックも参加している。

グレートブリテン王国内戦時にフランス南部に、レゾリューション号と共に退避していたのだ。

現在フランスの保護に入っていたが、サン=ドマングでの戦闘発生の報と同時に私掠船要員の動員を掛けた際に彼も志願してきたのだ。


祖国がすでに滅茶苦茶になって帰る状態ではない上に、彼の部下たちのうち残っている者も3分の1に満たない。

大半がグレートブリテン王国の凋落ぶりを見て、見切りをつけてフランス海軍に入隊したり、レゾリューション号以外の民間船に引き抜かれたりしたためだ。


彼にも思う事はあったのだろう。

ただ黙っているだけはなく、彼自身出来る限りのことはしたようだ。

自分自身を冒険家としてフランス各地で講演会を開いたり、資金援助のカンパなどを募った結果、レゾリューション号のメンテナンスや維持、駐留費などを稼ぐことが出来たのだ。

また、グレートブリテン王国の亡命者の貴族を中心に資金援助を募り、去年の8月下旬ごろにレゾリューション号を私掠船として兵器の搭載可能に改装工事を行っていたらしい。


現在ジェームズ・クックは志願者並びにフランス海軍士官1名、水兵8名を搭乗させて大西洋にて私掠船「レゾリューション号」の艦長として、北米連合の通商破壊作戦に参加しているのだ。

俺の知っている歴史では彼は太平洋の島で原住民によって殺害されたが、こちらではまだまだ存命しているのだから……歴史が変わると生き延びる人もいる……というわけだ。


カプ=フランセの状況も分かっているだけで市街地の5パーセント近くが火災や戦闘による影響で破壊されており、尚且つ現地を占領した北米連合軍による砂糖やコーヒーといったフランスの重要輸出品の略奪行為が平然と行われているという。


ただ、軍事的な侵攻には苦戦しているようで、フランス側も徹底した遅延戦術を駆使して進撃を食い止めているようだ。

特に、山間部での傾斜地に連なっている道路などを爆薬で破壊して、北米連合の進軍を抑えているという。


元々サン=ドマングという土地は山間部が多い……ハイチも土地の高低差を活かしたコーヒー栽培による産業で財を成してきた歴史があるように、1000メートル級の山々が連なっている地域が多いのだ。

重量の重たい攻城砲などの輸送も苦労するし、何よりも高地にある城砦の攻略に手間取っているようだ。

これからドンドンと送り込まれているし、増援が到着すれば逆転できるだろう。


(あとはこちら側の切り札かな……音もなく忍び寄り、静かに敵を混乱させる……目立たない、だが、それ故に強力な切り札の投入……これしかない)


そして国土管理局からはアンソニーとジャンヌを中心としたベテランの諜報員が既に潜入しており、北米連合軍の後方補給路の遮断並びに戦略物資破壊の為に行動を開始している。

敵の占領下にあったロンドンにて化学総合開発局を爆破したりと破壊工作に実績のある国土管理局外地管理部のメンバーを選出している。


(今回はオーストリアが武器・兵器の共有化によって最新鋭の武器を無償で供与してくれたお陰で作戦も捗りそうだ……彼らの手腕に期待しよう)


今回の作戦ではオーストリアから12挺程最新鋭の武器を供与してもらったのだ。

この時代では最高の隠密武器ともいえるサイレンサー機能を搭載したジランドーニ空気銃を使い、カプ=フランセへの浸透を図っているのだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

☆2020年9月15日に一二三書房様のレーベル、サーガフォレスト様より第一巻が発売されます。下記の書報詳細ページを経由してアマゾン予約ページにいけます☆

書報詳細ページ

― 新着の感想 ―
[良い点] ナポレオンとその仲間達での大活躍の時代かと思いますが、(多分)一人も出さずにここまで構成されている点が、素晴らしく思います。 [気になる点] とは言っても、ナポレオンとその仲間達(味方⇒敵…
[一言] >かの日本国内で有名なファンタジーゲームでは性転換しているが、 有名?知りませんが
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ