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421:撃滅論

★ ☆ ★


……今日、初めてオーギュスト様が心の底から怒っているのを感じました。

普段温和な性格で、娘や息子の面倒をよく見てくれる優しい夫が、初めて眉間に皺を寄せ、拳を握りしめて今回の北米連合の暴挙に毅然とした態度で対応を行うと周辺国と協力体制を確立しました。

しかし、サン=ドマングだけではなく、キューバといったスペインの植民地も北米連合に攻撃されたことで欧州協定機構加盟国対北米連合という旧大陸と新大陸国家による戦争に発展するのは避けられないでしょう。


おまけに、今回は北米連合は宣戦布告なしに突然攻撃したわけですから印象は最悪です。

それまで関係こそは険悪ではありませんでしたが、あまり良い印象はありませんでした。

ル・マンの蒸気機関工場の元オルレアン派だったレヴァン元男爵夫人による蒸気機関盗難事件の際には、彼女の身柄引き渡しを拒否しましたし、それが原因で新大陸での貿易関係も控えるようになりました。

期待されていた貿易も、北米連合側に技術などが漏洩されてしまう恐れがあるという理由で国家間による大規模な取引はお流れとなり、結果的に個人間での小規模な貿易に留まることになったのです。


ですが、北米連合による攻撃で状況は一変しました。

まず彼らは、サン=ドマングの首都にいきなり砲撃による攻撃を仕掛けてきたのです。

宣戦布告もなしに、こちら側が法に則った手続きをしている最中に攻撃をし、さらに周辺の島々にも上陸を行ったという情報が入ってきていますから、以前から計画されていたのでしょう。

北米に潜入している諜報員の情報をもってしても、大規模な攻撃の兆候は見られなかった……それだけに、この一連の攻撃によってそれまでオーギュスト様が手塩に掛けて育ててきたサン=ドマングの経済基盤を一気に破壊されかねない状態になっているのです。


言わば、国家ぐるみの押し入り強盗状態となっているのです。

こればかりはさすがのオーギュスト様でもお怒りになります。

そして、低い声のまま会議にいる全ての人に、ある提案をしてきたのです。


「今回……北米連合によって我が国をはじめ、スペインや各島で貿易を行っている欧州各国は現時点だけでも多大な損害を被った……彼らはそれらの損害を被ることを前提として行動を起こしたのだ。……であれば、我々としてもそれ相応の反撃を起こしても構わないというわけだ……我々は国家としてこのような行為を見逃すわけにはいかない。徹底的に叩くぞ……軍事的・経済的に北米連合が二度と我々に手出しを出来ないようにしてやる……」


オーギュスト様の口から怒りの籠った声でそう語りかけるように提案してきたのは、北米連合を軍事的・経済的に懲らしめるというものでした。

詳細を少しずつ語ってくれましたが、軍事的な懲罰行動としてカリブ海に近い北米連合の南部の軍港や造船所を中心に破壊できるように、マイソールロケットを使うことを進言したのです。


「我が国には他国が保有していない長距離攻撃兵器を保有している……臼砲艦ですら到達できない長距離から一方的に破壊できる切り札たる兵器がな……クロード」

「はいっ!」

「現在保有している『改良型花火』の在庫はどのくらいある?他国の大使も公人もいるが、この場において俺が許可する。報告してくれ」

「はっ……先月3月分になりますが、工場で増産している分を含めると全弾8万発を保有しております。うち陸軍が5万7千、海軍の艦艇用に納品しているのが2万3千発です」

「ふむ……かの国の軍事物資集積地帯に打撃を与えるには十分な数が揃っているようだな……先遣隊は持っていないが、後続部隊には全軍で保有している改良型花火の半分を投射してきてほしい。もちろん、投射するのは爆薬量の多い3番弾と、()()()()()5番弾を使って徹底的に破壊して欲しい……」

「はっ……半分でございますか?!」


その言葉で会場がざわつきました。

無理もございません。

マイソールロケットはロンドンの戦いにおいて、その有効性が実証されたために各国から警戒されている我が国の兵器です。

その切り札ともいえる兵器の半数を使って、北米連合の主要な軍事物資集積地帯の徹底した破壊を行うように命じました。


「ああ、中途半端な攻撃では反って相手は調子に乗り出すものだ。まだ戦える。まだ負けてはいないと思うからな……そのようなことを思わせないためにもフランスとしては北米連合の軍事物資集積施設となっている主要な港湾を徹底的に叩く必要がある。基礎から直さなければならないぐらいに海軍の補給基地及び沿岸部の集積施設を破壊すれば、相手は攻撃する手段がないからな……やる時は、徹底して叩くのが一番だ……そのための改良型花火だろう?」


それまでは沿岸地域の攻撃手段といえば大きな口が開いている臼砲というものを使って攻撃していました。

沢山爆薬を敷き詰めて砲弾を放つ……フランスには臼砲艦を複数持っていましたが、マイソールロケットの登場によって全てが一変しました。

臼砲よりも高い威力を持ち、尚且つ広範囲に被害を与える兵器です。

そのマイソールロケットを中心とした遠距離攻撃に特化した部隊を艦隊から攻撃するというものでした。


「余としても北米連合の行動には残念で他ならない。我が国の主権を踏みにじり、あまつさえ友邦のスペイン領にも攻撃してきているのだからな……いいか、軍事物資集積施設と軍事基地、要塞を破壊せよ。人口密集地における民間施設への攻撃は可能な限り避けよ」

「御意ッ!」


クロード氏が頭を下げてオーギュスト様の命令を実行に移すそうです。

彼はあくまでも陸軍大臣ですが、海軍とは共同で作戦を遂行するために臼砲台を撤去して、陸軍向けのマイソールロケット発射台などを増設して対処するようです。

取り付けも短時間で行えるので、行動には支障はないでしょう。

今回は沿岸部を占領せずに、軍事施設を中心に破壊をするようです。

あくまでも民間人には攻撃を避けるようにご命令してくださって何よりでした……。


「軍事基地……尤も、海上を移動できないようにすればこちらも被害は軽減されるし、守りの箇所が分かっている以上は深入りしないほうが良い。とはいえだ……彼らは我々の生活圏を踏みにじり、おまけに奴隷貿易を正当化して攻撃を行ったという暴挙がハッキリしているんだ。南部州による暴走でしたから許される問題ではない……やられたらやり返す。そして、自分達が行ったやり方で攻撃を行うのだ……」


グラスに注がれた水をゆっくりと飲んでおりますが、すでにお水を5杯もおかわりしているのです。

怒りを治めるために水を飲み、ゆっくりと息を吐いてから財務長官ネッケル氏と司法長官のコンドルセ氏の両氏にある事を尋ねました。


「ネッケル、コンドルセ……今回の一件に伴う我が国を含めた周辺国の実害損失と経済的損失を割り出してから正式に北米連合側に突き出せる公的な請求書を策定して欲しい。国際法上を照らし合わせても問題ない範囲でな……」

「はっ!それを賠償金として請求するのですか?」

「勿論だ。もっとも、これは戦いが終わってから請求をしなければならない。現時点ではまだ何とも言えないが、状況からしてサン=ドマング北部を中心に建設していた工場や蒸留酒造場も少なくない被害を出しているだろう……我が国としてもサン=ドマングの経済力からもたらされる収益は国全体の1割を占めている大変重要な場所だ。その経済産業基盤に傷を付けてきたのであれば、補填と賠償をするのが国として行うべき責務だ。その責務を北米連合に分からせてやるつもりだ」


マイソールロケットによる攻撃。

そして経済面でおける賠償請求……。

我々としても山賊みたいに突然襲い掛かって奪い去っていく北米連合の行いには我慢なりません。

会議に参加していた大使や公人の方々もオーギュスト様の発言に頷いていました。


「独立してまだ10年も経っていない新興国家だが、かのグレートブリテン王国が手塩に掛けて育てた地域だ……かの地域の経済力は今ではネーデルラントに匹敵すると言われているぞ。それに、北米複合産業共同体という企業国家の経済力を合わせれば、ここの会議に参加している加盟国全部を合わせた数に匹敵するだろう……どの道、かの国とは一度戦火を交えないといけないからな……」


まるで何かを悟ったかのようにオーギュスト様はつぶやきました。

荒れ狂う戦争という名の嵐……。

その嵐はまだ始まったばかりなのです……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 覚悟が決まった主人公。ロケット兵器の他に北米大陸の先住民を援助しましょう。
[一言] これは襲撃してきている北米連合サイドの話 花火を受ける時の北米連合サイドの話とか見てみたくなる展開
[一言] ≫そもそも〜 合衆国じゃ無くて企業国家と連合国だから色々変わってるのでは?
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